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第一章 楼桑からの使者

3-②

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「すべてはヴァビロン帝国が発端なのじゃ」

「姫との縁組の話はいつ──」
「ちょうど半年ほど前に、唐突にしかも強硬な態度で迫ってきおった。それに相手は名家ロッキンガム大公家の公子とは申せ、まだ十歳の幼児だという。なんとも理にかなわぬ話しであろう。嫁に娶るとは表面だけでその実、体のいい人質同然。そうは思われぬかガリフォン殿」

「いかにも、降って湧いたような話しとしか思えぬ。ヴァビロンの真意がどこにあるのかを見極めるが肝心だな」
「この期に及んで駆け引きをしておる場合ではござらぬゆえ、わが主と儂を含めた、もっとも信頼のおける側近たちとで考え抜いて導き出した答えを忌憚なくお聞かせ致そう。あくまで憶測の域を出ぬ話しじゃが――」
 ガンツはそう前置きすると、ロルカ王の考えを語り始めた。

「これはヴァビロン帝国が本腰を入れて、大陸統一に動き出した第一歩なのではないかということじゃ。懐柔や調略に乗ると読んだ国には、耳に心地よい餌で釣り、はなから手に乗らぬとわかっている国は、強大な武力で屈服させる。どちらにせよ行き着く先は、ヴァビロン帝国に滅ぼされるか属国として甘んじるか二つに一つ。わが楼桑は、ヴァビロンからくみしやすい国と判断されたのであろう。しかし貴国は小国なれど武勇で鳴らす国柄、ゆえに甘言は効かぬと見越しておるに違いない。ここでヴァビロンと縁組でもしてしまえば、わが楼桑国は早々に属国とされた上に、隣国であるサイレン攻めの先方に使われるは必定。ロルカ王はそう踏んでおられる」
 ガリフォンは目を瞑ったまま、しばらく言葉を発しなかった。

 そして自らの考えがまとまったとでも言わんばかりの、静かではあるが確たる表情でアルバートに微笑いかけた。

「ふははっ。巨魁、ライディン・ド=マーベル」
 ただ一言そう応えた。


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