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序 章  業火転生變(一) 新免武蔵

3 詩篇天魔・異界転生 一(鹿賀・武蔵)『鹿賀』⑧

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 小さな玄関に入るなり二人はもどかしげに服を脱ぎ始め、窓際のシングルベッドに横たわったときには互いに全裸だった。
 玄関から点々と服や下着が散乱している。

 まるで獣になったかのようにむしゃぶり合い、本能の赴くまま相手の肉体を堪能する。
 相手に覆い被さった華菜は雅樹の顔に潤った下半身を押し当て、自分は固く聳えるものを躊躇いなく口に含む。
 激しい腔技に若い雅樹は熱く濡れた女の芯に舌を這わせながら、ひとたまりもなく果てた。
 その時雅樹は絶頂のあまり、華菜の小さな突起を強く噛んでしまった。

〝あびっ、じぬぅ(あひっ、死ぬぅ)〟
 男を咥えているため、華菜の口からは歪な言葉しか出てこない。
 強烈な痛みと快感が、身体中を突き抜け脳が痙攣した。

〝ごくり〟
 それでも口を離すことなく、沸騰するような迸りを喉を鳴らし飲み干した。
 一度果てたくらいで雅樹は、萎えることはなかった。
 それから連続二回、女の中に欲望を放つ。
 それでも収まらず、三度目の行為を続けた。

「ああっ、いいぞハナ・・・」
 雅樹は必死に絶頂を耐えている。
「善ぃ、いいわ雅樹。ハナ逝っちゃう、ああん」
 華菜も今夜なん度目かの、その瞬間を迎えようとしていた。


 それまで真っ暗だった室内に、いきなり煌々と目を刺すような蛍光灯の真っ白い光が溢れた。
 突然のことに状況が理解できない二人は、繋がったまま動きを止める。

「駄目じゃないか、寝るときはドアの鍵を閉めなくっちゃ。物騒な世の中だというのに、安全意識が足りないなぁ。悪い人が入って来ちゃうだろ」
 抑揚のない声が聞こえた。

 まぶしさに目を細めながら、二人は声のする方を見る。
 そこには顔から全身に渡って、夥しい血に染まった男が立っていた。
 その顔は、無表情に嗤っている。

「きゃーっ」
 反射的に華菜が悲鳴をあげる。
「うるさい黙れ!」
 苛ついた顔で男はしゃがみ込み、大きく空いた華菜の口中へ刃物を突き立てる。
 悲鳴は一瞬で収まった。

〝ごふっ〟
 刃物を引き抜かれた華菜が、最期の息で一度だけせた。
〝こぽこぽ、こぽっ〟
 腔中から血が噴き上がり、雅樹の顔を汚す。

「痛たたたたー、痛い、痛いいー」
 雅樹が絶叫した。
 華菜の中に挿入したままになっていた根元が、異様な力で圧を受け経験した事のない痛みが襲ったのである。
 鹿賀は突然苦しみだした雅樹を怪訝な目で見ていたが、やがてニヤニヤとし出す。

「ははは。このアマ今際いまわきわに膣痙攣起こしやがったぞ」
 結合部を確認した鹿賀が、痛がっている雅樹に言う。

「どうにかしてください、痛い、痛いよお」
 懇願する雅樹に対し、鹿賀が優しく訊いてくる。
「痛いか? そりゃ痛いだろうな、でもこりゃ抜けないぞ。女は死んじまってるし、一生このままだな」
 犬の交尾を途中で引き離すのには水をかけたりするが、膣痙攣と犬の瘤が抜けないのとではそもそもの原理が違う。

「なんなら俺が離してやろうか? どうだ俺に任せるかい」
「た、頼みます。お願いします」
 雅樹がコクコクと頷く。

「待ってろよ、すぐに楽にしてやる」
 華菜を絶命させたばかりのナイフを煌めかせ、鹿賀が結合部へそれを近づけてゆく。
「うわあぁ、なにすんだよ。やめろ、やめえくれー」
 鹿賀の真意を理解した雅樹が泣き叫ぶ。

「いまさら遅えよ、お前が頼んだんだろ」
 言いながら、二人の陰部の合わせ目にナイフを宛がい、一気に引いた。
 陰茎を切り飛ばしたのである。

「うぎゃあー」
 血まみれの股間を押さえながら、大声を挙げ雅樹が転がりまくる。
「だからうるさいんだよ、黙ってろ」
 土足で上がり込んでいた鹿賀は、靴底で思いっきり雅樹の顔を踏み潰した。

〝ぐわしゃっ〟
 異様な音を立てて顔面が陥没し、左の眼球が飛び出した。
 雅樹の身体はしばらくの間ピクピクと痙攣を繰り返していたが、やがて動かなくなった。


 鹿賀はこの部屋でシャワーを浴び、タンスを漁って下着から何からなにまでを一新した。
 二十代前半である雅樹のいま流行の衣類を着た鹿賀の格好は、まったくの別人となった。
 おまけにキャップまで被っては、誰もこの男が鹿賀だとは思うまい。

 もう夜は完全に明けきり、巷では朝特有の忙しげに行き交う通勤や通学の人々の姿で溢れている。
 こうして鹿賀は、最終犯行現場となる建物へ地獄を再現するため歩き出した。

 その地獄の場所とは『江東運転免許試験場』であった。

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