好きな人の好きな人

3

着いた先は有名な全国チェーン店の居酒屋だ。
店の前に着くと、看板を眺めながら恭弥は菫に問いかける。


「あのさ、まじでこんなとこでいいの？
この辺ならバーとかもたくさんあるよ？」

「ううん、ずっとここに行ってみたかったの！」


友達のいない菫は成人してからも居酒屋にくるような機会がなかったが、外から店の中を眺めると大人達は楽しそうに酒を飲んだり、美味しそうな料理を食べているところを見て憧れを持った。

だけど、1人で行ける勇気もないし、蒴も疲れているだろうから外に連れ出すのは気が引けていた。


「じゃあ、入りますか」


恭弥の後に続いて店の中に入ると、個室に案内される。辺りを見わたしながら憧れだったこの活気を味わえて少し大人になったような気分だった。

狭い個室で向かい合って座り、メニューを渡される。


「菫、今日酒飲むの？」

「飲むよ！今日はもうお酒で発散してやる」

「はいはい、悪い酔いしないようにね」


蒴ならすぐに止めるであろう行為も恭弥は受け入れてくれる。
恭弥は店員を呼ぶと菫が選んだカシスオレンジとビールを注文した。


「ねえねえ、カシスオレンジ？って美味しい？」

「頼んでからそれ言う？まあ、ジュースみたいで飲みやすいから気をつけて、菫は調子乗って飲み過ぎそうだから。」

「またそうやって馬鹿にする」

「馬鹿になんかしてないっしょ
俺も学生の頃、調子乗って飲んでたら普通に酔ったことあるから」


そんな忠告を受けて1時間後。　　


「蒴ちゃんなんてもう知らない！
私の方が蒴ちゃんのことわかってるもん
あの人よりわかってるもん。なのに、蒴ちゃんは私じゃないあの人を選んだんだよ…」

「うん
確かに1番近くにいたのは菫だったね」


恭弥はビールジョッキを片手に持ち頬杖をつきながらだんだん酔いの回ってきた菫を眺める。

菫は酒の勢いもあってか、今まで蒴との間であったことを恭弥に包み隠さず話した。

恭弥はあまり口を挟むことなく、ひたすら菫の話に耳を傾ける。