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愛してる
しおりを挟む「伊織様、おかえりなさいませ
今日はご帰宅が早かったのですね」
「こんなキャンキャンうるさい犬が2匹もおったら、恵麻ちゃん1人じゃ耐えられんやろ」
伊織は鬱陶しげな顔をしながら、両脇に暴れる奏と祐を抱えている。
「犬じゃない!!僕は母様のこんやくしゃです!!」
「ぼ、僕だって!」
婚約者なんて言葉をどこで覚えてきたのかわからないが、2人の言動に恵麻は思わず笑みを浮かべてしまう。
可愛い息子2人に婚約者にされるなんて、光栄なことだ。
「こら、アホども
恵麻ちゃんの旦那はこの俺やぞ
何度も言ってるやろ、ええ加減に理解しろや。だから子供なんていらんねん。俺の恵麻ちゃんは俺が一生独占しとればええのに」
伊織のそんな子供ぽい発言に恵麻は少し笑ってしまう。
「伊織様、2人は母親に対する独占欲で言っているのです
本気ではないと思うので許してあげてください」
「誰が許すか
この前だってあのガキ共、恵麻ちゃんにキスしようとしてたやん」
伊織は自分の子供でさえも、恵麻を取ろうとするものは許さないため、よく双子とも恵麻の取り合いで大人気ない対応をとる。
伊織は双子を交互に睨みつけると、目の前にいる恵麻に近くにこいと言って、顔を近づけると熱い口づけを送る。
長い口付けから解放されると、伊織は得意げに息子たちを見る。
「お前ら息子やからできへんなあ
かわいそうに。俺は旦那やからできるけど」
双子はそんな言葉に頰を膨らませる。
恵麻は子供の前だからやめてほしいと伊織に告げたことがあるが、恵麻を前にして欲求は抑えられないため情事以外は子供の前だろうと遠慮なくすると即座に却下された。
一応の配慮として恵麻は両手を伊織の頬に添えて口元を隠し、双子からは見えないようにキスをする。
「積極的な恵麻ちゃんもかわええなあ
あかん、ほんまにかわええ。それは誘ってるってことやろ?」
「あ、いや!そういうことじゃなくてっ」
恵麻の耳元に低い声で囁くと、耳にちゅっと軽い音を立てて口づけをされる。
「おら、ガキども
遊ぶんならあっちで遊んでこいや
恵麻ちゃんばっかにかまってもらってるんとちゃうぞ」
伊織が腕から2人を下ろすと、勢いよく伊織が指差した方へと駆け出していく。
「あの、伊織様…
これから家庭教師の方がいらっしゃるのですが…?」
「だから何やねん
子供は遊ぶのが本業やろ」
伊織は双子に荒っぽい言葉を吐くものの、秀仁と同様なんだかんだ甘い。
遠出をするような仕事だと、大量の袋を抱えて中身を確認すると子供たちが好きそうなお菓子、洋服、おもちゃ等が詰め込まれている。
恵麻がそれについて聞こうとすると、子供たちを連れてどこかに出かけてしまうため、親子で愛情表現がよく似ている。
双子が部屋に駆け出していく背中を見ながら、恵麻は口元に笑みを浮かべる。
「恵麻ちゃん、何笑ってるん?」
「とても幸せだと感じていました
伊織様に子供たちに愛しているものに囲まれてとても心が満たされています」
言葉を聞き、伊織は恵麻の手を握り結婚指輪のついた左の手の薬指を指の腹で撫でる。
「恵麻ちゃん」
「はい?」
「1番は絶対に俺やから」
「へ??」
「ガキどもを1番にしたらあかんよ
俺の1番も恵麻ちゃんにあげるわ」
伊織は恵麻から顔を逸らすも、髪の隙間から見えた耳は真っ赤に染まっていた。
恵麻はそんな伊織に静かに抱きつき胸元に顔を預けると、伊織はその背中に腕を回した。
「伊織様、愛しています」
「なあ」
「はい、何ですか?」
「俺も…その……ぃしてる…」
「なんですか?」
「だから愛してるっとんねん!!」
伊織は恵麻の頰を両手で包み込み、真っ直ぐ目を見て告げた。伊織の頰は恵麻が今まで見たことないくらいに赤く染まっている。
恵麻もその言葉に、恵麻は白い頬を赤く染めた。
胸元から視線を上げると、2人の視線がぶつかり合い自然と唇を交わした。
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