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第一章:そして彼女は賢者と出逢う
お嬢様の決断
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さっきから色々とありすぎた頭がぐるぐる回る。
召喚魔法は高い壁をよじ登るような感じで、わたしが伸ばした契約を取らないと『向こう側』に落ちてしまうはず。
だから召喚した瞬間に、契約は勝手に結ばれいるはず……それができていない?
だったらどうやってこちら側に居られるの?
――そもそも本当に召喚獣なのかしら?
黙ってしまったわたしは、考えの渦から抜け出せない。
「混乱しているようだから簡単に説明しよう。
召喚は成され、契約も繋いだ……が、残念ながらそれは表面上のものでしかない」
「表面上? え、でも契約はしたって……」
「この世界に居るためには必要な楔だからね。
けれど魔力供給はおろか、本質である制約も課されていない。『私は何を望まれたのか』と先ほど訊いたろう?」
「あ、はい。そんなことを訊かれるとは思ってませんでしたが……」
「普通なら目的を持って召喚する。それが例え『人に見せびらかしたい』というものでも、だ。
しかし君が描いたものは『召喚する』ことだけで、制限らしいものもな……いや、一週間という期限はあるようだね。
逆に言うと、その期限内であれば私は何をしても自由であり、それこそ召喚魔法の最大の禁忌である『術者の殺害』であっても可能だ」
「―――っ!!」
優しそうな雰囲気から一転、細めた目に冷たい色を感じて一気に総毛立つ。
命を握られている感覚に目が離せない。
逃げなきゃ……そう思っても足はついてこない。
それどころか相反する心と身体がバランスを崩して尻餅をついてしまった。
「といった事柄を教訓として心に刻めば、君はこの先伸びるだろうね」
厳しい表情を解いてにこやかになった殿方を呆然と見上げる。
「きょ、うくん?」
「君を見ていると非常に危なっかしいのだよ。
無から有を生み出す執念、比類なき発想、並外れた集中力、そして目的のために努力を惜しまない姿勢。
そんな他者が羨み、渇望する『才能』を、君はその若さで体現し、しかも実現した実績までこぎつけてしまった」
「わたしに才能がある?」
「あるとも。それは私を召喚したことで証明されている。
才能は主に『費やした時間に対する成果』を言うが、君は何においても他者を凌駕するだろう」
「何故そんなことが言い切れるのですか?」
「『執念を実らせるための発想と集中力を持つ努力家』だと先に挙げたろう?
君は根本的に『時間の感覚』が他者とは違うのだよ。
雑念を排除し、それのみに集中するために同じ時間でも必ず一歩前に抜きん出る。
だからこそ、とでも言うべきか……君は余りにも『他』を顧みず、多くの隙を残したまま常に前を見続ける」
「うっ……」
思わず詰まるのは、周りに迷惑を掛けたことが多々あるからです。
学園に入るためにやったアレコレも記憶の奥から顔をのぞかせ……いえ、今は蓋をしておきましょう。
「思い当たることがあるようだね?」
「は、はい……」
「その隙は、これまで何とか蓋をしてこれただけで、これからも同じとは限らない。
今回のように死ぬ思いでもしなくては、人が意識して変わることは難しいからね」
「で、では……わたしのことを考えて?」
「いくら稀有な才能を持ち得ても、育てる土壌が無くては枯れてしまう。
だから支えてくれている周囲が居る君はとても恵まれているはずだ。
けれど君の才能を世話をする者が居ないのも事実だろう……でなくては『こんな危険なこと』を許すはずがない」
「先生には……いえ、家族にも見放されています」
落ち着いたわたしに出された手を握り、立ち上がりながら溜めていたものが溢れ出します。
召喚主の生殺与奪を握っているにも関わらず、教訓と言って忠告してくれる優しい殿方に。
「見放されている、とは穏やかではない表現だね?」
「わたしには魔力がありません」
「ふむ?」
「けれどわたしは優秀な魔法士を出す家系の生まれなのです」
「なるほど、大体の事情は把握できた。
君は上位貴族だが、魔法が使えないせいで冷遇されているのか」
「何故貴族だと?」
「それぞれの素材はともかく、これらをすべて集めるのは一般人にはほぼ不可能だ。
『先生』というのも、学び舎や家庭教師を付けるにはかなりの資金が必要だ。
その点、利に聡い商人は趣味で子供に学ばせることはないだろう。
加えて、君以外に居ない屋敷と、これまで起こしているであろう問題を封じ込めて来れたのも権力者であるからだね」
周囲に散らばる素材や資料を見渡して推論を組み立てているようですが、何というか……的確過ぎて恐ろしい。
初対面のはずなのに、いろいろと見透かされすぎではありませんか?
「す、すごい洞察力ですね……?」
「なに、君も大人になればできるようになるさ。ともあれ、師にも恵まれていないようで勿体ないね」
「いえ……わたしの欠陥のせい……です」
わたしはティアナ=ミュラー=ヴァルプルギス、と自己紹介を始めました。
王家に列なるヴァルプルギス家の末っ子であり、優秀な魔法士を輩出する家系で、魔力がなくて苦労していること。
家族ともぎくしゃくして、全寮制の魔法学園に入ったこと。
実技がどうにもならず、留年か退学かを迫られていること。
どうにもならない現実をひっくり返すために、様々な資料や道具で入念な準備をして召喚魔法に臨んだこと。
その結果が召喚契約を失敗している現在であること。
「大体の事情は把握できたよ。そして『欠陥』と称して魔力が少ないことを克服していないことも、だ」
「少ない? ゼロではなく?」
年上の殿方が、目線を合わせて真剣な表情でジッとわたしを見つめてきます。
思わず視線を逸らせてしまいますが、失礼かと思って戻すと変わらず真剣な目は変わらずそこにありました。
何を見ているのか、何を思っているのか……ドキドキと鼓動が早くなるのを抑えられません。
「……魔力を持たない者は極稀に居るが、その多くは『少なくて感じられない』ことに起因する。
しかし君は『召喚魔法』を行使してのけた……改めて見たが、小さくとも魔力は持っているように感じるが……」
「では!」
「あぁ、君は師を持たずして独力で私を召喚している。
やはり君ではなく、師が悪い……いや、魔力をゼロだと判断した世界かもしれないね」
「思いつきました」
「何を?」
「召喚の目的です」
「ほう? 契約で縛れないのに?」
また彼が意地悪なことを言ってきますが関係ありません。
わたしには新しい目的、目標ができたのです。
それにはこの殿方には是非付き合ってもらわないと!
「わたしの魔法の先生になってください!」
わたしは胸を張って宣言しました。
召喚魔法は高い壁をよじ登るような感じで、わたしが伸ばした契約を取らないと『向こう側』に落ちてしまうはず。
だから召喚した瞬間に、契約は勝手に結ばれいるはず……それができていない?
だったらどうやってこちら側に居られるの?
――そもそも本当に召喚獣なのかしら?
黙ってしまったわたしは、考えの渦から抜け出せない。
「混乱しているようだから簡単に説明しよう。
召喚は成され、契約も繋いだ……が、残念ながらそれは表面上のものでしかない」
「表面上? え、でも契約はしたって……」
「この世界に居るためには必要な楔だからね。
けれど魔力供給はおろか、本質である制約も課されていない。『私は何を望まれたのか』と先ほど訊いたろう?」
「あ、はい。そんなことを訊かれるとは思ってませんでしたが……」
「普通なら目的を持って召喚する。それが例え『人に見せびらかしたい』というものでも、だ。
しかし君が描いたものは『召喚する』ことだけで、制限らしいものもな……いや、一週間という期限はあるようだね。
逆に言うと、その期限内であれば私は何をしても自由であり、それこそ召喚魔法の最大の禁忌である『術者の殺害』であっても可能だ」
「―――っ!!」
優しそうな雰囲気から一転、細めた目に冷たい色を感じて一気に総毛立つ。
命を握られている感覚に目が離せない。
逃げなきゃ……そう思っても足はついてこない。
それどころか相反する心と身体がバランスを崩して尻餅をついてしまった。
「といった事柄を教訓として心に刻めば、君はこの先伸びるだろうね」
厳しい表情を解いてにこやかになった殿方を呆然と見上げる。
「きょ、うくん?」
「君を見ていると非常に危なっかしいのだよ。
無から有を生み出す執念、比類なき発想、並外れた集中力、そして目的のために努力を惜しまない姿勢。
そんな他者が羨み、渇望する『才能』を、君はその若さで体現し、しかも実現した実績までこぎつけてしまった」
「わたしに才能がある?」
「あるとも。それは私を召喚したことで証明されている。
才能は主に『費やした時間に対する成果』を言うが、君は何においても他者を凌駕するだろう」
「何故そんなことが言い切れるのですか?」
「『執念を実らせるための発想と集中力を持つ努力家』だと先に挙げたろう?
君は根本的に『時間の感覚』が他者とは違うのだよ。
雑念を排除し、それのみに集中するために同じ時間でも必ず一歩前に抜きん出る。
だからこそ、とでも言うべきか……君は余りにも『他』を顧みず、多くの隙を残したまま常に前を見続ける」
「うっ……」
思わず詰まるのは、周りに迷惑を掛けたことが多々あるからです。
学園に入るためにやったアレコレも記憶の奥から顔をのぞかせ……いえ、今は蓋をしておきましょう。
「思い当たることがあるようだね?」
「は、はい……」
「その隙は、これまで何とか蓋をしてこれただけで、これからも同じとは限らない。
今回のように死ぬ思いでもしなくては、人が意識して変わることは難しいからね」
「で、では……わたしのことを考えて?」
「いくら稀有な才能を持ち得ても、育てる土壌が無くては枯れてしまう。
だから支えてくれている周囲が居る君はとても恵まれているはずだ。
けれど君の才能を世話をする者が居ないのも事実だろう……でなくては『こんな危険なこと』を許すはずがない」
「先生には……いえ、家族にも見放されています」
落ち着いたわたしに出された手を握り、立ち上がりながら溜めていたものが溢れ出します。
召喚主の生殺与奪を握っているにも関わらず、教訓と言って忠告してくれる優しい殿方に。
「見放されている、とは穏やかではない表現だね?」
「わたしには魔力がありません」
「ふむ?」
「けれどわたしは優秀な魔法士を出す家系の生まれなのです」
「なるほど、大体の事情は把握できた。
君は上位貴族だが、魔法が使えないせいで冷遇されているのか」
「何故貴族だと?」
「それぞれの素材はともかく、これらをすべて集めるのは一般人にはほぼ不可能だ。
『先生』というのも、学び舎や家庭教師を付けるにはかなりの資金が必要だ。
その点、利に聡い商人は趣味で子供に学ばせることはないだろう。
加えて、君以外に居ない屋敷と、これまで起こしているであろう問題を封じ込めて来れたのも権力者であるからだね」
周囲に散らばる素材や資料を見渡して推論を組み立てているようですが、何というか……的確過ぎて恐ろしい。
初対面のはずなのに、いろいろと見透かされすぎではありませんか?
「す、すごい洞察力ですね……?」
「なに、君も大人になればできるようになるさ。ともあれ、師にも恵まれていないようで勿体ないね」
「いえ……わたしの欠陥のせい……です」
わたしはティアナ=ミュラー=ヴァルプルギス、と自己紹介を始めました。
王家に列なるヴァルプルギス家の末っ子であり、優秀な魔法士を輩出する家系で、魔力がなくて苦労していること。
家族ともぎくしゃくして、全寮制の魔法学園に入ったこと。
実技がどうにもならず、留年か退学かを迫られていること。
どうにもならない現実をひっくり返すために、様々な資料や道具で入念な準備をして召喚魔法に臨んだこと。
その結果が召喚契約を失敗している現在であること。
「大体の事情は把握できたよ。そして『欠陥』と称して魔力が少ないことを克服していないことも、だ」
「少ない? ゼロではなく?」
年上の殿方が、目線を合わせて真剣な表情でジッとわたしを見つめてきます。
思わず視線を逸らせてしまいますが、失礼かと思って戻すと変わらず真剣な目は変わらずそこにありました。
何を見ているのか、何を思っているのか……ドキドキと鼓動が早くなるのを抑えられません。
「……魔力を持たない者は極稀に居るが、その多くは『少なくて感じられない』ことに起因する。
しかし君は『召喚魔法』を行使してのけた……改めて見たが、小さくとも魔力は持っているように感じるが……」
「では!」
「あぁ、君は師を持たずして独力で私を召喚している。
やはり君ではなく、師が悪い……いや、魔力をゼロだと判断した世界かもしれないね」
「思いつきました」
「何を?」
「召喚の目的です」
「ほう? 契約で縛れないのに?」
また彼が意地悪なことを言ってきますが関係ありません。
わたしには新しい目的、目標ができたのです。
それにはこの殿方には是非付き合ってもらわないと!
「わたしの魔法の先生になってください!」
わたしは胸を張って宣言しました。
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