片翼の竜

もやしいため

文字の大きさ
上 下
2 / 34
第一幕:双翼の出会い

002回顧録

しおりを挟む
自身のことを振り返る。

この世に生れ落ちた瞬間から一つだった。
産声を上げても周囲には何も居なかった。
けれど単体で生きていけるだけの力は、既に持っていたので問題は無かった。
いや、生存に必要な力よりも遥かに強大な力を持っていることを、何故か生まれながらにして理解していた。
だから今振り返ってみれば最初に知ったのは『孤独』というものだったのかもしれない―――。

最初から一定の知識を持っていた。
周囲は何でできていて、どんな環境であるか。
所有する力を把握し、使用方法を理解し、過不足無く実現することすら、生まれて数時間程で身に付いた。
たとえるならこれは馬が短時間で立ち上がるのと同じような『完成品での誕生』で、そこに掛けた時間は慣らし・・・なのだろう。

我が生を受けたのは、ごつごつとした岩と生物が音を上げるほどの熱を抱える、近くを溶けた岩が流れるような『火山』と呼ばれる極限の土地だった。
苦も無く適応してしまう体躯により、特に移動する必要性も理由も無かった我は、この地を縄張りとしてそのまま棲み着いた。
気が付けば生まれた時に感じたかもしれない孤独感など忘れていた。
いや、他者との交わりが無いのだから、孤独を感じるだけの理由もまた無かったか。

何をするでもなく過ごす我の棲処に、ある日『何か』が訪れた。
『何か』は、我とは似つかぬ姿形をし、さらに言えばかなり小さい。
本能が先行する生物は、我の気配を感じてか近付いて来た事などなく、初めて他者の存在を確認した。
また、我の持つ『完成された知識』に存在しない『異形との邂逅』には少なからず衝撃を受けた。

それは異形も同じらしく、お互いに一瞬の空白が訪れ…その後急に暴れ牙を剥いた。

一度も『害される』ことが無かった我に改めて衝撃が走った。
それが生まれて間もないからか、それとも周囲の環境に守られていたからかは定かではない。
ただ、そこで重要なのは『害されることがある』ということ、そして『痛み』を知ったことだ。

思えば当たり前のことではあるのだが、完成品である体躯を削られることは痛みを伴うものなのだと初めて理解したのもこのときだ。
今思い返せば非常に危うく温い思考をしていたものだと薄ら寒いが、頑強さにかまけて危機感など感じずのうのうと生きていた訳だ。
ふむ…確かに運が良かったのかもしれないが、そもそも傍らを溶岩が流れる火山の地で平気なのだから、我が身の頑強は語るまでも無いかもしれんな?

そんなことを思い知らされ、痛みを感じて開花したのは強烈な『生存本能』と『飢餓感』だ。
本能が示す『あれを喰らえ』という思いに駆られ、初めて敵対という行為を取った。

結果など語るまでも無い。
身を削ることで得られた痛みも、我の強靭な体躯を思えば瑣末なこと。
擦り傷、掠り傷程度のモノで、数瞬と経たずに元通り。
本来であれば傷とも言えないような小さなものだが、初めての経験に過敏に反応してしまったのだ。

それからは何度も、何度も、同じように我を害するために異形たちは訪れた。
狩ろうとする気概を抱え、敵意…いや、殺意と呼ぶべきものを滾らせ、挑みかかって来た。

戦績は語るまでもなく全勝。

それらのほとんどはさしたる労力も必要とせず退けたが、中には我としても苦労させられる輩も居た。
しかしいずれもが我には届かず、棲処を追われる事もなかった。
こうして我は、ただこの溶岩に囲まれた山に居るだけで腹を満たせた。

あぁ、そうではないか。
本来我に『空腹』といった概念はないらしい。
我は『完成品』であるが故に、存在するだけでは消費を行わないのだろう。
ただし何らかの行動を起こした場合には空腹を感じた。

そう、最初に出会った異形が我に攻撃などしなければ飢餓を感じることもなかった。
受けた傷と我が行った攻撃によって生じた消費…つまり『欠けたエネルギーの補完』という飢餓感は知らなかったはずだ。
異形達との邂逅、そして害されることで新たな知識を得ることになるとは分からぬものだろう?

こうして多くの年月を異形たちと敵対して過ごした。
気が付けば来訪者が疎らになり、我が空腹を感じることも少なくなっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...