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第一幕:双翼の出会い
002回顧録
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自身のことを振り返る。
この世に生れ落ちた瞬間から一つだった。
産声を上げても周囲には何も居なかった。
けれど単体で生きていけるだけの力は、既に持っていたので問題は無かった。
いや、生存に必要な力よりも遥かに強大な力を持っていることを、何故か生まれながらにして理解していた。
だから今振り返ってみれば最初に知ったのは『孤独』というものだったのかもしれない―――。
最初から一定の知識を持っていた。
周囲は何でできていて、どんな環境であるか。
所有する力を把握し、使用方法を理解し、過不足無く実現することすら、生まれて数時間程で身に付いた。
たとえるならこれは馬が短時間で立ち上がるのと同じような『完成品での誕生』で、そこに掛けた時間は慣らしなのだろう。
我が生を受けたのは、ごつごつとした岩と生物が音を上げるほどの熱を抱える、近くを溶けた岩が流れるような『火山』と呼ばれる極限の土地だった。
苦も無く適応してしまう体躯により、特に移動する必要性も理由も無かった我は、この地を縄張りとしてそのまま棲み着いた。
気が付けば生まれた時に感じたかもしれない孤独感など忘れていた。
いや、他者との交わりが無いのだから、孤独を感じるだけの理由もまた無かったか。
何をするでもなく過ごす我の棲処に、ある日『何か』が訪れた。
『何か』は、我とは似つかぬ姿形をし、さらに言えばかなり小さい。
本能が先行する生物は、我の気配を感じてか近付いて来た事などなく、初めて他者の存在を確認した。
また、我の持つ『完成された知識』に存在しない『異形との邂逅』には少なからず衝撃を受けた。
それは異形も同じらしく、お互いに一瞬の空白が訪れ…その後急に暴れ牙を剥いた。
一度も『害される』ことが無かった我に改めて衝撃が走った。
それが生まれて間もないからか、それとも周囲の環境に守られていたからかは定かではない。
ただ、そこで重要なのは『害されることがある』ということ、そして『痛み』を知ったことだ。
思えば当たり前のことではあるのだが、完成品である体躯を削られることは痛みを伴うものなのだと初めて理解したのもこのときだ。
今思い返せば非常に危うく温い思考をしていたものだと薄ら寒いが、頑強さにかまけて危機感など感じずのうのうと生きていた訳だ。
ふむ…確かに運が良かったのかもしれないが、そもそも傍らを溶岩が流れる火山の地で平気なのだから、我が身の頑強は語るまでも無いかもしれんな?
そんなことを思い知らされ、痛みを感じて開花したのは強烈な『生存本能』と『飢餓感』だ。
本能が示す『あれを喰らえ』という思いに駆られ、初めて敵対という行為を取った。
結果など語るまでも無い。
身を削ることで得られた痛みも、我の強靭な体躯を思えば瑣末なこと。
擦り傷、掠り傷程度のモノで、数瞬と経たずに元通り。
本来であれば傷とも言えないような小さなものだが、初めての経験に過敏に反応してしまったのだ。
それからは何度も、何度も、同じように我を害するために異形たちは訪れた。
狩ろうとする気概を抱え、敵意…いや、殺意と呼ぶべきものを滾らせ、挑みかかって来た。
戦績は語るまでもなく全勝。
それらのほとんどはさしたる労力も必要とせず退けたが、中には我としても苦労させられる輩も居た。
しかしいずれもが我には届かず、棲処を追われる事もなかった。
こうして我は、ただこの溶岩に囲まれた山に居るだけで腹を満たせた。
あぁ、そうではないか。
本来我に『空腹』といった概念はないらしい。
我は『完成品』であるが故に、存在するだけでは消費を行わないのだろう。
ただし何らかの行動を起こした場合には空腹を感じた。
そう、最初に出会った異形が我に攻撃などしなければ飢餓を感じることもなかった。
受けた傷と我が行った攻撃によって生じた消費…つまり『欠けたエネルギーの補完』という飢餓感は知らなかったはずだ。
異形達との邂逅、そして害されることで新たな知識を得ることになるとは分からぬものだろう?
こうして多くの年月を異形たちと敵対して過ごした。
気が付けば来訪者が疎らになり、我が空腹を感じることも少なくなっていった。
この世に生れ落ちた瞬間から一つだった。
産声を上げても周囲には何も居なかった。
けれど単体で生きていけるだけの力は、既に持っていたので問題は無かった。
いや、生存に必要な力よりも遥かに強大な力を持っていることを、何故か生まれながらにして理解していた。
だから今振り返ってみれば最初に知ったのは『孤独』というものだったのかもしれない―――。
最初から一定の知識を持っていた。
周囲は何でできていて、どんな環境であるか。
所有する力を把握し、使用方法を理解し、過不足無く実現することすら、生まれて数時間程で身に付いた。
たとえるならこれは馬が短時間で立ち上がるのと同じような『完成品での誕生』で、そこに掛けた時間は慣らしなのだろう。
我が生を受けたのは、ごつごつとした岩と生物が音を上げるほどの熱を抱える、近くを溶けた岩が流れるような『火山』と呼ばれる極限の土地だった。
苦も無く適応してしまう体躯により、特に移動する必要性も理由も無かった我は、この地を縄張りとしてそのまま棲み着いた。
気が付けば生まれた時に感じたかもしれない孤独感など忘れていた。
いや、他者との交わりが無いのだから、孤独を感じるだけの理由もまた無かったか。
何をするでもなく過ごす我の棲処に、ある日『何か』が訪れた。
『何か』は、我とは似つかぬ姿形をし、さらに言えばかなり小さい。
本能が先行する生物は、我の気配を感じてか近付いて来た事などなく、初めて他者の存在を確認した。
また、我の持つ『完成された知識』に存在しない『異形との邂逅』には少なからず衝撃を受けた。
それは異形も同じらしく、お互いに一瞬の空白が訪れ…その後急に暴れ牙を剥いた。
一度も『害される』ことが無かった我に改めて衝撃が走った。
それが生まれて間もないからか、それとも周囲の環境に守られていたからかは定かではない。
ただ、そこで重要なのは『害されることがある』ということ、そして『痛み』を知ったことだ。
思えば当たり前のことではあるのだが、完成品である体躯を削られることは痛みを伴うものなのだと初めて理解したのもこのときだ。
今思い返せば非常に危うく温い思考をしていたものだと薄ら寒いが、頑強さにかまけて危機感など感じずのうのうと生きていた訳だ。
ふむ…確かに運が良かったのかもしれないが、そもそも傍らを溶岩が流れる火山の地で平気なのだから、我が身の頑強は語るまでも無いかもしれんな?
そんなことを思い知らされ、痛みを感じて開花したのは強烈な『生存本能』と『飢餓感』だ。
本能が示す『あれを喰らえ』という思いに駆られ、初めて敵対という行為を取った。
結果など語るまでも無い。
身を削ることで得られた痛みも、我の強靭な体躯を思えば瑣末なこと。
擦り傷、掠り傷程度のモノで、数瞬と経たずに元通り。
本来であれば傷とも言えないような小さなものだが、初めての経験に過敏に反応してしまったのだ。
それからは何度も、何度も、同じように我を害するために異形たちは訪れた。
狩ろうとする気概を抱え、敵意…いや、殺意と呼ぶべきものを滾らせ、挑みかかって来た。
戦績は語るまでもなく全勝。
それらのほとんどはさしたる労力も必要とせず退けたが、中には我としても苦労させられる輩も居た。
しかしいずれもが我には届かず、棲処を追われる事もなかった。
こうして我は、ただこの溶岩に囲まれた山に居るだけで腹を満たせた。
あぁ、そうではないか。
本来我に『空腹』といった概念はないらしい。
我は『完成品』であるが故に、存在するだけでは消費を行わないのだろう。
ただし何らかの行動を起こした場合には空腹を感じた。
そう、最初に出会った異形が我に攻撃などしなければ飢餓を感じることもなかった。
受けた傷と我が行った攻撃によって生じた消費…つまり『欠けたエネルギーの補完』という飢餓感は知らなかったはずだ。
異形達との邂逅、そして害されることで新たな知識を得ることになるとは分からぬものだろう?
こうして多くの年月を異形たちと敵対して過ごした。
気が付けば来訪者が疎らになり、我が空腹を感じることも少なくなっていった。
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