9 / 9
9
しおりを挟む
「消えちゃった……」
せっかくなので、味の感想も聞きたかったのだが、彼の事だから美味しいと言われたら逆の意味になってしまうし、不味いと言われるのもちょっと悲しい。
そんな事を考えて、私が立ち尽くしていると、シュンが不思議そうに尋ねた。
「さっき、もう材料が無いって言ってたけど、今のは何の恵方巻だったの?」
「ああ、納豆巻きだよ。元が大豆だから、鬼の子に食べられるか心配だったんだけど……」
「美味そうに食っておったじゃないか。今度こそ帰ってくれたようじゃし、福豆より余程効果があったのう」
神様は呑気に笑っている。
「そういえば、私も気になっていたんですけど、神様が言っていた『やって来る鬼と自分の煩悩には関係がある』って話……」
「うむ、心当たりは見つかったかの?」
「天邪鬼って事は、私にも素直になれていないところがあると……」
「そうじゃのう」
そう言われて思い当たる事と言えば一つしかない。
「美帆先生と話したくても話し掛けられない……とか」
私はここ二年ほど、片思いをしているが、その恋路は頑なに進展していなかった。それもこれも、私の意気地の無さが原因ではあるのだが、鬼にまで責められては敵わない。
「……分かりました。私ももう少し自分の気持ちに素直になろうと思います」
「良い心がけじゃの。では早速、さっきの納豆巻きをわしにも作るのじゃ!」
「だから、どうしてそうなるんですか……」
呆れる私の前で、神様はふんぞり返って見せる。
「遠慮せず、無事に問題が解決した感謝の気持ちを、素直に表現するが良い」
「どちらかと言うと、助けてくれたのはシュンだと思うんですけど……」
「また捻くれた事を言うとると、鬼が来るぞ~」
神様は私の顔に人差し指を向けて脅してきた。私は大きな溜息を吐くと、観念して答えた。
「……分かりました。でももう納豆も無いので、これから買い物行きますから、代わりに夕飯のリクエストを受け付けます」
「おお、どうしようかの~! から揚げ、すき焼き、煮込みうどん……鍋も良いのう」
「俺、ハンバーグがいい!」
「むむ、洋食も良いのう。エビフライにビーフシチュー……うーん、悩むのう……この際、全部というのはどうじゃ?」
「ダメに決まってるでしょう!」
うちの神様こそ、食の煩悩だらけではないか。神の煩悩を改めに、鬼が現れるのかは定かではないが、大食らいの煩悩を現す鬼が、あまり怖い鬼でない事を祈るばかりである。
完
せっかくなので、味の感想も聞きたかったのだが、彼の事だから美味しいと言われたら逆の意味になってしまうし、不味いと言われるのもちょっと悲しい。
そんな事を考えて、私が立ち尽くしていると、シュンが不思議そうに尋ねた。
「さっき、もう材料が無いって言ってたけど、今のは何の恵方巻だったの?」
「ああ、納豆巻きだよ。元が大豆だから、鬼の子に食べられるか心配だったんだけど……」
「美味そうに食っておったじゃないか。今度こそ帰ってくれたようじゃし、福豆より余程効果があったのう」
神様は呑気に笑っている。
「そういえば、私も気になっていたんですけど、神様が言っていた『やって来る鬼と自分の煩悩には関係がある』って話……」
「うむ、心当たりは見つかったかの?」
「天邪鬼って事は、私にも素直になれていないところがあると……」
「そうじゃのう」
そう言われて思い当たる事と言えば一つしかない。
「美帆先生と話したくても話し掛けられない……とか」
私はここ二年ほど、片思いをしているが、その恋路は頑なに進展していなかった。それもこれも、私の意気地の無さが原因ではあるのだが、鬼にまで責められては敵わない。
「……分かりました。私ももう少し自分の気持ちに素直になろうと思います」
「良い心がけじゃの。では早速、さっきの納豆巻きをわしにも作るのじゃ!」
「だから、どうしてそうなるんですか……」
呆れる私の前で、神様はふんぞり返って見せる。
「遠慮せず、無事に問題が解決した感謝の気持ちを、素直に表現するが良い」
「どちらかと言うと、助けてくれたのはシュンだと思うんですけど……」
「また捻くれた事を言うとると、鬼が来るぞ~」
神様は私の顔に人差し指を向けて脅してきた。私は大きな溜息を吐くと、観念して答えた。
「……分かりました。でももう納豆も無いので、これから買い物行きますから、代わりに夕飯のリクエストを受け付けます」
「おお、どうしようかの~! から揚げ、すき焼き、煮込みうどん……鍋も良いのう」
「俺、ハンバーグがいい!」
「むむ、洋食も良いのう。エビフライにビーフシチュー……うーん、悩むのう……この際、全部というのはどうじゃ?」
「ダメに決まってるでしょう!」
うちの神様こそ、食の煩悩だらけではないか。神の煩悩を改めに、鬼が現れるのかは定かではないが、大食らいの煩悩を現す鬼が、あまり怖い鬼でない事を祈るばかりである。
完
1
お気に入りに追加
27
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
傷女、失踪ノ先デ、
みつお真
キャラ文芸
心の傷が身体に現れたら、あなたは生きていけますか?
何気ない毎日を送る未来。
彼女はとてもポジティブで自称楽観主義者。
ところがある日、哀しいライフイベントの為に人生の歯車が狂い始めます。
耐えきれなくなった未来は、遠い遠い島へと逃亡するのですか、そこには様々な心の病や身体の病を抱えた人々が住んでいたのです。
誇大妄想に悩まされる男。
虚言癖の青年。
アルコール中毒症の女。
アルビノの女性。
自閉症の青年。
性に悩む男性。
末期癌の少女。
彼らと関わりながら未来が出した決断は!?
ふとした出来事から日常は変化します。
疲れ果てた現代人に贈る可笑しくて切ないファタジーの世界を覗いてみませんか?
東京浅草、居候は魔王様!
栗槙ひので
キャラ文芸
超不幸体質の貧乏フリーター碓氷幸也(うすいゆきや)は、ある日度重なる不運に見舞われ、誤って異世界の魔王を呼び出してしまう。
両親を亡くし、幼い弟妹を抱えながら必死に働いている幸也。幾多の苦難に見舞われながらも、いつか金持ちになり安心して暮らす未来を夢見て日夜バイトに励んでいた。そんな彼の前に、最凶の存在が立ち現れる。
人間界を良く知らない魔王様と、彼を連れ戻そうと次々現れる厄介な悪魔達に振り回されて、幸也の不幸はさらに加速する!?
霧原骨董店~あやかし時計と名前の贈り物~
松田 詩依
キャラ文芸
高峰一樹は幼い頃から霊が見えた。大学入学を機にとある町に引っ越してきた。
そのアパートの近くには長らく休業している怪しい店があって――。
付喪神が憑く〝曰く憑き〟商品を扱う店〝霧原骨董店〟を舞台に送るアヤカシストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる