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「消えちゃった……」

 せっかくなので、味の感想も聞きたかったのだが、彼の事だから美味しいと言われたら逆の意味になってしまうし、不味いと言われるのもちょっと悲しい。
 そんな事を考えて、私が立ち尽くしていると、シュンが不思議そうに尋ねた。

「さっき、もう材料が無いって言ってたけど、今のは何の恵方巻だったの?」

「ああ、納豆巻きだよ。元が大豆だから、鬼の子に食べられるか心配だったんだけど……」

「美味そうに食っておったじゃないか。今度こそ帰ってくれたようじゃし、福豆より余程効果があったのう」

 神様は呑気に笑っている。

「そういえば、私も気になっていたんですけど、神様が言っていた『やって来る鬼と自分の煩悩には関係がある』って話……」

「うむ、心当たりは見つかったかの?」

「天邪鬼って事は、私にも素直になれていないところがあると……」

「そうじゃのう」

 そう言われて思い当たる事と言えば一つしかない。

「美帆先生と話したくても話し掛けられない……とか」

 私はここ二年ほど、片思いをしているが、その恋路は頑なに進展していなかった。それもこれも、私の意気地の無さが原因ではあるのだが、鬼にまで責められては敵わない。

「……分かりました。私ももう少し自分の気持ちに素直になろうと思います」

「良い心がけじゃの。では早速、さっきの納豆巻きをわしにも作るのじゃ!」

「だから、どうしてそうなるんですか……」

 呆れる私の前で、神様はふんぞり返って見せる。

「遠慮せず、無事に問題が解決した感謝の気持ちを、素直に表現するが良い」

「どちらかと言うと、助けてくれたのはシュンだと思うんですけど……」

「また捻くれた事を言うとると、鬼が来るぞ~」

 神様は私の顔に人差し指を向けて脅してきた。私は大きな溜息を吐くと、観念して答えた。

「……分かりました。でももう納豆も無いので、これから買い物行きますから、代わりに夕飯のリクエストを受け付けます」

「おお、どうしようかの~! から揚げ、すき焼き、煮込みうどん……鍋も良いのう」

「俺、ハンバーグがいい!」

「むむ、洋食も良いのう。エビフライにビーフシチュー……うーん、悩むのう……この際、全部というのはどうじゃ?」

「ダメに決まってるでしょう!」

 うちの神様こそ、食の煩悩だらけではないか。神の煩悩を改めに、鬼が現れるのかは定かではないが、大食らいの煩悩を現す鬼が、あまり怖い鬼でない事を祈るばかりである。

            完
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