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 不思議な子どもは、まだこちらを見つめたまま庭に立っていた。

「あの子です……」

 私が指差すと、彼はまた私の真似をしてこちらを指差してきた。

「ほーん、小鬼じゃの」

「え、小鬼?」

天邪鬼あまのじゃくという奴じゃな」

「あまのじゃく……ってあの?」

 御伽噺おとぎばなしなどで聞いた事はあった。人間の物真似をしてからかったり、悪戯をしたりする妖怪であり、自分の心とは裏腹な言動をしてしまう人間を指す事もある。

「ついこの間、豆まきしたばかりなのに、なんでまた鬼が来ちゃうんですか……?」

 しかも、彼はさっき自分で豆を拾ってさえいた。やっぱり福豆に邪気祓いの効果は無いのだろうか。

「鬼は人間の煩悩ぼんのうを現す存在とも言われておる。豆まきはその煩悩を祓う儀式でもあるんじゃ。お前さんの元に天邪鬼が現れた意味を、良く考えてみるんじゃな」

 神様はそう言ってニヤニヤと笑った。

「え、どーいう意味ですか……?」

 私達が話していると、小鬼は退屈したのか、今度は向こうから話し掛けてきた。

「おら満腹だ。飯なんていらね!」

「ん?」

「お前の飯なんて欲しくね!」

 誰も食事なんて勧めていないのだが、彼は突然何を言い出したのだろう。
 私が呆然としていると、小鬼は怒ったように飛び跳ねた。

「おら、お前達の飯なんて興味ねぇ! 悪戯しにきただけ。なのに、これぶつけられた。おら嬉しい!」

 そう言って、さっき拾った豆をぽいと地面に投げ捨てた。

「んんー?」

 ますます意味が分からず、私が首を傾げていると、背後から声がした。

「夏也、それ全部反対の意味なんじゃない?」

 振り返ると、いつの間にかシュンが立っている。我々の話し声を聞きつけて様子を見に来てくれたらしい。

「そいつ、天邪鬼でしょ? 節分の日に庭に潜んでたやつじゃない? こいつら確か、本心とは逆の事を話してしまう癖があるんだ」

「あ、なるほど! つまり、彼が言いたかったのは……」

 私達が恵方巻を食べているのを庭から覗いていて、悪戯するつもりは無かった。自分も食べたかっただけなのに、豆をぶつけられて悲しかったという訳だ。

「そっか……。可哀想な事をしちゃったね」

 私はやっと小鬼の気持ちを理解した。彼は飛び跳ねるのをやめて、眉間に皺を寄せながら、恨めしそうに我々を見つめている。

「うーん、恵方巻の材料はもう無いけど……ちょっと待ってて」
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