7 / 9
7
しおりを挟む
不思議な子どもは、まだこちらを見つめたまま庭に立っていた。
「あの子です……」
私が指差すと、彼はまた私の真似をしてこちらを指差してきた。
「ほーん、小鬼じゃの」
「え、小鬼?」
「天邪鬼という奴じゃな」
「あまのじゃく……ってあの?」
御伽噺などで聞いた事はあった。人間の物真似をしてからかったり、悪戯をしたりする妖怪であり、自分の心とは裏腹な言動をしてしまう人間を指す事もある。
「ついこの間、豆まきしたばかりなのに、なんでまた鬼が来ちゃうんですか……?」
しかも、彼はさっき自分で豆を拾ってさえいた。やっぱり福豆に邪気祓いの効果は無いのだろうか。
「鬼は人間の煩悩を現す存在とも言われておる。豆まきはその煩悩を祓う儀式でもあるんじゃ。お前さんの元に天邪鬼が現れた意味を、良く考えてみるんじゃな」
神様はそう言ってニヤニヤと笑った。
「え、どーいう意味ですか……?」
私達が話していると、小鬼は退屈したのか、今度は向こうから話し掛けてきた。
「おら満腹だ。飯なんていらね!」
「ん?」
「お前の飯なんて欲しくね!」
誰も食事なんて勧めていないのだが、彼は突然何を言い出したのだろう。
私が呆然としていると、小鬼は怒ったように飛び跳ねた。
「おら、お前達の飯なんて興味ねぇ! 悪戯しにきただけ。なのに、これぶつけられた。おら嬉しい!」
そう言って、さっき拾った豆をぽいと地面に投げ捨てた。
「んんー?」
ますます意味が分からず、私が首を傾げていると、背後から声がした。
「夏也、それ全部反対の意味なんじゃない?」
振り返ると、いつの間にかシュンが立っている。我々の話し声を聞きつけて様子を見に来てくれたらしい。
「そいつ、天邪鬼でしょ? 節分の日に庭に潜んでたやつじゃない? こいつら確か、本心とは逆の事を話してしまう癖があるんだ」
「あ、なるほど! つまり、彼が言いたかったのは……」
私達が恵方巻を食べているのを庭から覗いていて、悪戯するつもりは無かった。自分も食べたかっただけなのに、豆をぶつけられて悲しかったという訳だ。
「そっか……。可哀想な事をしちゃったね」
私はやっと小鬼の気持ちを理解した。彼は飛び跳ねるのをやめて、眉間に皺を寄せながら、恨めしそうに我々を見つめている。
「うーん、恵方巻の材料はもう無いけど……ちょっと待ってて」
「あの子です……」
私が指差すと、彼はまた私の真似をしてこちらを指差してきた。
「ほーん、小鬼じゃの」
「え、小鬼?」
「天邪鬼という奴じゃな」
「あまのじゃく……ってあの?」
御伽噺などで聞いた事はあった。人間の物真似をしてからかったり、悪戯をしたりする妖怪であり、自分の心とは裏腹な言動をしてしまう人間を指す事もある。
「ついこの間、豆まきしたばかりなのに、なんでまた鬼が来ちゃうんですか……?」
しかも、彼はさっき自分で豆を拾ってさえいた。やっぱり福豆に邪気祓いの効果は無いのだろうか。
「鬼は人間の煩悩を現す存在とも言われておる。豆まきはその煩悩を祓う儀式でもあるんじゃ。お前さんの元に天邪鬼が現れた意味を、良く考えてみるんじゃな」
神様はそう言ってニヤニヤと笑った。
「え、どーいう意味ですか……?」
私達が話していると、小鬼は退屈したのか、今度は向こうから話し掛けてきた。
「おら満腹だ。飯なんていらね!」
「ん?」
「お前の飯なんて欲しくね!」
誰も食事なんて勧めていないのだが、彼は突然何を言い出したのだろう。
私が呆然としていると、小鬼は怒ったように飛び跳ねた。
「おら、お前達の飯なんて興味ねぇ! 悪戯しにきただけ。なのに、これぶつけられた。おら嬉しい!」
そう言って、さっき拾った豆をぽいと地面に投げ捨てた。
「んんー?」
ますます意味が分からず、私が首を傾げていると、背後から声がした。
「夏也、それ全部反対の意味なんじゃない?」
振り返ると、いつの間にかシュンが立っている。我々の話し声を聞きつけて様子を見に来てくれたらしい。
「そいつ、天邪鬼でしょ? 節分の日に庭に潜んでたやつじゃない? こいつら確か、本心とは逆の事を話してしまう癖があるんだ」
「あ、なるほど! つまり、彼が言いたかったのは……」
私達が恵方巻を食べているのを庭から覗いていて、悪戯するつもりは無かった。自分も食べたかっただけなのに、豆をぶつけられて悲しかったという訳だ。
「そっか……。可哀想な事をしちゃったね」
私はやっと小鬼の気持ちを理解した。彼は飛び跳ねるのをやめて、眉間に皺を寄せながら、恨めしそうに我々を見つめている。
「うーん、恵方巻の材料はもう無いけど……ちょっと待ってて」
1
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
サウナマナー無双・童貞田中の無言サウナ
鷺谷政明
キャラ文芸
サウナマナー日本1位を自負する童貞・田中の唯一の楽しみは、週に一度の銭湯通い。誰とも関わりを持たずにサウナの世界に没頭したい田中が、大衆浴場コミュニティに巻き込まれていく一話完結型ドラマ。全10話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
傷女、失踪ノ先デ、
みつお真
キャラ文芸
心の傷が身体に現れたら、あなたは生きていけますか?
何気ない毎日を送る未来。
彼女はとてもポジティブで自称楽観主義者。
ところがある日、哀しいライフイベントの為に人生の歯車が狂い始めます。
耐えきれなくなった未来は、遠い遠い島へと逃亡するのですか、そこには様々な心の病や身体の病を抱えた人々が住んでいたのです。
誇大妄想に悩まされる男。
虚言癖の青年。
アルコール中毒症の女。
アルビノの女性。
自閉症の青年。
性に悩む男性。
末期癌の少女。
彼らと関わりながら未来が出した決断は!?
ふとした出来事から日常は変化します。
疲れ果てた現代人に贈る可笑しくて切ないファタジーの世界を覗いてみませんか?
東京浅草、居候は魔王様!
栗槙ひので
キャラ文芸
超不幸体質の貧乏フリーター碓氷幸也(うすいゆきや)は、ある日度重なる不運に見舞われ、誤って異世界の魔王を呼び出してしまう。
両親を亡くし、幼い弟妹を抱えながら必死に働いている幸也。幾多の苦難に見舞われながらも、いつか金持ちになり安心して暮らす未来を夢見て日夜バイトに励んでいた。そんな彼の前に、最凶の存在が立ち現れる。
人間界を良く知らない魔王様と、彼を連れ戻そうと次々現れる厄介な悪魔達に振り回されて、幸也の不幸はさらに加速する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる