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週末になり、散らかった枯れ葉を片付けようと奮起した私は、箒を持って庭へ降り立った。春分を過ぎたとは言え、まだ少し肌寒い。
「あ、あんな所に、まだ豆が落ちてる」
節分に投げた豆は、翌日に片付けていたのだが、まだ茂みの下にいくつか転がっているのが目に入った。
別に放っておいても問題はないのだが、せっかく気がついたし拾っておくかと、私は屈んで茂みの奥に手を伸ばす。
しかし、それは私の指先に触れる前に別の手によって拾われてしまった。
「えっ」
シュンが拾ってくれたのかと思ったが、その小さな手は中学生くらいのシュンのものより、もっと小さな子の大きさだった。
目を上げると、いつの間にかそこに見知らぬ幼児が立っている。つり目で三白眼、口はへの字に曲げて、不機嫌そうな表情をしているが、気になったのは顔よりも、古ぼけた着物を身に付けている事だった。
(また、人間ではない者かもしれないな……)
この手の展開に慣れていた私は、薄々そう感じながらも、いたって普通を装って話し掛けてみた。
「拾ってくれてありがとう、君はどこの子?」
すると、その奇妙な子どもは無表情のまま口を開いた。
「拾ってくれてありがとう、君はどこの子?」
「え?」
「え?」
どうやら、私の言葉をそのまま繰り返しているようだ。からかわれているのだろうか。
「どこから来たの?」
「どこから来たの?」
「名前は?」
「名前は?」
「……困ったな」
「……困ったな」
私が頭を掻くと、その子もボサボサの頭を掻いてからニィと不気味に笑った。
(このまま話を続けても無意味そうだ……神様を呼んで相談してみるか)
私はその子を置いて、一旦縁側に向かった。神様はガラス戸の向こうでゴロゴロと日向ぼっこをしている。
(神様がこれだけ無警戒なら、あの子もそんなに恐ろしい存在じゃないのかな……)
そう考えたら少し緊張が緩んだ。私はガラス戸を開けて、ぐうたら神に声を掛ける。
「神様、ちょっといいですか?」
「よくなーい」
「見るからに暇そうじゃないですか。なにやら変わった子どもが庭に現れたんで、一緒に来て欲しいんです!」
「えー」
「今日のおやつは要らないという事でよろしいですか?」
「いるー」
食べ物で釣らなければ動かないとは、どちらが子どもだか分からない。もう一人の子どもの方は、一筋縄ではいかなそうだが。
私が促すと、神様は面倒臭そうに立ち上がり、渋々私の後について来てくれた。
「あ、あんな所に、まだ豆が落ちてる」
節分に投げた豆は、翌日に片付けていたのだが、まだ茂みの下にいくつか転がっているのが目に入った。
別に放っておいても問題はないのだが、せっかく気がついたし拾っておくかと、私は屈んで茂みの奥に手を伸ばす。
しかし、それは私の指先に触れる前に別の手によって拾われてしまった。
「えっ」
シュンが拾ってくれたのかと思ったが、その小さな手は中学生くらいのシュンのものより、もっと小さな子の大きさだった。
目を上げると、いつの間にかそこに見知らぬ幼児が立っている。つり目で三白眼、口はへの字に曲げて、不機嫌そうな表情をしているが、気になったのは顔よりも、古ぼけた着物を身に付けている事だった。
(また、人間ではない者かもしれないな……)
この手の展開に慣れていた私は、薄々そう感じながらも、いたって普通を装って話し掛けてみた。
「拾ってくれてありがとう、君はどこの子?」
すると、その奇妙な子どもは無表情のまま口を開いた。
「拾ってくれてありがとう、君はどこの子?」
「え?」
「え?」
どうやら、私の言葉をそのまま繰り返しているようだ。からかわれているのだろうか。
「どこから来たの?」
「どこから来たの?」
「名前は?」
「名前は?」
「……困ったな」
「……困ったな」
私が頭を掻くと、その子もボサボサの頭を掻いてからニィと不気味に笑った。
(このまま話を続けても無意味そうだ……神様を呼んで相談してみるか)
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「えー」
「今日のおやつは要らないという事でよろしいですか?」
「いるー」
食べ物で釣らなければ動かないとは、どちらが子どもだか分からない。もう一人の子どもの方は、一筋縄ではいかなそうだが。
私が促すと、神様は面倒臭そうに立ち上がり、渋々私の後について来てくれた。
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