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「鬼はー外! 福はー内!」

 玄関の外とたたきに向かって、パラパラと豆を撒く。シュンもとても楽しそうだ。大人の私一人であれば、こんな風に思い切り豆まきなんてしなかっただろう。
 その更に隣で、我々より数百歳は年上であろう着流し姿の男も、さも愉快そうに豆を投げていた。

(良く考えたら、二人とも豆の力に頼らなくても、充分家を守る力を持ってそうだけど……)

 そんな事を考えていたら、ふと疑問が湧いた。

「なんで、鬼って豆で追い払えるんでしょうね?」

「ふーむ、鬼除けのまじないが最初から豆だった訳ではないがの。鬼を退散させると言われる方法は、昔から色々と存在するぞ」

「呼吸法とかですか?」

「なんじゃそれは?」

「なんでもないです……」

「桃の木の枝とか、鰯の頭とか、時代や地域にもよるんじゃ。豆については……言葉の作りを良く考えてみい、『ま』と『め』、つまり魔を滅するとな」

「ほぼ駄洒落じゃないですか……」

「現実なんてそんなもんじゃ。まあ、ちゃんと祈祷して貰っておる福豆ならそれなりに効果はある」

 コンビニで100円の豆に、そんな大層な効力が備わっているのか不安はあったが、まあ元々縁起担ぎだと思うことにする。
 我々はそのまま台所の勝手口に向かい、豆まきを続けた。

「福はー内! ……あっ」

 私が豆を投げると、台所の床に転がった豆を、物凄い速さで何者かがさらって行くのが見えた。
 それは豆のような頭に小さな目鼻をつけ、古ぼけた着物姿の小人ーー

「台所妖怪……まだ居たんですね」

 私は以前にもこの妖怪を見かけた事があった。古い屋敷の台所に住み憑き、残り物をそっと漁るだけの妖怪で、悪さはしない。

「ほんとだ、なんだか嬉しそうだったね。アイツら豆も食べるのかな?」

 シュンはかがみ込んで、小人が滑り込んで行った冷蔵庫脇を覗き込む。

「味噌汁なんかも好きじゃからの~。昔から大豆の味には馴染みがあるんじゃないかのう?」

「年に一度、いっぱい豆が拾えるチャンスの日とか思ってるかもね」

 シュンは笑いながら立ち上がる。

(妖怪も喜んで食べるんじゃ、とても鬼には効きそうにないなぁ……)

 私はまた少しがっかりしたものの、最後に庭に向かって豆まきをすべく居間に戻った。
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