上 下
78 / 92
第5章 愉悦する道化師

76

しおりを挟む
 月斗はその場に崩れ落ち、マオがそれを支えた。
 同時に周囲の熱気が急に収まり、辺りは騒然とする。

(やば……どーすんだこの状況……)

 どうやら急病人等は出ていないようだが、今ここにいる全員が目の当たりにした異常な光景を、どう説明付ければ良いのだろう。夕方のニュースに出て大騒ぎになってしまうのではないだろうか。
 その時、ガガガと放送用のスピーカーが乱れる音が響いた。

『これは、驚きのサプライズ演出! ダンスの合間に物語仕立ての演劇を交えてくるなんて異例の展開、本カーニバルの歴史上も初めてなのではないでしょうか? 最新のプロジェクションマッピング技術にも感動です! カーニバル初参戦の月斗君、圧巻の演技を見せつけました!』

 すると、動揺していた観客達からパラパラと拍手が湧き、周囲の騒めきは再び歓声へと変わった。

(この声……メレクだな……)

 人間界の娯楽に通じたメレク、流石の対応である。

 アレゴリアに乗ったマオは、観衆の大注目を浴びながら恥ずかしそうに気絶した月斗を抱えて進んで行った。

 屋根の方を見上げると、サマエルとメフィストの姿はもう見当たらなかった。

 結局、今年のカーニバル優勝チームはマスターの友人が所属しているG.R.E.Sエンドズィ・アズーモに決まった。
 月斗のチームは一番盛り上がりはしたものの、審査員一同の「頑張るとこそこじゃない」という判断により特別賞に収まったようだ。それはそうだろう。

 俺は友人達と喜び合っているマスターと別れ、マオとメレクと合流して家へ帰った。

 月斗はあの後意識を回復し、全て自分の仕込んだ演出であったと語っているらしい。どうやら奴を抱いている間に、マオが魔法で記憶を操作したようだ。

「マオ、かっこよかったねー!」

「……そうか?」

「かっこよかたー! ぴかーてひかりがでてた!」

 双子に褒められて、マオはまた少し嬉しそうに照れていた。

「ただいまー」

 しかし、玄関の扉を開けると、室内は異様な空気に満たされていた。

(なんだなんだ?)

 家に上がって居間を覗くと、卓袱台を挟んでサマエルと仮面の男が睨み合っていた。

「いや、来てんのかよ!?」

 俺が叫ぶと、二人は同時にこちらを向いた。

「お帰りなさいませ。皆様、大変お疲れ様でした。今、此奴に事情聴取をしていた所です。概ね我々の予想通りでした」

 見ると、メフィストの両腕は手錠のように紫色の光の帯に巻かれており、サマエルに拘束されているようだった。

「もう少し盛り上がる予定だったんですけどねー。非常に残念です」

 彼は悪びれる様子も無く口を開くとケラケラと笑う。

「じゃあ、やっぱコイツが黒い本と鍵を盗んで月斗に渡したのか?」

「ええ、そして月斗君は強欲の魔獣マモンを呼び出し、取り憑かれてしまった……」

「彼の欲望の形にとてもぴったりでしたね! やっぱり呼び出す人間に合わせた悪魔が現れるんだ。実に興味深い本ですよ」

 メフィストは面白そうに笑う。黒い本はサマエルの前に置かれていた。

「そら、うみ、お客さんが来ているから向こうの部屋でテレビを見ててくれるか? 後でおやつ持っていってやるから」

「うん!」

 双子は既にこのパターンに慣れているのか、素直に向かいの洋間に向かってくれた。

「んで、そいつどーするんだ?」

「直ぐに魔界へ強制送還します……そうですね……また悪さを働かない様に、暫くは牢に繋いでおきます」

 俺が尋ねると、サマエルはメフィストの腕から伸びている鎖のような光を引っ張りながら答えた。
 メフィストはそれに動じる事無く、ニヤニヤと笑っている。

「また悪さをねぇ……どちらかというと、貴方の心配は『魔王様が人間界に居る』と僕に吹聴される事にあるんじゃないですか? 僕が言いふらさなくても、もう手遅れだと思うけどねぇ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

護堂先生と神様のごはん書籍化記念短編☆節分はつらいよ。

栗槙ひので
キャラ文芸
二月の頭、節分を過ぎてこれから春に向かおうという季節。 夏也と神様の元には、また珍妙な客が現れて……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...