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第5章 愉悦する道化師
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俺はその後、フミ達と飯を食ってから帰宅した。せっかくの打ち上げ、心から楽しみたかったが、月斗の事が気にかかって俺は終始どこか上の空だった。
「最後のヤバかったよなー?」
「月斗の奴、目立ちたがりではあったけど、あんなカリスマ性あったっけか? 完全に持っていかれたよなー」
「確かに昔から軽音部には入りたそうにしてたんだよな~」
三人とも結局トリバンの話が止まらない。会場に居た人々は、月斗にすっかり心奪われた様子であったが、幸いな事に終演後気分を悪くしたり、様子がおかしくなったりする人は出なかった。
マオ達の魔法がしっかり護ってくれたのかもしれない。
家に帰って居間に向かうと、マオとメレク、サマエルが卓袱台を囲んで座っていた。双子達は既に寝かしつけてくれたようだ。
「ただいま。サマエル、一日留守番ありがとうな」
「いいえ……それより幸也様、会場に悪魔が現れたとか……?」
「……ああ」
三人ともいつもより表情が険しい。どうやらこの三人も今までトリバンの話をしていたらしい。
「あの舞台袖に居た悪魔、知り合いなのか?」
俺は照明が当たり、一瞬だけ浮かび上がった不気味な仮面を思い出して尋ねた。
「知り合いって訳でもないけど……彼はレトム・メフィスト。魔界では割と有名人」
「メフィストですと!?」
メレクの答えにサマエルが叫んだ。
「そりゃまた厄介な……」
「ヤベー奴なのか?」
俺の質問に、今度はマオが口を開く。
「メフィストは王家に仕えていないし、魔王軍にも所属していないが、魔力は魔将軍クラスの使い手だ」
「……フィーニス派って奴か?」
メレクは首を振る。
「いや、アイツはどっちでもないよ。何かに所属するのが嫌いなんだ。何にも縛られず自由でいたいのさ。悪魔らしいと言えば悪魔らしいけど」
「だからこそ厄介なのです。行動が読めない……」
サマエルは頭を抱えた。
「あの最後のバンドのボーカル、俺の知り合いなんだけど……取り憑かれてるって言ってたよな? それってそのメフィストって奴になのか?」
「……いや、無関係とは思えないけど、彼が直接操っているというよりは何か別のモノに取り憑かれている感じだったね……もっと制御の効かない乱暴な魔力……」
いつもはチャラチャラしているメレクも、今回ばかりは深刻そうに考え込んでいる。
「ついこの間会った時は別に普通……でもねーけど、あんなんじゃなかったぜ?」
月斗はどちらかというと常に様子(主に服装)がおかしいが、今日のような表情や話し方をする姿はこれまで一度も見た事がない。
「悪魔に取り憑かれるなんて、召喚の儀式に失敗したか、妙な相手を呼んでしまったか……魔導書と鍵が紛失した事と関係があるとすれば……」
サマエルが顎に手を置いて独りごちる。そう言えば確か、それらが書斎から無くなったと先日言っていた。
「月斗も俺みたいに、あの本と鍵で悪魔を呼び出したって事か?」
「ちょっと待って、あの本無くなったの!?」
「あ、ご報告しそびれておりました……申し訳ございません……」
「まずい事になったね……あんな物がもしメフィストの手に渡ったとなれば……」
メレクに続いてマオも呟いた。
「面白半分に人間に渡してしまうかもしれないな……」
「マジか……」
一同はしばし沈黙した。壁掛け時計が十時の鐘を鳴らす。
「君が呼び出したのは、対等に交渉に応じてくれるクラースだったからまだ良かったんだ。僕やサマエルも人間との共存を目指す穏健派だから普通に話が出来る。だけど、魔界の大方の悪魔はそんなんじゃないんだ。下級の奴等なんか会話も出来やしないよ」
「……そういうのを呼んじまうとどーなるんだ?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「最後のヤバかったよなー?」
「月斗の奴、目立ちたがりではあったけど、あんなカリスマ性あったっけか? 完全に持っていかれたよなー」
「確かに昔から軽音部には入りたそうにしてたんだよな~」
三人とも結局トリバンの話が止まらない。会場に居た人々は、月斗にすっかり心奪われた様子であったが、幸いな事に終演後気分を悪くしたり、様子がおかしくなったりする人は出なかった。
マオ達の魔法がしっかり護ってくれたのかもしれない。
家に帰って居間に向かうと、マオとメレク、サマエルが卓袱台を囲んで座っていた。双子達は既に寝かしつけてくれたようだ。
「ただいま。サマエル、一日留守番ありがとうな」
「いいえ……それより幸也様、会場に悪魔が現れたとか……?」
「……ああ」
三人ともいつもより表情が険しい。どうやらこの三人も今までトリバンの話をしていたらしい。
「あの舞台袖に居た悪魔、知り合いなのか?」
俺は照明が当たり、一瞬だけ浮かび上がった不気味な仮面を思い出して尋ねた。
「知り合いって訳でもないけど……彼はレトム・メフィスト。魔界では割と有名人」
「メフィストですと!?」
メレクの答えにサマエルが叫んだ。
「そりゃまた厄介な……」
「ヤベー奴なのか?」
俺の質問に、今度はマオが口を開く。
「メフィストは王家に仕えていないし、魔王軍にも所属していないが、魔力は魔将軍クラスの使い手だ」
「……フィーニス派って奴か?」
メレクは首を振る。
「いや、アイツはどっちでもないよ。何かに所属するのが嫌いなんだ。何にも縛られず自由でいたいのさ。悪魔らしいと言えば悪魔らしいけど」
「だからこそ厄介なのです。行動が読めない……」
サマエルは頭を抱えた。
「あの最後のバンドのボーカル、俺の知り合いなんだけど……取り憑かれてるって言ってたよな? それってそのメフィストって奴になのか?」
「……いや、無関係とは思えないけど、彼が直接操っているというよりは何か別のモノに取り憑かれている感じだったね……もっと制御の効かない乱暴な魔力……」
いつもはチャラチャラしているメレクも、今回ばかりは深刻そうに考え込んでいる。
「ついこの間会った時は別に普通……でもねーけど、あんなんじゃなかったぜ?」
月斗はどちらかというと常に様子(主に服装)がおかしいが、今日のような表情や話し方をする姿はこれまで一度も見た事がない。
「悪魔に取り憑かれるなんて、召喚の儀式に失敗したか、妙な相手を呼んでしまったか……魔導書と鍵が紛失した事と関係があるとすれば……」
サマエルが顎に手を置いて独りごちる。そう言えば確か、それらが書斎から無くなったと先日言っていた。
「月斗も俺みたいに、あの本と鍵で悪魔を呼び出したって事か?」
「ちょっと待って、あの本無くなったの!?」
「あ、ご報告しそびれておりました……申し訳ございません……」
「まずい事になったね……あんな物がもしメフィストの手に渡ったとなれば……」
メレクに続いてマオも呟いた。
「面白半分に人間に渡してしまうかもしれないな……」
「マジか……」
一同はしばし沈黙した。壁掛け時計が十時の鐘を鳴らす。
「君が呼び出したのは、対等に交渉に応じてくれるクラースだったからまだ良かったんだ。僕やサマエルも人間との共存を目指す穏健派だから普通に話が出来る。だけど、魔界の大方の悪魔はそんなんじゃないんだ。下級の奴等なんか会話も出来やしないよ」
「……そういうのを呼んじまうとどーなるんだ?」
俺は恐る恐る尋ねた。
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