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第3章 魔王の参謀と花火大会
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「……サマエルからは逃げられん」
どうも長年の経験に裏打ちされてでもいるような重みのある返答だった。
デスクの上には羊皮紙の山が崩れんばかりにそびえている。
「……頑張ってな」
俺は気の毒なマオをおいて、顔を洗いに一階に向かった。
台所を覗くとサマエルが俺のエプロンをつけて早速料理を始めている。
(悪魔に朝食用意させて大丈夫かな……)
毒でも盛られやしないかと不安はあったが、わざわざそんな事するくらいなら例の物置を消炭にする凶悪ビームでとっくに葬られているだろう。
せっかく手が空いたので、俺は先に洗濯機を回す事にした。
しばらくすると、台所から良い香りが漂いだし、双子も目が覚めたのか二階から降りてきた。
「いいにおいがするー!」
「ごはんなにー?」
香りにつられて、俺も双子と一緒に居間へと向かった。
「おや、皆さんお集まりで。ちょうど朝食が出来たところですよ」
サマエルはにこやかに振り返ると、料理を皿に乗せて卓袱台まで運んで来てくれた。
俺達は急いで席に着くと、皿の中を覗き込む。いつもとは様子の違う、黄色く焦げ目のついたパンと、ウインナーが並んでいた。
「わあー!」
「すてき!」
「あー! なんだっけこれ? えーっと……」
「フレンチトーストです。クラース様を呼んで参りますので、少々お待ち下さい」
そうだ、フレンチトースト。確かに見た事はあるが、自分で作ろうなどど考えた事は一度も無かった。母が作ってくれた記憶さえも無い。
(アイツ、なんでこんな人間界の料理を知ってるんだ?)
俺が不思議に思っていると、マオとサマエルが二階から降りて来た。
まだ今日は始まったばかりだというのに、マオはいつにも増して青白い顔をしている。悪魔らしいといえば悪魔らしいが。
「いただきます!」
俺達はいつものように手を合わせ、さっそく料理にありついた。
「うわ、うま……」
「おいしーい!」
「あまーい!」
プリンような不思議な柔らかさのトーストは、口に入れるとはちみつの甘さと共にじゅわっととろけた。
「気に入っていただけて良かったです」
サマエルは満足そうに横で俺達を見守っている。
「お前、悪魔なのになんでこんなの作れるんだ?」
俺が尋ねると、サマエルは眼鏡を持ち上げながら得意気に胸を張った。
「人間に作れる物が、悪魔に作れない訳がありません。クラース様に人間界での生活がご満足いただけるよう料理については、ある程度調査済みです」
「サマエルはたべないの?」
「うみ様、お心遣いありがとうございます。私は後でいただきます。クラース様、お口に合いましたか?」
「……ああ」
ぼーっとした様子のマオは、フォークを口に運びながら生返事をした。
久しぶりの魔界の仕事が相当堪えているのか、サマエルの監視にうんざりしているのか。あるいはその両方かもしれない。
「そういやあんたは宰相をしてるって言ってたけど、魔界ではマオの部下っていうか、秘書みたいな事もしてるのか?」
俺はサマエルに尋ねながらウインナーを齧った。甘いものとしょっぱいものを交互に楽しめると幸せな気持ちになる。
サマエルは顎に手を当てながら、思い出すように答えた。
「そうですね。魔界全土の情報の掌握や魔王軍の管理等、私の職務の内容は多岐に渡ります。まとめてしまうと、魔界の秩序を魔王様と一緒に保つ傍ら、クラース様が幼少の頃から、側仕えとして身の回りのお世話をさせていただいております」
「幼少って、お前らそんなに歳の差あるのか!?」
サマエルの見た目は、どう見ても二十代後半から三十代といったところだ。マオが幼児なら、サマエルもまだ子どもだろう。
どうも長年の経験に裏打ちされてでもいるような重みのある返答だった。
デスクの上には羊皮紙の山が崩れんばかりにそびえている。
「……頑張ってな」
俺は気の毒なマオをおいて、顔を洗いに一階に向かった。
台所を覗くとサマエルが俺のエプロンをつけて早速料理を始めている。
(悪魔に朝食用意させて大丈夫かな……)
毒でも盛られやしないかと不安はあったが、わざわざそんな事するくらいなら例の物置を消炭にする凶悪ビームでとっくに葬られているだろう。
せっかく手が空いたので、俺は先に洗濯機を回す事にした。
しばらくすると、台所から良い香りが漂いだし、双子も目が覚めたのか二階から降りてきた。
「いいにおいがするー!」
「ごはんなにー?」
香りにつられて、俺も双子と一緒に居間へと向かった。
「おや、皆さんお集まりで。ちょうど朝食が出来たところですよ」
サマエルはにこやかに振り返ると、料理を皿に乗せて卓袱台まで運んで来てくれた。
俺達は急いで席に着くと、皿の中を覗き込む。いつもとは様子の違う、黄色く焦げ目のついたパンと、ウインナーが並んでいた。
「わあー!」
「すてき!」
「あー! なんだっけこれ? えーっと……」
「フレンチトーストです。クラース様を呼んで参りますので、少々お待ち下さい」
そうだ、フレンチトースト。確かに見た事はあるが、自分で作ろうなどど考えた事は一度も無かった。母が作ってくれた記憶さえも無い。
(アイツ、なんでこんな人間界の料理を知ってるんだ?)
俺が不思議に思っていると、マオとサマエルが二階から降りて来た。
まだ今日は始まったばかりだというのに、マオはいつにも増して青白い顔をしている。悪魔らしいといえば悪魔らしいが。
「いただきます!」
俺達はいつものように手を合わせ、さっそく料理にありついた。
「うわ、うま……」
「おいしーい!」
「あまーい!」
プリンような不思議な柔らかさのトーストは、口に入れるとはちみつの甘さと共にじゅわっととろけた。
「気に入っていただけて良かったです」
サマエルは満足そうに横で俺達を見守っている。
「お前、悪魔なのになんでこんなの作れるんだ?」
俺が尋ねると、サマエルは眼鏡を持ち上げながら得意気に胸を張った。
「人間に作れる物が、悪魔に作れない訳がありません。クラース様に人間界での生活がご満足いただけるよう料理については、ある程度調査済みです」
「サマエルはたべないの?」
「うみ様、お心遣いありがとうございます。私は後でいただきます。クラース様、お口に合いましたか?」
「……ああ」
ぼーっとした様子のマオは、フォークを口に運びながら生返事をした。
久しぶりの魔界の仕事が相当堪えているのか、サマエルの監視にうんざりしているのか。あるいはその両方かもしれない。
「そういやあんたは宰相をしてるって言ってたけど、魔界ではマオの部下っていうか、秘書みたいな事もしてるのか?」
俺はサマエルに尋ねながらウインナーを齧った。甘いものとしょっぱいものを交互に楽しめると幸せな気持ちになる。
サマエルは顎に手を当てながら、思い出すように答えた。
「そうですね。魔界全土の情報の掌握や魔王軍の管理等、私の職務の内容は多岐に渡ります。まとめてしまうと、魔界の秩序を魔王様と一緒に保つ傍ら、クラース様が幼少の頃から、側仕えとして身の回りのお世話をさせていただいております」
「幼少って、お前らそんなに歳の差あるのか!?」
サマエルの見た目は、どう見ても二十代後半から三十代といったところだ。マオが幼児なら、サマエルもまだ子どもだろう。
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