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第3章 魔王の参謀と花火大会

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「あー、かちごり……」

 既に解体を始めていたかき氷屋を横目に、そらが物欲しそうにつぶやく。

「かき氷屋さんは閉っちまったな……。また今度別のお祭りで買ってやるよ」

 そう言って頭を撫でると、そらはちょっとだけ寂しそうに頷いた。

「かき氷とは何だ?」

 横を歩いていたマオが尋ねる。

「氷を細かく削って、上からシロップをかけて食べる氷のお菓子だな。苺とかレモンとか、色々な味があるんだ」

「ほう、氷の菓子か……一度食べてみたいものだ」

 サマエルは黙って俺達の後ろをついてきている。

「あ、あったぜ!」

 俺は閉店に向けて値下げしている屋台を見つけて、無事にたこ焼きと焼きそばをゲットした。

 五人でうちへ帰ると、手を洗って買って来たパックを並べ、早速皆んなで卓袱台を囲んだ。

(デカいのが増えて席が足りねえ……)

 卓袱台は四角いので四人が定員だった。テーブルもあるのだが、双子が危なっかしいので、食事はいつもこっちで摂っているのだ。

 俺は仕方なくそらを膝の上に乗せて座る。掘りごたつで脚が伸ばせるのが救いだ。
 夏場はもちろん使っていないが、座るのが楽なのでうちは年中開けっぱなしにしていた。

 マオもサマエルも長い脚を折り畳むのは大変そうなので、やっぱり開けておいて良かった。

「よーし、それじゃ食べようぜ」

「いたーきます!」

 サマエルを除く四人は同時に手を合わせると、各々割り箸を手にした。

「い、いただきます……」

 サマエルもマオに倣って手を合わせると割り箸を割る。

「おぢさんだれ?」

 そらはたこ焼きを一口齧ると、サマエルを不思議そうに見つめた。
 確かに、見知らぬ男が突然食卓についていたら当然浮かぶ疑問である。

「がいこくのひと?」

 うみも焼きそばを持ち上げる手を止めて首を傾げている。

「ふん……恐れるなよ子ども達。私はサマエル・アガリアレプト。魔界の宰相であり、クラース様のお目付役である」

 サマエルは中指でクイと眼鏡を持ち上げた。子ども相手にカッコつけてるつもりなのだろうか。

「さいしょのおめちゅけてなに?」

「マオのともだちー?」

 案の定、双子には全然伝わっていない。

「サマエルは私の部下だ。仲良くしてやってくれ」

「ぶか?」

「やっぱり、おともだちだよ」

「そか、さまえる、おれそら! よろしく!」

「わたしはうみ。よろしくね」

 双子はにこにこと悪魔の宰相を受け入れた。幼児のおともだちパワーは軽々と種族の壁を越えていく。

「ああ……それで、お前の願いはいつ決まるのだ? 魔王様はご多忙の身、いつまでも人間界に留まられては困るのだが……」

 サマエルは双子へ正確な情報を理解させる事を諦め、俺に本題を持ち掛けてきた。

「んー、だってマオの奴、簡単な願いじゃ魔王に相応しくないって言うし、大きな願いだと対価が支払えないしで決められないんすよ」

 俺はたこ焼きを頬張りながら答える。思ったより大きいタコが入っていた。

「急がずとも良い。留守中の采配はサマエル、お前に任せる」
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