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第3章 魔王の参謀と花火大会

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「はは……長い事浅草に住んでるけど、こんな角度から花火を見るのは初めてだわ……」

 あまりの事に心の整理がつかず、俺はなんだか笑ってしまった。

「お、お待ちくださいクラース様!」

 俺達が空に浮かんだまま花火を眺めていると、眼鏡の悪魔が追い付いて来る。

「お、おいマオ?」

 俺の身体は再び空中を移動し始めた。マオは俺を抱えたまま、近くにあったビルの屋上を目指し、その上にふわりと降り立つ。

「助けてくれてありがとな」

 やっと地面に足が着いた事に安堵して、俺はマオに礼を言った。

「問題ない」

 マオはそう答えながらも、俺達に続いてビルに降り立った悪魔の方を睨んだ。

「何故お逃げになるのですか!? そして、その悪魔とは一体どういう関係なのか、私めにきちんとご説明ください!」

「やっぱ悪魔って、俺の事か?」

 興奮する眼鏡に対し、マオは溜息を吐きながら説明した。

「落ち着けサマエル、幸也は人間だ。彼が私を人間界へ呼び出したのだ。だから彼の願いを叶えるまでは、魔界へは帰れん」

「し、しかしその凶相……こやつ本当に人間ですか? この悪魔に誑かされて、魔界を抜け出したのではなく?」

 サマエルと呼ばれた悪魔はすっかり狼狽している。それにしても失礼な奴だ。

(顔の事はほっといてくれ。というか、悪魔に悪魔と間違われる顔ってどんなだよ……)

 ちょっとだけ傷ついた俺を他所に、マオは呆れたように続けた。

「お前が私を魔界に強制転移させようとするから逃げたのだ。まずは落ち着いて私の話を聞け」

 珍しくマオが威厳を見せる。
 するとサマエルはやっと少し静かになって姿勢を正した。

「しかしクラース様、今の人間界では魔王様を呼び出せるような魔力を集める事は難しいのでは?」

「ふむ、それは私も気になった。だが、事情を聞くと魔導書と鍵を使ったらしくてな。それらに膨大な魔力が宿っていたようだ」

 あのよく分からない本とペンダントにそんな凄い力が込められているなんて、あの時は夢にも思わなかった。

 長身のサマエルの背後で、また次々と花火が上がる。彼は少し難しそうな顔をして眼鏡をクイと持ち上げた。

「魔導書と鍵……? そんなものが一体どこから……まあ、それで呼び出されたクラース様は、悪魔のしきたりに従って、その男と契約を結ぼうとされている訳ですね……。しかし、魔王様が魔界に不在では、悪魔達の統率がままなりません。早急にお戻りいただかなくては……!」

「そうは言ってもなぁ……」

 マオは呑気そうに頭を掻いた。するとサマエルは今度は俺を睨み付け、急に距離を詰めて来る。

「貴様、とっとと願いを言って魔王様を解放するのだ。このお方ほどの魔力が有れば人間の望みなど何だって叶うだろう。さあ、何でも良い。早く願うのだ」

「んな事言われても……」

 眼鏡に詰め寄られて、俺は思わずマオと同じリアクションを取ってしまう。

 すると、風向きが変わったのか俺達の立っている貯水槽の向こう側から、何やら良い香りが漂って来た。

「ん、この香りは……」
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