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第3章 魔王の参謀と花火大会
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「保育園に延長かけられるか聞いてはみますが……」
「出来る限りでいいから、お願いしますっ!」
予定からは遅れてしまうが、それならなんとか花火には間に合いそうだ。
「わかりました……なんとか頑張ります!」
それから、俺とマオは昼前から外でフランクや飲み物を売り始めた。さすがにまだ花火を観に来たという感じの客は少ないが、何人か浴衣姿のお客さんも見かけた。
「いつもお前達が着ている衣服とは雰囲気が異なるな?」
マオは浴衣を見ながら首を傾げた。
「ああ、浴衣だよ。日本の伝統的な衣装……は着物になるのか? ん~、改めて考えるとどう説明したらいいか分かんねーけど、この国の人間は昔あんなような格好をしてたんだ。着物ってやつのもっと涼しくてペラペラしたやつだな」
専門の人が聞いたら怒られそうな雑な説明だが、俺にはそのくらいの言葉しか浮かばなかった。
「涼しいのか……確かにここはちと暑いな……」
いつもは涼しげな表情のマオも、さすがに真夏の直射日光は堪えるらしい。
「もう少しこっち来て傘の下に入ってろよ。熱中症になる前に、ちゃんと休憩貰おうぜ。そうだ、俺の浴衣どっかにしまってある気がするんだよな~。今夜お前着てみるか?」
「興味はあるが、これを売らねばならんのだろう?」
マオは冷静にホットショーケースを軽く小突いた。
「だよな~。双子とも約束しちまったし、せめて花火の開始時間には間に合うと良いんだけど……」
そう話している間にも、昼飯を買いに来た近所の会社員が数本買ってくれたが、バックヤードにはまだ山のようにフランクフルトがある。
「もし時間までに売り切れなければ、お前だけ先に上がらせて貰え。俺が代わりにお前の分も売っておいてやろう」
マオは真顔でさらりとそう言った。悪魔の王からこんなに自然に、親切な台詞が飛び出してくるものだろうか。
「お前……さては本気のイケメンだな?」
「? いけめんとはなんだ?」
マオはきょとんとしている。魔王ってやつは、人間を苦しめて喜ぶような極悪非道の代名詞ではなかったのだろうか。
この一週間一緒に暮らしていても、彼から邪悪さは微塵も感じられない。むしろマオはとても素直な性格をしていた。
(コイツ、本当に魔王なのか……? なんか普通に良い奴なんだよな……)
ジリジリと太陽に照りつけられながら、俺達は屋台に立ち続けた。
午後からは客足も増え始めた。店長と相談して、数本まとめて買うと安くなるように価格設定を工夫したりしたので、一気に十本近く売れる事もあった。花火大会に合わせて、家族や親戚が集まっている家もあるのだろう。
「あ、こっち無くなってきたな……」
「ほいほい、追加分でござるよ!」
ホットショーケースの中身が減ってくると、すぐに店内から補充分が運ばれて来る。
午後から斉藤さんが焼き担当に加わったので、店内でフランクも焼き鳥もどんどん量産してくれていた。
「拙者、正直接客より黙々と作業する方が得意でござるよ。焼き作業は任せるでござる!」
「斉藤殿は頼もしいな」
「いやいや、客集めと販売は拙者には向きませぬ故、其方はマオ殿を頼りにしているでござる」
実際、イケメン店員が居るという噂でも広がったのか、徐々に女性客が増えてきていた。
(このままいけば、時間までに売り切れるんじゃないか……?)
俺は淡い期待に胸躍らせながら、先頭の客にフランクを手渡した。
「出来る限りでいいから、お願いしますっ!」
予定からは遅れてしまうが、それならなんとか花火には間に合いそうだ。
「わかりました……なんとか頑張ります!」
それから、俺とマオは昼前から外でフランクや飲み物を売り始めた。さすがにまだ花火を観に来たという感じの客は少ないが、何人か浴衣姿のお客さんも見かけた。
「いつもお前達が着ている衣服とは雰囲気が異なるな?」
マオは浴衣を見ながら首を傾げた。
「ああ、浴衣だよ。日本の伝統的な衣装……は着物になるのか? ん~、改めて考えるとどう説明したらいいか分かんねーけど、この国の人間は昔あんなような格好をしてたんだ。着物ってやつのもっと涼しくてペラペラしたやつだな」
専門の人が聞いたら怒られそうな雑な説明だが、俺にはそのくらいの言葉しか浮かばなかった。
「涼しいのか……確かにここはちと暑いな……」
いつもは涼しげな表情のマオも、さすがに真夏の直射日光は堪えるらしい。
「もう少しこっち来て傘の下に入ってろよ。熱中症になる前に、ちゃんと休憩貰おうぜ。そうだ、俺の浴衣どっかにしまってある気がするんだよな~。今夜お前着てみるか?」
「興味はあるが、これを売らねばならんのだろう?」
マオは冷静にホットショーケースを軽く小突いた。
「だよな~。双子とも約束しちまったし、せめて花火の開始時間には間に合うと良いんだけど……」
そう話している間にも、昼飯を買いに来た近所の会社員が数本買ってくれたが、バックヤードにはまだ山のようにフランクフルトがある。
「もし時間までに売り切れなければ、お前だけ先に上がらせて貰え。俺が代わりにお前の分も売っておいてやろう」
マオは真顔でさらりとそう言った。悪魔の王からこんなに自然に、親切な台詞が飛び出してくるものだろうか。
「お前……さては本気のイケメンだな?」
「? いけめんとはなんだ?」
マオはきょとんとしている。魔王ってやつは、人間を苦しめて喜ぶような極悪非道の代名詞ではなかったのだろうか。
この一週間一緒に暮らしていても、彼から邪悪さは微塵も感じられない。むしろマオはとても素直な性格をしていた。
(コイツ、本当に魔王なのか……? なんか普通に良い奴なんだよな……)
ジリジリと太陽に照りつけられながら、俺達は屋台に立ち続けた。
午後からは客足も増え始めた。店長と相談して、数本まとめて買うと安くなるように価格設定を工夫したりしたので、一気に十本近く売れる事もあった。花火大会に合わせて、家族や親戚が集まっている家もあるのだろう。
「あ、こっち無くなってきたな……」
「ほいほい、追加分でござるよ!」
ホットショーケースの中身が減ってくると、すぐに店内から補充分が運ばれて来る。
午後から斉藤さんが焼き担当に加わったので、店内でフランクも焼き鳥もどんどん量産してくれていた。
「拙者、正直接客より黙々と作業する方が得意でござるよ。焼き作業は任せるでござる!」
「斉藤殿は頼もしいな」
「いやいや、客集めと販売は拙者には向きませぬ故、其方はマオ殿を頼りにしているでござる」
実際、イケメン店員が居るという噂でも広がったのか、徐々に女性客が増えてきていた。
(このままいけば、時間までに売り切れるんじゃないか……?)
俺は淡い期待に胸躍らせながら、先頭の客にフランクを手渡した。
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※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
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