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第2章 魔王様バイトをはじめる
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「昔は全部瓶だったから、ビー玉は取り出せなかったんだ。瓶ごと店に返してたらしいぜ」
俺は残りをゴミ箱に捨てると、飲み終わったマオのラムネからもビー玉を取り出した。
「そらとうみにあげたら喜ば……ないか……なんとなく出しちゃったけど、やっぱ要らないかな?」
「不要なら私にくれないか?」
「え? ただのガラス玉だぜ?」
「いいんだ。記念に貰っておく」
何の記念だか分からないが、俺はビー玉をマオに手渡した。彼は面白そうにそれを摘んで中を覗くと、大切そうにポケットにしまった。
まどろみに向かう前に、浅草寺に寄ってみようかとも思ったが、お寺に悪魔の王を連れて行って良いものか迷ったので、雷門の前だけ通る事にした。
雷門の辺りは、やはり観光客が多く大変な賑わいだった。門の前は写真を撮る人や待ち合わせをする人で溢れ、通りでは人力車が彼等を呼び止めている。
「すごい数の人間だな」
「夏休みだし、日本屈指の観光スポットだからな~。ああ、あれが雷門な」
俺がマオに説明していると、不意に後ろから声を掛けられた。
「幸也君じゃないか?」
振り返ると、女の子二人を侍らせて人力車に乗った男が、こちらをニヤニヤした顔で見下ろしていた。
「……げ、福山月斗」
彼は中学まで同じ学校に通っていたボンボン息子だ。父親が社長だとかで、昔から人を馬鹿にしたような偉そうな態度が気に入らなかった。
奴は今日もリーゼントを爆発させたような無駄に挑発的な髪型で、ブランドものらしきポロシャツに金ネックレスという、何とも受け入れ難い格好をしていた。
顔は悪くない方なのだろうが、この女の子達もよくこんな壊滅的なセンスの男と市中を練り歩けるなと呆れてしまう。
月斗は高校から大学まで一貫のクソ高い私立校に入学していたので、高校に入ってからはこうして街中で鉢合わせる以外に話す事は無くなっていた。
元々仲良くもなかったが、奴は昔から妙に俺に絡んでくるところがあって正直迷惑だった。
「……大学はどーしたんだよ?」
俺が仕方なく反応してやると、月斗は白い歯を輝かせて返答した。肌が小麦色に焼けているので、歯だけ妙に浮いて見える。
「夏休みさ! 彼女達はテニサーのお友達。幸也君も夏をエンジョイしてるかい?」
「まーな」
俺は適当に返事をしたが、腹の中では盛大に悪態をついていた。
(なーにが夏をエンジョイだ。こっちは季節問わず毎日バイト三昧だっつーの!)
俺はとっとと奴から離れようと、すぐに背を向けた。すると、追い掛けるように月斗が質問する。
「彼はお友達かい? 見ない顔だけど?」
両サイドの女の子達も、なにやらきゃっきゃと騒いでいた。
「私か? 私はま……」
「いくぞ」
俺はマオの腕を掴んで通りを離れ、雷門の脇、仲見世通りの裏道へと滑り込んだ。
「良いのか? 知り合いだろう?」
「腐れ縁だ。関係ない」
マオは俺の不機嫌さを悟ったのか、それ以上は何も言わなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
俺は残りをゴミ箱に捨てると、飲み終わったマオのラムネからもビー玉を取り出した。
「そらとうみにあげたら喜ば……ないか……なんとなく出しちゃったけど、やっぱ要らないかな?」
「不要なら私にくれないか?」
「え? ただのガラス玉だぜ?」
「いいんだ。記念に貰っておく」
何の記念だか分からないが、俺はビー玉をマオに手渡した。彼は面白そうにそれを摘んで中を覗くと、大切そうにポケットにしまった。
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雷門の辺りは、やはり観光客が多く大変な賑わいだった。門の前は写真を撮る人や待ち合わせをする人で溢れ、通りでは人力車が彼等を呼び止めている。
「すごい数の人間だな」
「夏休みだし、日本屈指の観光スポットだからな~。ああ、あれが雷門な」
俺がマオに説明していると、不意に後ろから声を掛けられた。
「幸也君じゃないか?」
振り返ると、女の子二人を侍らせて人力車に乗った男が、こちらをニヤニヤした顔で見下ろしていた。
「……げ、福山月斗」
彼は中学まで同じ学校に通っていたボンボン息子だ。父親が社長だとかで、昔から人を馬鹿にしたような偉そうな態度が気に入らなかった。
奴は今日もリーゼントを爆発させたような無駄に挑発的な髪型で、ブランドものらしきポロシャツに金ネックレスという、何とも受け入れ難い格好をしていた。
顔は悪くない方なのだろうが、この女の子達もよくこんな壊滅的なセンスの男と市中を練り歩けるなと呆れてしまう。
月斗は高校から大学まで一貫のクソ高い私立校に入学していたので、高校に入ってからはこうして街中で鉢合わせる以外に話す事は無くなっていた。
元々仲良くもなかったが、奴は昔から妙に俺に絡んでくるところがあって正直迷惑だった。
「……大学はどーしたんだよ?」
俺が仕方なく反応してやると、月斗は白い歯を輝かせて返答した。肌が小麦色に焼けているので、歯だけ妙に浮いて見える。
「夏休みさ! 彼女達はテニサーのお友達。幸也君も夏をエンジョイしてるかい?」
「まーな」
俺は適当に返事をしたが、腹の中では盛大に悪態をついていた。
(なーにが夏をエンジョイだ。こっちは季節問わず毎日バイト三昧だっつーの!)
俺はとっとと奴から離れようと、すぐに背を向けた。すると、追い掛けるように月斗が質問する。
「彼はお友達かい? 見ない顔だけど?」
両サイドの女の子達も、なにやらきゃっきゃと騒いでいた。
「私か? 私はま……」
「いくぞ」
俺はマオの腕を掴んで通りを離れ、雷門の脇、仲見世通りの裏道へと滑り込んだ。
「良いのか? 知り合いだろう?」
「腐れ縁だ。関係ない」
マオは俺の不機嫌さを悟ったのか、それ以上は何も言わなかった。
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