21 / 92
第2章 魔王様バイトをはじめる
19
しおりを挟む
「どうした? 何故逃げ出すんだ?」
「に、逃げる訳じゃねーけどっ……ほら、バイト先いかねーと」
彼は自分の顔面偏差値について自覚が無いようだった。
「ばいと?」
「お、し、ご、との事! そーだ、お前のバイトも探してやらないとな……まーとりあえず、今日は例の古本屋の片付けから手伝って貰おうかな。ご主人も留守だから、いきなりお前を連れてっても問題ないだろうし」
「古本屋か……分かった。幸也、場所をイメージしろ」
「え?」
話の意図が分からなかったが、俺は言われるまま、あのボロい古本屋を思い浮かべた。
すると、先程と同じような感覚に襲われ視界が歪み、気が付くと俺達は古本屋の前に立っていた。
「便利なもんだな……」
雷光速も置いて来てしまったし、道中の不幸連鎖をショートカット出来るのは大変ありがたい。
「俺は場所を知らないが、お前が行った事のある場所ならイメージを共有して貰えば転移出来る。……それで仕事場所は本当にこの……廃墟なのか?」
「……一応な」
気持ちは分かるが、これでも普段は現役で開店しているのだ。ただ今日は臨時休業と書かれた紙がガラス戸に貼ってあった。
しかし、そんな張り紙の横でなにやら黒い帽子と服を着た男が、ガラス越しに店の中を覗いている。
「あの……何か御用ですか? 今日、店は休みですけど……」
俺が声を掛けると、その男は驚いたように此方を振り向き、何も言わずに素早く立ち去った。
「黒ずくめにサングラス……このクソ暑い中、あんな格好で何してたんだ……?」
借金取りにしてはコソコソしているし、空き巣だったらもっと金のありそうな家を選ぶだろう。
「まあ、いっか、行こうぜマオ」
「ああ」
俺はご主人に言われた通り、店の脇の細い隙間から、店の裏側へと向かった。
少し開いたスペースに抜けると、すぐ目の前に、あの既に倒壊寸前五秒前みたいな建屋がそびえていた。
「こいつが昨日話した物置な。こん中の大量の古本を処分するために、種類毎にビニール紐で結んでまとめるのが俺達の仕事……」
「ふん、だが要は廃棄が目的なのだろう?」
「え、まあ、そうだけど……?」
マオは物置に向かって手をかざすと、何やらブツブツと唱え始めた。
「ちょっと、おま……何してんの?」
うっすらと魔王の顔に、悪魔の紋様が浮かび、手のひらに赤い光が集まり始めた。
「おいおい、まさか……」
カッ!
次の瞬間、魔王の手から凝縮された赤い閃光が放たれ、物置に直撃する。
扉を貫通した光は、ボロ屋の内部で膨張し、物置は豪快な爆発音をたてて一瞬で灰になった。
何もなくなった裏庭を眺めて、俺はしばらく呆然としていたが、耳を塞いでいた手を離すとマオに詰め寄った。
「おおおおい!? 何やってんだお前!?」
「? 望み通り片付けてやったのだろう?」
魔王は何故褒めてくれないのだとばかりに小首を傾げた。
「だからって、建屋ごと消炭にする奴があるかっ!!」
「に、逃げる訳じゃねーけどっ……ほら、バイト先いかねーと」
彼は自分の顔面偏差値について自覚が無いようだった。
「ばいと?」
「お、し、ご、との事! そーだ、お前のバイトも探してやらないとな……まーとりあえず、今日は例の古本屋の片付けから手伝って貰おうかな。ご主人も留守だから、いきなりお前を連れてっても問題ないだろうし」
「古本屋か……分かった。幸也、場所をイメージしろ」
「え?」
話の意図が分からなかったが、俺は言われるまま、あのボロい古本屋を思い浮かべた。
すると、先程と同じような感覚に襲われ視界が歪み、気が付くと俺達は古本屋の前に立っていた。
「便利なもんだな……」
雷光速も置いて来てしまったし、道中の不幸連鎖をショートカット出来るのは大変ありがたい。
「俺は場所を知らないが、お前が行った事のある場所ならイメージを共有して貰えば転移出来る。……それで仕事場所は本当にこの……廃墟なのか?」
「……一応な」
気持ちは分かるが、これでも普段は現役で開店しているのだ。ただ今日は臨時休業と書かれた紙がガラス戸に貼ってあった。
しかし、そんな張り紙の横でなにやら黒い帽子と服を着た男が、ガラス越しに店の中を覗いている。
「あの……何か御用ですか? 今日、店は休みですけど……」
俺が声を掛けると、その男は驚いたように此方を振り向き、何も言わずに素早く立ち去った。
「黒ずくめにサングラス……このクソ暑い中、あんな格好で何してたんだ……?」
借金取りにしてはコソコソしているし、空き巣だったらもっと金のありそうな家を選ぶだろう。
「まあ、いっか、行こうぜマオ」
「ああ」
俺はご主人に言われた通り、店の脇の細い隙間から、店の裏側へと向かった。
少し開いたスペースに抜けると、すぐ目の前に、あの既に倒壊寸前五秒前みたいな建屋がそびえていた。
「こいつが昨日話した物置な。こん中の大量の古本を処分するために、種類毎にビニール紐で結んでまとめるのが俺達の仕事……」
「ふん、だが要は廃棄が目的なのだろう?」
「え、まあ、そうだけど……?」
マオは物置に向かって手をかざすと、何やらブツブツと唱え始めた。
「ちょっと、おま……何してんの?」
うっすらと魔王の顔に、悪魔の紋様が浮かび、手のひらに赤い光が集まり始めた。
「おいおい、まさか……」
カッ!
次の瞬間、魔王の手から凝縮された赤い閃光が放たれ、物置に直撃する。
扉を貫通した光は、ボロ屋の内部で膨張し、物置は豪快な爆発音をたてて一瞬で灰になった。
何もなくなった裏庭を眺めて、俺はしばらく呆然としていたが、耳を塞いでいた手を離すとマオに詰め寄った。
「おおおおい!? 何やってんだお前!?」
「? 望み通り片付けてやったのだろう?」
魔王は何故褒めてくれないのだとばかりに小首を傾げた。
「だからって、建屋ごと消炭にする奴があるかっ!!」
0
お気に入りに追加
36
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる