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第2章 魔王様バイトをはじめる

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「どうした? 何故逃げ出すんだ?」

「に、逃げる訳じゃねーけどっ……ほら、バイト先いかねーと」

 彼は自分の顔面偏差値について自覚が無いようだった。

「ばいと?」

「お、し、ご、との事! そーだ、お前のバイトも探してやらないとな……まーとりあえず、今日は例の古本屋の片付けから手伝って貰おうかな。ご主人も留守だから、いきなりお前を連れてっても問題ないだろうし」

「古本屋か……分かった。幸也、場所をイメージしろ」

「え?」

 話の意図が分からなかったが、俺は言われるまま、あのボロい古本屋を思い浮かべた。

 すると、先程と同じような感覚に襲われ視界が歪み、気が付くと俺達は古本屋の前に立っていた。

「便利なもんだな……」

 雷光速も置いて来てしまったし、道中の不幸連鎖をショートカット出来るのは大変ありがたい。

「俺は場所を知らないが、お前が行った事のある場所ならイメージを共有して貰えば転移出来る。……それで仕事場所は本当にこの……廃墟なのか?」

「……一応な」

 気持ちは分かるが、これでも普段は現役で開店しているのだ。ただ今日は臨時休業と書かれた紙がガラス戸に貼ってあった。

 しかし、そんな張り紙の横でなにやら黒い帽子と服を着た男が、ガラス越しに店の中を覗いている。

「あの……何か御用ですか? 今日、店は休みですけど……」

 俺が声を掛けると、その男は驚いたように此方を振り向き、何も言わずに素早く立ち去った。

「黒ずくめにサングラス……このクソ暑い中、あんな格好で何してたんだ……?」

 借金取りにしてはコソコソしているし、空き巣だったらもっと金のありそうな家を選ぶだろう。

「まあ、いっか、行こうぜマオ」

「ああ」

 俺はご主人に言われた通り、店の脇の細い隙間から、店の裏側へと向かった。

 少し開いたスペースに抜けると、すぐ目の前に、あの既に倒壊寸前五秒前みたいな建屋がそびえていた。

「こいつが昨日話した物置な。こん中の大量の古本を処分するために、種類毎にビニール紐で結んでまとめるのが俺達の仕事……」

「ふん、だが要は廃棄が目的なのだろう?」

「え、まあ、そうだけど……?」

 マオは物置に向かって手をかざすと、何やらブツブツと唱え始めた。

「ちょっと、おま……何してんの?」

 うっすらと魔王の顔に、悪魔の紋様が浮かび、手のひらに赤い光が集まり始めた。

「おいおい、まさか……」

 カッ!

 次の瞬間、魔王の手から凝縮された赤い閃光が放たれ、物置に直撃する。
 扉を貫通した光は、ボロ屋の内部で膨張し、物置は豪快な爆発音をたてて一瞬で灰になった。

 何もなくなった裏庭を眺めて、俺はしばらく呆然としていたが、耳を塞いでいた手を離すとマオに詰め寄った。

「おおおおい!? 何やってんだお前!?」

「? 望み通り片付けてやったのだろう?」

 魔王は何故褒めてくれないのだとばかりに小首を傾げた。

「だからって、建屋ごと消炭にする奴があるかっ!!」
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