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第2章 魔王様バイトをはじめる
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「……はあ、福引きで温泉旅行に?」
翌朝、着替えて顔を洗ったところで、古本屋のご主人から電話があった。
「いやー、昨日言い忘れとっての。倉庫整理の続きは留守中に勝手に進めてくれて構わんのでな。店に入らんでも、脇から裏に抜けられるから好きに出入りしとくれ。明後日には帰るわ」
「……はい、分かりました」
「扉もいかれとるようだし、なにせ建屋が古いから気を付けてな。この暑い中、昨日みたいに閉じ込められたら敵わんじゃろ……いや~本の整理が終わったら、あのオンボロ物置も取り壊さねばならんのう……じゃあ、宜しくな!」
「ええ、そちらもお気をつけて」
随分突然だが、ご主人は今日から温泉旅行に出掛けるらしい。
露天風呂で温泉成分をしっかり染み込ませているしわしわのご主人を想像しかけたところで、俺は魔王に話し掛けられた。
「幸也……」
「ああ、おはよ。良く寝れた?」
「……ああ。何度か子どもらに乗り上げられたが……問題ない」
魔王は昨晩、俺の貸与したジャージを着て、俺と双子と川の字で眠ったのだった。
「お前の着替えはそこに置いてあるから、俺のサイズ大丈夫そうだし貸してやるよ。また、ペアルックされるのも困るしな……」
俺は椅子の上に置いたTシャツとズボンを示した。
「うむ」
「ゆきにい、マオ、おはよ!」
「おはよー!」
双子も布団から出て来たようだ。
「さて、こっからが忙しいぞ。俺は朝飯の支度をするから、マオはそいつらが着替えるの手伝ってやって!」
「うん?」
「あ、ちなみにこれは願い事じゃなくて指示だから。この家の家長は俺なんで、ここに住む間は家族として協力して貰うからな。アンタがいくら悪魔の王様だって敬語ももう使わないぜ?」
「ふ、そういうものか?」
これから一緒に暮らす中で、彼の不思議な力に屈せず、対等な立場になれるよう牽制したつもりだったが、魔王は特に抗う様子も無く笑っている。
「まーお、てつだって!」
「これだよー」
双子達は保育園のスモッグを持って、マオの足元にしがみついた。
「水色のローブか……何も感じないが、魔法効果は付与されているのか?」
「え、魔法?」
「ふん……何もないのか。よし、特別に物理防御魔法を付与しておいてやろう」
「ぶつりぼうぎょ?」
魔王はスモッグを二着手にすると、目を閉じて何事かぶつぶつと唱え始めた。
「マオどしたの? あれ?」
「およふく、ひかてる!」
光り輝きながら、一瞬ふわりと風に靡くように翻ったスモッグは、すぐにまた元通り魔王の腕に落ち着いた。
「何かのまじないか?」
驚きながら俺が尋ねると、彼は口の端を上げながら頷いた。
「まあ、そんなところだ。さあ子ども達、私の足から離れてくれ。着替えをしよう」
「きらきらおよふく!」
「そらもきるー!」
よく分からないが、保育園に行く時間も迫ってきている。悪いものでも無さそうだし、俺は双子を魔王に任せて朝食の準備を進める事にした。
「えーっと、昨日買ったパンと牛乳と……」
今日はマオのおかげで少し手が空いたので、目玉焼きも焼いてみた。
(ちょっと焦がしちゃったけど……)
毎日練習していけば、少しずつまともな朝食が出来るようになるかもしれない。
俺は早速、マオを住まわせた効果を感じて嬉しくなった。
翌朝、着替えて顔を洗ったところで、古本屋のご主人から電話があった。
「いやー、昨日言い忘れとっての。倉庫整理の続きは留守中に勝手に進めてくれて構わんのでな。店に入らんでも、脇から裏に抜けられるから好きに出入りしとくれ。明後日には帰るわ」
「……はい、分かりました」
「扉もいかれとるようだし、なにせ建屋が古いから気を付けてな。この暑い中、昨日みたいに閉じ込められたら敵わんじゃろ……いや~本の整理が終わったら、あのオンボロ物置も取り壊さねばならんのう……じゃあ、宜しくな!」
「ええ、そちらもお気をつけて」
随分突然だが、ご主人は今日から温泉旅行に出掛けるらしい。
露天風呂で温泉成分をしっかり染み込ませているしわしわのご主人を想像しかけたところで、俺は魔王に話し掛けられた。
「幸也……」
「ああ、おはよ。良く寝れた?」
「……ああ。何度か子どもらに乗り上げられたが……問題ない」
魔王は昨晩、俺の貸与したジャージを着て、俺と双子と川の字で眠ったのだった。
「お前の着替えはそこに置いてあるから、俺のサイズ大丈夫そうだし貸してやるよ。また、ペアルックされるのも困るしな……」
俺は椅子の上に置いたTシャツとズボンを示した。
「うむ」
「ゆきにい、マオ、おはよ!」
「おはよー!」
双子も布団から出て来たようだ。
「さて、こっからが忙しいぞ。俺は朝飯の支度をするから、マオはそいつらが着替えるの手伝ってやって!」
「うん?」
「あ、ちなみにこれは願い事じゃなくて指示だから。この家の家長は俺なんで、ここに住む間は家族として協力して貰うからな。アンタがいくら悪魔の王様だって敬語ももう使わないぜ?」
「ふ、そういうものか?」
これから一緒に暮らす中で、彼の不思議な力に屈せず、対等な立場になれるよう牽制したつもりだったが、魔王は特に抗う様子も無く笑っている。
「まーお、てつだって!」
「これだよー」
双子達は保育園のスモッグを持って、マオの足元にしがみついた。
「水色のローブか……何も感じないが、魔法効果は付与されているのか?」
「え、魔法?」
「ふん……何もないのか。よし、特別に物理防御魔法を付与しておいてやろう」
「ぶつりぼうぎょ?」
魔王はスモッグを二着手にすると、目を閉じて何事かぶつぶつと唱え始めた。
「マオどしたの? あれ?」
「およふく、ひかてる!」
光り輝きながら、一瞬ふわりと風に靡くように翻ったスモッグは、すぐにまた元通り魔王の腕に落ち着いた。
「何かのまじないか?」
驚きながら俺が尋ねると、彼は口の端を上げながら頷いた。
「まあ、そんなところだ。さあ子ども達、私の足から離れてくれ。着替えをしよう」
「きらきらおよふく!」
「そらもきるー!」
よく分からないが、保育園に行く時間も迫ってきている。悪いものでも無さそうだし、俺は双子を魔王に任せて朝食の準備を進める事にした。
「えーっと、昨日買ったパンと牛乳と……」
今日はマオのおかげで少し手が空いたので、目玉焼きも焼いてみた。
(ちょっと焦がしちゃったけど……)
毎日練習していけば、少しずつまともな朝食が出来るようになるかもしれない。
俺は早速、マオを住まわせた効果を感じて嬉しくなった。
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