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第1章 東京浅草、魔王降臨す
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双子と変わらない覚束なさで、なんとかカツとご飯を口に運ぶと、魔王は目を見開いた。
「……美味い」
「人間界の飯もなかなかだろ?」
「マオ、おはしじょうずね」
「じょうずー!」
「……ああ」
相変わらず表情に乏しいが、魔王は少しだけ嬉しそうだった。
「ねーえ、マオはどこからきたの?」
「魔界だ」
「ゆきにいのともだち?」
「彼に呼び出されたのだ」
「あそぶおやくそくをしたのね」
「ねー、ピーマンたべられる?」
「ぴーまんとは何だ?」
魔王は双子の質問責めに遭いながらも、カツ丼を残さず平らげた。
「……これで、さっきの分はチャラになります?」
俺も食い終わって、お茶を飲みながら尋ねる。魔王は深く頷いた。
「ああ、充分だ」
「じゃあ、やっと魔界とやらに帰ってくれるんですね!」
俺が期待を込めて見つめると、魔王は何故かすいと目を逸らした。
(お?)
「確かに先程の分は片付いたが、まだ大した願いは叶えられていないからな……」
実はさっきから薄々感じていたが、願いの中身がどうというより、彼はどうもただ帰りたくないだけなのではないだろうか。
俺は魔王の横顔をじっと見ていたが、ふとその後ろ、鞄からはみ出した本に目がとまった。
「そういえば、アンタが呼び出された原因って結局なんだったんですか?」
俺が尋ねると、話題が変わって嬉しいのか魔王はまたこちらを向いた。
意外と分かり易い性格なのかもしれない。
「ふむ、それについては、お前の話から察するに魔導書と鍵……そして生贄を、逢魔時に大河に捧げ、神をも呪う祈りを捧げたから術が発動したのだろうな……こうも複雑な条件が、良く揃ったものだ」
魔王は腕を組んで感心している。
「魔導書……鍵……生贄?」
魔導書というのは、恐らく古本屋で見つけたあの光る本だろう。そして鍵とはコーヒー豆の袋から出てきた、あの星形の物体だろうか。
(で、生贄って何だ……?)
俺は改めて、隅田川に落とした荷物を思い返し、そして一つの答えに行き着いた。
(……から揚げか!)
確かに、あの時から揚げだけは何故か鞄から消えていた。
(そして、持ち物を全て川に落として、絶望に打ちひしがれた俺は神を呪っていた……)
確かに、恐ろしい程の偶然が重なっていた。俺がさっきの出来事を思い起こしながら呆然としていると、魔王はもぐもぐと飯を頬張りながら付け加えた。
「本来なら百人単位の人柱が必要だが、その魔導書と鍵の膨大な魔力のおかげで生贄の量は少なくて済んだようだな」
「そんなさらっと恐ろしい事言わないでくださいよ! っていうか、そんなすげー本がなんであんな古本屋に……!?」
魔王はお茶を飲んで一息つくと、改まった様子で俺に言った。
「もし、今すぐ願いが決められないというのなら、決まるまで待ってやっても良いぞ?」
「へ?」
一瞬意味が分からず、俺は間抜けな声を上げてしまった。
「お前の願いが決まるまで、ここに住まわせて貰おう」
「は? いやいやいや! だから、願いなんて無いですって!」
「そういう訳にはいかん」
俺は必死に抵抗したが、彼は全く聞く耳を持たなかった。
「……美味い」
「人間界の飯もなかなかだろ?」
「マオ、おはしじょうずね」
「じょうずー!」
「……ああ」
相変わらず表情に乏しいが、魔王は少しだけ嬉しそうだった。
「ねーえ、マオはどこからきたの?」
「魔界だ」
「ゆきにいのともだち?」
「彼に呼び出されたのだ」
「あそぶおやくそくをしたのね」
「ねー、ピーマンたべられる?」
「ぴーまんとは何だ?」
魔王は双子の質問責めに遭いながらも、カツ丼を残さず平らげた。
「……これで、さっきの分はチャラになります?」
俺も食い終わって、お茶を飲みながら尋ねる。魔王は深く頷いた。
「ああ、充分だ」
「じゃあ、やっと魔界とやらに帰ってくれるんですね!」
俺が期待を込めて見つめると、魔王は何故かすいと目を逸らした。
(お?)
「確かに先程の分は片付いたが、まだ大した願いは叶えられていないからな……」
実はさっきから薄々感じていたが、願いの中身がどうというより、彼はどうもただ帰りたくないだけなのではないだろうか。
俺は魔王の横顔をじっと見ていたが、ふとその後ろ、鞄からはみ出した本に目がとまった。
「そういえば、アンタが呼び出された原因って結局なんだったんですか?」
俺が尋ねると、話題が変わって嬉しいのか魔王はまたこちらを向いた。
意外と分かり易い性格なのかもしれない。
「ふむ、それについては、お前の話から察するに魔導書と鍵……そして生贄を、逢魔時に大河に捧げ、神をも呪う祈りを捧げたから術が発動したのだろうな……こうも複雑な条件が、良く揃ったものだ」
魔王は腕を組んで感心している。
「魔導書……鍵……生贄?」
魔導書というのは、恐らく古本屋で見つけたあの光る本だろう。そして鍵とはコーヒー豆の袋から出てきた、あの星形の物体だろうか。
(で、生贄って何だ……?)
俺は改めて、隅田川に落とした荷物を思い返し、そして一つの答えに行き着いた。
(……から揚げか!)
確かに、あの時から揚げだけは何故か鞄から消えていた。
(そして、持ち物を全て川に落として、絶望に打ちひしがれた俺は神を呪っていた……)
確かに、恐ろしい程の偶然が重なっていた。俺がさっきの出来事を思い起こしながら呆然としていると、魔王はもぐもぐと飯を頬張りながら付け加えた。
「本来なら百人単位の人柱が必要だが、その魔導書と鍵の膨大な魔力のおかげで生贄の量は少なくて済んだようだな」
「そんなさらっと恐ろしい事言わないでくださいよ! っていうか、そんなすげー本がなんであんな古本屋に……!?」
魔王はお茶を飲んで一息つくと、改まった様子で俺に言った。
「もし、今すぐ願いが決められないというのなら、決まるまで待ってやっても良いぞ?」
「へ?」
一瞬意味が分からず、俺は間抜けな声を上げてしまった。
「お前の願いが決まるまで、ここに住まわせて貰おう」
「は? いやいやいや! だから、願いなんて無いですって!」
「そういう訳にはいかん」
俺は必死に抵抗したが、彼は全く聞く耳を持たなかった。
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