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第1章 東京浅草、魔王降臨す
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「すごい音がしたから何かと思ったわい」
ご主人が辺りを見回しながら物置に入ってくる。
「すいません、扉が勝手に閉まっちゃって何も見えなくて……本の山を崩してしまいました」
「扉が? 風はそんなに強くも無かったが……そりゃすまんかったのう。じゃあ何か重い本でもつっかえさせとくか……よし、これで大丈夫じゃ」
ご主人は分厚い図鑑のような物を、扉の隙間にねじ込んだ。
不用品とはいえ、あまりに雑な扱いを受ける本が少し哀れだ。
「あの、この本なんですけど……」
光ってましたなんて言って、信じて貰えるか分からないが、俺はとりあえずその不気味な本をご主人に突き出した。
ご主人は、瓶底眼鏡をくいと持ち上げて本を手に取ると、しげしげとそれを眺める。
「んん、なんじゃこりゃ? 何語かさっぱり分からん……それに、これだけ痛んでおると美術的価値も全く無いなあ。はて、こんな本うちにあったかのう? んで、こいつがどうかしたか?」
「いやその……光ってたんです、それ」
俺がそう言うと、ご主人は一瞬ぽかんとしていたが、その本をこちらに返しながら笑った。
「この本がお前さんにとって輝いて見えたと言うなら、持って行って良いぞ。どうせ、ここにある本は全部処分するんじゃ。他にも気に入ったもんがあれば持って行くと良い。じゃあ頼んだぞ」
そう言うと、ご主人はさっさと店に戻ってしまった。別に気に入ったという意味ではなかったのだが。
(読めない古本貰ってもなぁ……)
俺はその後、午前中いっぱいかけて物置の三分の一くらいを片付けた。
古いがまだ読めそうな絵本が何冊か見つかったので、そらとうみ用に貰って帰ろうと思う。
「すいません、今日はここまでになります……」
俺が店に戻ると、カウンターの前に座って新聞を広げていたご主人が顔を上げた。予想通り、店内に客の姿は一人も無い。
「おお、ご苦労さん。んじゃほれ今日の分。また続きも宜しくな」
ご主人は机の脇に置いてあったクシャクシャの茶封筒を掴むと、俺にほいと手渡した。今日の分という事は、別日の分も支給されるようだ。
ぬか漬けみたいとか思ってごめんなさいと心の中で謝罪しながら、俺はそれを受け取る。
「ありがとうございます。あ、絵本を何冊か貰って帰っても良いですか?」
俺はさっき見つけた絵本を、ご主人に広げて見せた。
「おお、ええぞ、好きにせい」
「小さい弟妹がいるので助かります」
俺は報酬と絵本を一緒にバックに仕舞うと、ご主人に挨拶して店を出た。
ちなみに例の光る本は、気にはなったが読めない物を貰っても重いだけだし、物置に置いたままにしておいた。
俺は急いでママチャリに跨り、次のバイト先へ向かう。
と、まあここまでが今日の午前中に起きた出来事だ。俺が説明している間、魔王はただ静かに頷いたり瞬きをしながら話を聞いていた。
「とりあえずこれで半分ですね」
「……お前には弟妹がいるのだな」
魔王は相変わらず表情の無い顔で呟いた。
「ええ、まだ小さいので今日も早く帰らないと心配なんですけどね?」
「そうか、では続きを頼む」
魔王は気付いているのかいないのか、俺の帰りたいアピールを完全に無視すると、話の続きを促した。
(ダメか……こうなったら最後までさっさと話してしまおう)
俺は観念して、そのまま午後の出来事について話し始める。
ご主人が辺りを見回しながら物置に入ってくる。
「すいません、扉が勝手に閉まっちゃって何も見えなくて……本の山を崩してしまいました」
「扉が? 風はそんなに強くも無かったが……そりゃすまんかったのう。じゃあ何か重い本でもつっかえさせとくか……よし、これで大丈夫じゃ」
ご主人は分厚い図鑑のような物を、扉の隙間にねじ込んだ。
不用品とはいえ、あまりに雑な扱いを受ける本が少し哀れだ。
「あの、この本なんですけど……」
光ってましたなんて言って、信じて貰えるか分からないが、俺はとりあえずその不気味な本をご主人に突き出した。
ご主人は、瓶底眼鏡をくいと持ち上げて本を手に取ると、しげしげとそれを眺める。
「んん、なんじゃこりゃ? 何語かさっぱり分からん……それに、これだけ痛んでおると美術的価値も全く無いなあ。はて、こんな本うちにあったかのう? んで、こいつがどうかしたか?」
「いやその……光ってたんです、それ」
俺がそう言うと、ご主人は一瞬ぽかんとしていたが、その本をこちらに返しながら笑った。
「この本がお前さんにとって輝いて見えたと言うなら、持って行って良いぞ。どうせ、ここにある本は全部処分するんじゃ。他にも気に入ったもんがあれば持って行くと良い。じゃあ頼んだぞ」
そう言うと、ご主人はさっさと店に戻ってしまった。別に気に入ったという意味ではなかったのだが。
(読めない古本貰ってもなぁ……)
俺はその後、午前中いっぱいかけて物置の三分の一くらいを片付けた。
古いがまだ読めそうな絵本が何冊か見つかったので、そらとうみ用に貰って帰ろうと思う。
「すいません、今日はここまでになります……」
俺が店に戻ると、カウンターの前に座って新聞を広げていたご主人が顔を上げた。予想通り、店内に客の姿は一人も無い。
「おお、ご苦労さん。んじゃほれ今日の分。また続きも宜しくな」
ご主人は机の脇に置いてあったクシャクシャの茶封筒を掴むと、俺にほいと手渡した。今日の分という事は、別日の分も支給されるようだ。
ぬか漬けみたいとか思ってごめんなさいと心の中で謝罪しながら、俺はそれを受け取る。
「ありがとうございます。あ、絵本を何冊か貰って帰っても良いですか?」
俺はさっき見つけた絵本を、ご主人に広げて見せた。
「おお、ええぞ、好きにせい」
「小さい弟妹がいるので助かります」
俺は報酬と絵本を一緒にバックに仕舞うと、ご主人に挨拶して店を出た。
ちなみに例の光る本は、気にはなったが読めない物を貰っても重いだけだし、物置に置いたままにしておいた。
俺は急いでママチャリに跨り、次のバイト先へ向かう。
と、まあここまでが今日の午前中に起きた出来事だ。俺が説明している間、魔王はただ静かに頷いたり瞬きをしながら話を聞いていた。
「とりあえずこれで半分ですね」
「……お前には弟妹がいるのだな」
魔王は相変わらず表情の無い顔で呟いた。
「ええ、まだ小さいので今日も早く帰らないと心配なんですけどね?」
「そうか、では続きを頼む」
魔王は気付いているのかいないのか、俺の帰りたいアピールを完全に無視すると、話の続きを促した。
(ダメか……こうなったら最後までさっさと話してしまおう)
俺は観念して、そのまま午後の出来事について話し始める。
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