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終章 さよならは春の日に
5.突入
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不安そうな面持ちの甥は、誰も居ないバス停のベンチに座っていた。
『連絡はついたか?』
俺が声を掛けると、夏也は驚いたように顔を上げる。どうやら光の輪が現れた事にも気付かなかったらしい。
これから実行する作戦に緊張しているのかもしれない。
『はい、交番に行って天太と話して、美帆先生にもメールしました。……あの、電話はちょっと気まずかったものですから……』
そういえば、ついさっき彼は告白どころか最早プロポーズに近い発言を彼女にぶちかましていたのだった。
『準備の方は大丈夫でしたか?』
『ああ、やれるだけの事はやってきた。後はどれだけ奴を引き付けておけるかだな……』
俺達は作戦の最終確認をしながら遺跡へと向かった。夜の森は暗く不気味な雰囲気が漂っている。それは、昨年来た時よりも濃くなっているように感じた。
遺跡の最奥、玄室の扉は穴が開いたままだ。俺は恐る恐る穴に近づき様子を伺う。今は扉の近くには何も居ないようだ。
そっと鎌を差し入れてみる。先には何の感覚も反応も無い。隣では夏也も固唾を飲んで見守っている。
(俺達の霊気を感じていないのか?)
餌が自ら近づいてきたら、手を伸ばしてきそうなものだが。そう思っていた矢先、
『グゥァァ……オオオ……』
奥の方から、奴のものらしい咆哮が轟いた。ここからは大分距離がありそうだ。
(今なら突入出来そうだな)
『行くぞ!』
俺は穴を潜り抜けて玄室内部へ侵入した。後から夏也も続く。
玄室の中は真っ暗だが、奥の方に青白い鬼火がぼんやりと浮かんでいるのが見える。かなりの広さがあるように感じた。
ここも例の宴会場のように、半分神域なのかもしれない。
『なんだ……あれは』
鬼火の明かりに照らされて、正面奥に居たそれは、正に異形と言って良い姿を闇に浮かび上がらせていた。
始めは壁に大きな穴でも開いているのかと思った。直径5~6メートルはありそうな、大きく黒い球体。そして、よく見るとその黒い球の表面からは触手のようなものが無数に伸びている。
夏也もそれの正体に気付いたらしく、隣で表情を硬らせていた。
『……腕、あの動いているの全部……腕ですよね?』
黒い塊からは無数の腕が伸び、この苦しみから逃れたいとばかりに宙を掻き毟るように蠢いていた。
その不気味な球体の前、鬼火の隣に長く白い髪を靡かせて神様が立っている。彼は両手を前に突き出すように伸ばして、何やら呟いていたが、不意にこちらを振り返って声を上げた。
『友和……! 夏也まで! 何故来たんじゃ!?』
俺はそれには答えず、神様の方へ向かって歩き出す。
『此方に来てはならん! 暫くすれば月神の網がかかり始める。今すぐ此処を離れるんじゃ!』
神様がこちらを向いて叫んでいると、蛮神の腕が伸びて神様に迫った。
『……くっ!』
神様は向き直り、術に集中した。伸びてきた手を押し戻すように光を放つ。
『早く戻れ! 人間は大人しく神様に守られとくもんじゃ!』
俺達に背を向けたまま、神様は叫んだ。
『お前はどうすんだよ!』
俺は叫んでいた。
『神様とか人間だとか関係ねぇだろ! お前はどうしたいんだよ! ……誰かが勝手に身代わりになるの、俺はもう沢山なんだよ!』
俺は神様に向かって歩き続ける。
『お前が俺達を守りたい理由はなんだ! これからも一緖に居たいからだろ!? 一緖に美味いもの食って、笑ってたいからだろ!?』
『連絡はついたか?』
俺が声を掛けると、夏也は驚いたように顔を上げる。どうやら光の輪が現れた事にも気付かなかったらしい。
これから実行する作戦に緊張しているのかもしれない。
『はい、交番に行って天太と話して、美帆先生にもメールしました。……あの、電話はちょっと気まずかったものですから……』
そういえば、ついさっき彼は告白どころか最早プロポーズに近い発言を彼女にぶちかましていたのだった。
『準備の方は大丈夫でしたか?』
『ああ、やれるだけの事はやってきた。後はどれだけ奴を引き付けておけるかだな……』
俺達は作戦の最終確認をしながら遺跡へと向かった。夜の森は暗く不気味な雰囲気が漂っている。それは、昨年来た時よりも濃くなっているように感じた。
遺跡の最奥、玄室の扉は穴が開いたままだ。俺は恐る恐る穴に近づき様子を伺う。今は扉の近くには何も居ないようだ。
そっと鎌を差し入れてみる。先には何の感覚も反応も無い。隣では夏也も固唾を飲んで見守っている。
(俺達の霊気を感じていないのか?)
餌が自ら近づいてきたら、手を伸ばしてきそうなものだが。そう思っていた矢先、
『グゥァァ……オオオ……』
奥の方から、奴のものらしい咆哮が轟いた。ここからは大分距離がありそうだ。
(今なら突入出来そうだな)
『行くぞ!』
俺は穴を潜り抜けて玄室内部へ侵入した。後から夏也も続く。
玄室の中は真っ暗だが、奥の方に青白い鬼火がぼんやりと浮かんでいるのが見える。かなりの広さがあるように感じた。
ここも例の宴会場のように、半分神域なのかもしれない。
『なんだ……あれは』
鬼火の明かりに照らされて、正面奥に居たそれは、正に異形と言って良い姿を闇に浮かび上がらせていた。
始めは壁に大きな穴でも開いているのかと思った。直径5~6メートルはありそうな、大きく黒い球体。そして、よく見るとその黒い球の表面からは触手のようなものが無数に伸びている。
夏也もそれの正体に気付いたらしく、隣で表情を硬らせていた。
『……腕、あの動いているの全部……腕ですよね?』
黒い塊からは無数の腕が伸び、この苦しみから逃れたいとばかりに宙を掻き毟るように蠢いていた。
その不気味な球体の前、鬼火の隣に長く白い髪を靡かせて神様が立っている。彼は両手を前に突き出すように伸ばして、何やら呟いていたが、不意にこちらを振り返って声を上げた。
『友和……! 夏也まで! 何故来たんじゃ!?』
俺はそれには答えず、神様の方へ向かって歩き出す。
『此方に来てはならん! 暫くすれば月神の網がかかり始める。今すぐ此処を離れるんじゃ!』
神様がこちらを向いて叫んでいると、蛮神の腕が伸びて神様に迫った。
『……くっ!』
神様は向き直り、術に集中した。伸びてきた手を押し戻すように光を放つ。
『早く戻れ! 人間は大人しく神様に守られとくもんじゃ!』
俺達に背を向けたまま、神様は叫んだ。
『お前はどうすんだよ!』
俺は叫んでいた。
『神様とか人間だとか関係ねぇだろ! お前はどうしたいんだよ! ……誰かが勝手に身代わりになるの、俺はもう沢山なんだよ!』
俺は神様に向かって歩き続ける。
『お前が俺達を守りたい理由はなんだ! これからも一緖に居たいからだろ!? 一緖に美味いもの食って、笑ってたいからだろ!?』
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