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終章 さよならは春の日に

4.決戦は満月の夜に

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『はぁぁぁ!?』

 俺が作戦を説明すると、豊月は予想通り大声を上げた。稲荷神社に着くと、俺は直ぐに彼女を呼び出した。

『ほんっとにアンタは、いつもいつも突拍子もない事考えるのね……』

 彼女は腕を組んでうなだれてしまう。俺は豊月の両肩を掴みながら懇願した。

『頼む。宇迦様の協力が必要なんだ! もう、お前にしか頼めないんだよ!』

『私からもお願いします……!』

『ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! 分かったわよ、直ぐ伝えて来るから!』

 豊月は顔を赤くしながら、社に向かって逃げるように踵を返す。頼られると断れないのが、この狐の性分だった。

 彼女が消えてから数分後、辺りに白い霧が立ち込め、豊月は宇迦様を連れて再び俺達の前に現れた。

 宇迦様はこちらに進み出ると、いつもより少し早口で話し始めた。

『友和、話は聞いたわ。アタシもあの神を犠牲にする計画までは気付かなかった……。出来る限り協力はさせて貰うけど、月神の術師達は既に詠唱の最終段階に入ってる。今夜は満月。彼等の力がピークに達する子の刻には、恐らく術を発動するつもりだわ』

『今夜だなんて……準備、間に合うかな……』

 夏也が不安そうな声を出す。確かにもう時間が無い。

『そっちで神様と月神の姿は見掛けなかったか?』

 宇迦様は残念そうな表情をすると、頭を振った。

『……見てないわね。でも最後の力を授けられて、彼も今夜星呼山遺跡に向かう筈よ』

 決戦は今夜だ。それまでに俺達はやれる事をやるしかない。

『夏也、お前は天太と美帆に作戦は今夜決行だと伝えてくれ。日が沈んだら星呼山麓のバス停で集合しよう。俺は一度霊界に戻る。宇迦様、神界に戻ったら俺と西原をそっちに呼んでくれ、準備を手伝う』

『分かったわ……』

 宇迦様は頷いた。豊月はその後ろで、難しそうな顔をして腕を組んでいる。
 すると夏也が口を開いた。

『シュンはどうしますか……?』

『アイツは今頃もう家に帰っているだろう。俺達が遺跡に行くと聞いたら、ついて来ちまうかもしれない。家で大人しくしているように、天太に様子を見に行って貰えると良いんだが……』

『……そうですね。合わせて頼んでみます』

『よし、じゃあ後でな』

 俺はそう言うと、ゲートを開くべく鎌を振りかざした。その瞬間、それまで黙っていた豊月がこちらに踏み出す。

『宇迦様まで巻き込んで迷惑掛けるんだから、アンタ達二人共無事に帰って来なきゃ承知しないからね!』

 怒ったような、今にも泣き出しそうな顔だ。そんな彼女を見て宇迦様が笑った。

『あら、先に言われちゃったわ』

 長く一緖にいる者同士は似てくると言うが、彼女達の気の良いところはそっくりだ。

『ああ、約束する』

(……二人に出会えて良かった)

 そんな事を感じながら、俺は鎌を振ってゲートを開くと、光に飛び込み霊界へと戻った。
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