117 / 131
終章 さよならは春の日に
4.決戦は満月の夜に
しおりを挟む
『はぁぁぁ!?』
俺が作戦を説明すると、豊月は予想通り大声を上げた。稲荷神社に着くと、俺は直ぐに彼女を呼び出した。
『ほんっとにアンタは、いつもいつも突拍子もない事考えるのね……』
彼女は腕を組んでうなだれてしまう。俺は豊月の両肩を掴みながら懇願した。
『頼む。宇迦様の協力が必要なんだ! もう、お前にしか頼めないんだよ!』
『私からもお願いします……!』
『ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! 分かったわよ、直ぐ伝えて来るから!』
豊月は顔を赤くしながら、社に向かって逃げるように踵を返す。頼られると断れないのが、この狐の性分だった。
彼女が消えてから数分後、辺りに白い霧が立ち込め、豊月は宇迦様を連れて再び俺達の前に現れた。
宇迦様はこちらに進み出ると、いつもより少し早口で話し始めた。
『友和、話は聞いたわ。アタシもあの神を犠牲にする計画までは気付かなかった……。出来る限り協力はさせて貰うけど、月神の術師達は既に詠唱の最終段階に入ってる。今夜は満月。彼等の力がピークに達する子の刻には、恐らく術を発動するつもりだわ』
『今夜だなんて……準備、間に合うかな……』
夏也が不安そうな声を出す。確かにもう時間が無い。
『そっちで神様と月神の姿は見掛けなかったか?』
宇迦様は残念そうな表情をすると、頭を振った。
『……見てないわね。でも最後の力を授けられて、彼も今夜星呼山遺跡に向かう筈よ』
決戦は今夜だ。それまでに俺達はやれる事をやるしかない。
『夏也、お前は天太と美帆に作戦は今夜決行だと伝えてくれ。日が沈んだら星呼山麓のバス停で集合しよう。俺は一度霊界に戻る。宇迦様、神界に戻ったら俺と西原をそっちに呼んでくれ、準備を手伝う』
『分かったわ……』
宇迦様は頷いた。豊月はその後ろで、難しそうな顔をして腕を組んでいる。
すると夏也が口を開いた。
『シュンはどうしますか……?』
『アイツは今頃もう家に帰っているだろう。俺達が遺跡に行くと聞いたら、ついて来ちまうかもしれない。家で大人しくしているように、天太に様子を見に行って貰えると良いんだが……』
『……そうですね。合わせて頼んでみます』
『よし、じゃあ後でな』
俺はそう言うと、ゲートを開くべく鎌を振りかざした。その瞬間、それまで黙っていた豊月がこちらに踏み出す。
『宇迦様まで巻き込んで迷惑掛けるんだから、アンタ達二人共無事に帰って来なきゃ承知しないからね!』
怒ったような、今にも泣き出しそうな顔だ。そんな彼女を見て宇迦様が笑った。
『あら、先に言われちゃったわ』
長く一緖にいる者同士は似てくると言うが、彼女達の気の良いところはそっくりだ。
『ああ、約束する』
(……二人に出会えて良かった)
そんな事を感じながら、俺は鎌を振ってゲートを開くと、光に飛び込み霊界へと戻った。
俺が作戦を説明すると、豊月は予想通り大声を上げた。稲荷神社に着くと、俺は直ぐに彼女を呼び出した。
『ほんっとにアンタは、いつもいつも突拍子もない事考えるのね……』
彼女は腕を組んでうなだれてしまう。俺は豊月の両肩を掴みながら懇願した。
『頼む。宇迦様の協力が必要なんだ! もう、お前にしか頼めないんだよ!』
『私からもお願いします……!』
『ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! 分かったわよ、直ぐ伝えて来るから!』
豊月は顔を赤くしながら、社に向かって逃げるように踵を返す。頼られると断れないのが、この狐の性分だった。
彼女が消えてから数分後、辺りに白い霧が立ち込め、豊月は宇迦様を連れて再び俺達の前に現れた。
宇迦様はこちらに進み出ると、いつもより少し早口で話し始めた。
『友和、話は聞いたわ。アタシもあの神を犠牲にする計画までは気付かなかった……。出来る限り協力はさせて貰うけど、月神の術師達は既に詠唱の最終段階に入ってる。今夜は満月。彼等の力がピークに達する子の刻には、恐らく術を発動するつもりだわ』
『今夜だなんて……準備、間に合うかな……』
夏也が不安そうな声を出す。確かにもう時間が無い。
『そっちで神様と月神の姿は見掛けなかったか?』
宇迦様は残念そうな表情をすると、頭を振った。
『……見てないわね。でも最後の力を授けられて、彼も今夜星呼山遺跡に向かう筈よ』
決戦は今夜だ。それまでに俺達はやれる事をやるしかない。
『夏也、お前は天太と美帆に作戦は今夜決行だと伝えてくれ。日が沈んだら星呼山麓のバス停で集合しよう。俺は一度霊界に戻る。宇迦様、神界に戻ったら俺と西原をそっちに呼んでくれ、準備を手伝う』
『分かったわ……』
宇迦様は頷いた。豊月はその後ろで、難しそうな顔をして腕を組んでいる。
すると夏也が口を開いた。
『シュンはどうしますか……?』
『アイツは今頃もう家に帰っているだろう。俺達が遺跡に行くと聞いたら、ついて来ちまうかもしれない。家で大人しくしているように、天太に様子を見に行って貰えると良いんだが……』
『……そうですね。合わせて頼んでみます』
『よし、じゃあ後でな』
俺はそう言うと、ゲートを開くべく鎌を振りかざした。その瞬間、それまで黙っていた豊月がこちらに踏み出す。
『宇迦様まで巻き込んで迷惑掛けるんだから、アンタ達二人共無事に帰って来なきゃ承知しないからね!』
怒ったような、今にも泣き出しそうな顔だ。そんな彼女を見て宇迦様が笑った。
『あら、先に言われちゃったわ』
長く一緖にいる者同士は似てくると言うが、彼女達の気の良いところはそっくりだ。
『ああ、約束する』
(……二人に出会えて良かった)
そんな事を感じながら、俺は鎌を振ってゲートを開くと、光に飛び込み霊界へと戻った。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
おいしい心残り〜癒し、幸せ、ときどき涙〜
山いい奈
キャラ文芸
謙太と知朗は味噌ラーメン屋を経営する友人同士。
ある日ふたりは火災事故に巻き込まれ、生命を落とす。
気付いたら、生と死の間の世界に連れ込まれていた。
そこで、とどまっている魂にドリンクを作ってあげて欲しいと頼まれる。
ふたりは「モスコミュールが飲みたい」というお婆ちゃんにご希望のものを作ってあげ、飲んでもらうと、満足したお婆ちゃんはその場から消えた。
その空間のご意見番の様なお爺ちゃんいわく、お婆ちゃんはこれで転生の流れに向かったというのだ。
こうして満足してもらうことで、魂を救うことができるのだ。
謙太と知朗は空間の謎を解こうとしながら、人々の心残りを叶えるため、ご飯やスイーツを作って行く。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
【完結】おいでませ!黄昏喫茶へ~ココは狭間の喫茶店~
愛早さくら
キャラ文芸
東京郊外のこじんまりとした喫茶店。そこが俺、仁科 廉佳(にしな れんげ)の勤め先だった。
ほとんど人の来ない寂れた喫茶店で、今日も俺は暇を持て余す。店内にいるのは、俺とマスターと、そして。
しがない喫茶店の店員、廉佳(れんげ)とおかしな常連、夾竹桃――通称キョウさんとのありふれていて、だけど少しおかしな日常。
今日もキョウさんはおかしな話ばかりしている。だけど、どうしてか。俺はつい、いつもその話の中に引き込まれてしまって。俺はここにいて、その話の中に登場していないはずなのに。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる