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終章 さよならは春の日に

3.もののはずみ

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『あれ、早かったね?』

 俺達はまずシュンの元へ戻り、夏也の肉体を回収した。天太は交番に戻ったようだ。

『……ああ、良かった。ちゃんと動きます』

 夏也は自分の身体を見回すと、安心したように言った。

『霊界から神界へは向かえなかった。俺達は今から豊月に会いに稲荷神社に向かうが、シュンは交番へ行って天太に今から言う事を伝えて来て欲しいんだ』

『……え? わ、分かった』

 シュンは俺の話を聞いて驚いていたが直ぐにニヤリとして言った。

『月神の言いなりになってじっと待ってるなんて、俺達らしくないもんね!』

『神様を連れて帰ったら、みんなでご馳走を食べような』

 夏也が微笑み掛けると、シュンは大きく頷いて走って行った。
 俺達は小さくても頼もしい背中を見送ると、共に神社へ向かった。

 商店街を抜けて坂道を登り始めた時、知った顔が正面から歩いて来た。彼女はこちらに気付くと声を上げる。

『あっ、護堂先生……と叔父様!?』

『……ついに見つかっちまってな』

  俺は苦笑しながら美帆と対面する。横を見ると、夏也は隣でどぎまぎしていた。事情を知っていれば、確かに分かりやすい反応だ。

『そ、そうなんですか……ええと、今日はお二人でどちらに……?』

(彼女も、もうかなり巻き込んじまってるし、ここで除け者という訳にもいかないだろう……)

 俺は目の前で動揺している美帆にも、これまでの経緯を説明した。

『……そんな、じゃああの神様は……』

『アイツを犠牲にしない為に、俺達は最善を尽くす。そうだ、アンタにも協力して欲しい事があるんだ』

 俺が美帆に作戦を伝えると、彼女は複雑そうな表情で答えた。

『お考えは分かりました。私に出来る事なら協力します。でも、今のお話だと叔父様と護堂先生は凄く危険な役割をされる事になりますよね? ……それは承服しかねます……』

 美帆はそう言うと俯向いてしまった。さっきシュンには説明しなかった部分の事だろう。さすがに彼女は察しが良い。
 すると、それまで黙っていた夏也が静かに口を開いた。

『危険は承知の上です。私達は神様を取り返して、蛮神も眠らせます。もしまた黒い霧が現れたら、この町に住む生徒達も……美帆先生だって危ない』

『それはそうですけど、お二人だって危ないじゃないですか!』

 美帆は譲らない。さっきの俺と同じだ。堂々巡り。思いが強い程、どちらも譲れるものではないのだ。
 二人は暫く同じような事を言い合っていたが、勢い余った夏也は力を込めて言い放った。

『大丈夫です! 私は美帆先生と結婚するまでは、絶対に死にませんから!』

『え?』

『あ』

 ものの弾みというやつだろうか。俺はどんな顔をして、この二人の間に立っていれば良いのか分からない。



『あっ……い、今のはその……も、戻ったらちゃんと……ちゃんと説明させてくださいっ!!』

 夏也は顔を真っ赤にすると、先に神社の方に走って行ってしまった。
 普段からそんな妄想ばかりしているから、咄嗟に言葉が飛び出してしまったのだろう。

(その気持ちに嘘偽り無い分、結構な事じゃないか……)

 俺はチラリと美帆の顔を見たが、彼女も赤面したまま硬直していたので、俺はそっと夏也を追ってその場を離れた。
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