114 / 131
終章 さよならは春の日に
1.幽体離脱の先生
しおりを挟む
『はぁぁ? 幽体離脱のコツ!?』
交番から少し外れた雑木林の中で、俺と夏也、シュンは天太を囲んでいた。
『いきなり夏也が交番に来たからびっくりしてたら、外にお前らまで居るから何かと思ったわ! ……っていうか夏也にバレて良かったのか?』
『良くない。でも、色々仕方がなかった。後、時間が無いからとっとと教えてくれ』
『説明雑っ! 久しぶりだなそのドSっぷり! 俺、一応仕事中なんだけど?』
俺達はあれから交番に向かい、夏也が道案内を頼むフリをして、天太を外に連れ出したのだった。俺達も時間が無いし、天太もあまり長い時間拘束する訳にはいかないだろう。
『お願いします! 早く神様を連れ戻さないと、蛮神と一緒に封印されてしまうんです!』
夏也が事情を説明すると、天太の顔つきも変わった。
『……分かった。じゃあ横になって目を閉じて、意識だけ起き上がるようなイメージで……って、いきなりじゃ難しいか?』
その後夏也は、天太の言う事に従っていたが、なかなか霊体は出て来なかった。確かに幽体離脱など、やろうと思って簡単に出来る訳ないだろう。
(食べ物の幽霊を取り上げるように、こちらから引っ張り上げる事は出来ないだろうか……)
『天太、お前夏也の足の方から、霊体を救い上げるイメージで手を突っ込んでみてくれ』
『え!? そ、そんな事出来るかな?』
手本を見せる為に既に霊体になっていた天太は驚いて自分の手と俺を交互に見比べた。
『俺達は物の幽霊を取り出せるから、集中すればいける筈だ。俺は背中側を起こす』
『わ、分かった』
天太と俺は、ゆっくり横たわる夏也の身体から霊体を取り上げる。
『うわ……、何か冷たい』
すると、夏也の身体から少し透き通ったもう一人の夏也が浮き上がってきた。肉体の方は静かに寝息を立てている。
『おお……出来た!』
『な、何か変な感じ……』
夏也は戸惑っていたが、銀の紐もしっかり肉体と繋がっている。それを確認すると、俺は直ぐに鎌を取り出して空間を割いた。
『天太、助かった。夏也、俺の鎌では霊界の門にしか行けない。一旦霊界を経由して神界に向かおう』
『俺はここで夏也の身体を守ってるね!』
『シュン、よろしく頼んだ』
シュンは力強く頷いて、夏也の身体に寄り添って座った。
『行くぞ!』
『は、はい!』
『二人共気を付けて!』
眩しい光の中で、手を振る天太とシュンが見えた。直ぐに視界は白み、俺と夏也は見慣れた霊界の門の前に転送される。
『よし、紐は無事か? 転送装置を使うには、まずここを管理している鬼に事情を説明しないといけない。色々驚く事もあるだろうが、黙って俺について来てくれ』
『うわーっ……あっ、はい!』
既に辺りを見回して面食らっている様子の夏也を連れて、俺は蓮雫を探した。
彼は執務室で大量の巻物に囲まれて座っていたが、夏也の姿を見ると驚いて筆を取り落としかけた。
『……お前の豪胆さには、これまでも何度も驚かされたが、自ら生きた人間を霊界に連れてきてしまうとは……』
蓮雫はそう言いながら頭を抱えている。
『なにぶん急ぎだったんでな。悪いがまた神界に行きたいんだ』
俺はかいつまんで蓮雫に状況を説明した。
『事情は理解したが、神界へは向こう側の許可が無いと転送出来ない。出前は入っていないのか?』
そうだった。焦りのせいで失念していた。そこへお盆を持った西原が入って来る。
『旦那、海老天蕎麦お待ち……お、友和戻ってたのか! って、隣に居るのは夏也じゃねーか!?』
交番から少し外れた雑木林の中で、俺と夏也、シュンは天太を囲んでいた。
『いきなり夏也が交番に来たからびっくりしてたら、外にお前らまで居るから何かと思ったわ! ……っていうか夏也にバレて良かったのか?』
『良くない。でも、色々仕方がなかった。後、時間が無いからとっとと教えてくれ』
『説明雑っ! 久しぶりだなそのドSっぷり! 俺、一応仕事中なんだけど?』
俺達はあれから交番に向かい、夏也が道案内を頼むフリをして、天太を外に連れ出したのだった。俺達も時間が無いし、天太もあまり長い時間拘束する訳にはいかないだろう。
『お願いします! 早く神様を連れ戻さないと、蛮神と一緒に封印されてしまうんです!』
夏也が事情を説明すると、天太の顔つきも変わった。
『……分かった。じゃあ横になって目を閉じて、意識だけ起き上がるようなイメージで……って、いきなりじゃ難しいか?』
その後夏也は、天太の言う事に従っていたが、なかなか霊体は出て来なかった。確かに幽体離脱など、やろうと思って簡単に出来る訳ないだろう。
(食べ物の幽霊を取り上げるように、こちらから引っ張り上げる事は出来ないだろうか……)
『天太、お前夏也の足の方から、霊体を救い上げるイメージで手を突っ込んでみてくれ』
『え!? そ、そんな事出来るかな?』
手本を見せる為に既に霊体になっていた天太は驚いて自分の手と俺を交互に見比べた。
『俺達は物の幽霊を取り出せるから、集中すればいける筈だ。俺は背中側を起こす』
『わ、分かった』
天太と俺は、ゆっくり横たわる夏也の身体から霊体を取り上げる。
『うわ……、何か冷たい』
すると、夏也の身体から少し透き通ったもう一人の夏也が浮き上がってきた。肉体の方は静かに寝息を立てている。
『おお……出来た!』
『な、何か変な感じ……』
夏也は戸惑っていたが、銀の紐もしっかり肉体と繋がっている。それを確認すると、俺は直ぐに鎌を取り出して空間を割いた。
『天太、助かった。夏也、俺の鎌では霊界の門にしか行けない。一旦霊界を経由して神界に向かおう』
『俺はここで夏也の身体を守ってるね!』
『シュン、よろしく頼んだ』
シュンは力強く頷いて、夏也の身体に寄り添って座った。
『行くぞ!』
『は、はい!』
『二人共気を付けて!』
眩しい光の中で、手を振る天太とシュンが見えた。直ぐに視界は白み、俺と夏也は見慣れた霊界の門の前に転送される。
『よし、紐は無事か? 転送装置を使うには、まずここを管理している鬼に事情を説明しないといけない。色々驚く事もあるだろうが、黙って俺について来てくれ』
『うわーっ……あっ、はい!』
既に辺りを見回して面食らっている様子の夏也を連れて、俺は蓮雫を探した。
彼は執務室で大量の巻物に囲まれて座っていたが、夏也の姿を見ると驚いて筆を取り落としかけた。
『……お前の豪胆さには、これまでも何度も驚かされたが、自ら生きた人間を霊界に連れてきてしまうとは……』
蓮雫はそう言いながら頭を抱えている。
『なにぶん急ぎだったんでな。悪いがまた神界に行きたいんだ』
俺はかいつまんで蓮雫に状況を説明した。
『事情は理解したが、神界へは向こう側の許可が無いと転送出来ない。出前は入っていないのか?』
そうだった。焦りのせいで失念していた。そこへお盆を持った西原が入って来る。
『旦那、海老天蕎麦お待ち……お、友和戻ってたのか! って、隣に居るのは夏也じゃねーか!?』
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
天才月澪彩葉の精神病質学研究ノート
玄武聡一郎
キャラ文芸
「共感覚―シナスタジア―」。文字や声に色や味を感じるなど、ある刺激に対し、通常の感覚に加えて異なる種類の感覚を同時に生じさせる特殊な知覚現象。この共感覚の持ち主である北條正人(ほうじょうまさと)は、大学院生である月澪彩葉(つきみおいろは)の頼みで彼女の研究の手伝いをすることになる。彼女は「サイコパス」と呼ばれる反社会的な人たちの思考回路に着目し、一般人との境界線や、サイコパスの起こす猟奇殺人や快楽殺人の犯罪調査のためのデータを収集していた。
「残念なお知らせだ。北條君、君の想い人はサイコパスだ」
いつも通り研究を手伝っていたある日、彩葉は正人の意中の相手、明乃麗奈(あけのれな)をサイコパスであると断定する。いたって普通の大学生である麗奈の潔白を証明するため、正人は彼女に接近することになる。
一方時を同じくして、街では体の一部を綺麗に抜き取られた死体が発見される。きわめて残酷な猟奇殺人事件であるとマスコミが騒ぎ立てる中、サイコパスの研究者である彩葉も事件の調査にかかわる事になるが――――。
※本作は「小説家になろう」でも掲載しております
※アルファポリス 第10回 ミステリー小説大賞で「大賞」をいただきました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる