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終章 さよならは春の日に

1.幽体離脱の先生

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『はぁぁ? 幽体離脱のコツ!?』

 交番から少し外れた雑木林の中で、俺と夏也、シュンは天太を囲んでいた。

『いきなり夏也が交番に来たからびっくりしてたら、外にお前らまで居るから何かと思ったわ! ……っていうか夏也にバレて良かったのか?』

『良くない。でも、色々仕方がなかった。後、時間が無いからとっとと教えてくれ』

『説明雑っ! 久しぶりだなそのドSっぷり! 俺、一応仕事中なんだけど?』

 俺達はあれから交番に向かい、夏也が道案内を頼むフリをして、天太を外に連れ出したのだった。俺達も時間が無いし、天太もあまり長い時間拘束する訳にはいかないだろう。

『お願いします! 早く神様を連れ戻さないと、蛮神と一緒に封印されてしまうんです!』

 夏也が事情を説明すると、天太の顔つきも変わった。

『……分かった。じゃあ横になって目を閉じて、意識だけ起き上がるようなイメージで……って、いきなりじゃ難しいか?』

 その後夏也は、天太の言う事に従っていたが、なかなか霊体は出て来なかった。確かに幽体離脱など、やろうと思って簡単に出来る訳ないだろう。

(食べ物の幽霊を取り上げるように、こちらから引っ張り上げる事は出来ないだろうか……)

『天太、お前夏也の足の方から、霊体を救い上げるイメージで手を突っ込んでみてくれ』

『え!? そ、そんな事出来るかな?』

 手本を見せる為に既に霊体になっていた天太は驚いて自分の手と俺を交互に見比べた。

『俺達は物の幽霊を取り出せるから、集中すればいける筈だ。俺は背中側を起こす』

『わ、分かった』

 天太と俺は、ゆっくり横たわる夏也の身体から霊体を取り上げる。

『うわ……、何か冷たい』

 すると、夏也の身体から少し透き通ったもう一人の夏也が浮き上がってきた。肉体の方は静かに寝息を立てている。

『おお……出来た!』

『な、何か変な感じ……』

 夏也は戸惑っていたが、銀の紐もしっかり肉体と繋がっている。それを確認すると、俺は直ぐに鎌を取り出して空間を割いた。

『天太、助かった。夏也、俺の鎌では霊界の門にしか行けない。一旦霊界を経由して神界に向かおう』

『俺はここで夏也の身体を守ってるね!』

『シュン、よろしく頼んだ』

 シュンは力強く頷いて、夏也の身体に寄り添って座った。

『行くぞ!』

『は、はい!』

『二人共気を付けて!』

 眩しい光の中で、手を振る天太とシュンが見えた。直ぐに視界は白み、俺と夏也は見慣れた霊界の門の前に転送される。

『よし、紐は無事か? 転送装置を使うには、まずここを管理している鬼に事情を説明しないといけない。色々驚く事もあるだろうが、黙って俺について来てくれ』

『うわーっ……あっ、はい!』

 既に辺りを見回して面食らっている様子の夏也を連れて、俺は蓮雫を探した。
 彼は執務室で大量の巻物に囲まれて座っていたが、夏也の姿を見ると驚いて筆を取り落としかけた。

『……お前の豪胆さには、これまでも何度も驚かされたが、自ら生きた人間を霊界に連れてきてしまうとは……』

 蓮雫はそう言いながら頭を抱えている。

『なにぶん急ぎだったんでな。悪いがまた神界に行きたいんだ』

 俺はかいつまんで蓮雫に状況を説明した。

『事情は理解したが、神界へは向こう側の許可が無いと転送出来ない。出前は入っていないのか?』

 そうだった。焦りのせいで失念していた。そこへお盆を持った西原が入って来る。

『旦那、海老天蕎麦お待ち……お、友和戻ってたのか! って、隣に居るのは夏也じゃねーか!?』
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