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第6章 言葉たちを沈めて

10.神様の思い

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 まだ昼間だというのに、日の光があまり入ってこない。木々が生い茂り、空はその葉で覆われていた。少し薄暗いが幽霊の身には有難い。

 俺は鎌を使って霊界に戻り、すぐに転送装置を使って山桜を目指した。
 山桜は星呼山の中腹辺りに咲いていた。

(こんな近くにあったとはな……)

 遠目に見上げても、桜はかなりの大きさであると分かる。もう花も咲いていたが、どこかぼんやりと白く朧げな印象であった。

『霞桜……朧月神……』

 確かにその桜は、彼の白く美しい髪のようだった。
 その髪は今、山桜の根本で柔らかな風に髪をそよがせている。
 神様はゆっくりとこちらを振り返った。

『なんじゃ、友和。久しぶりじゃの』

『……お前、もしかしてずっととぼけてたのか?』

『何の話じゃ?』

 神様はいつもと変わらない、ゆるゆるとした雰囲気で笑った。

『覚えてたんだろ? この木の事』

 一瞬の沈黙をおいて、神様は困ったように笑った。

『忘れとったよ。色々な。久々に近くまで来て、鮮明に思い出したわい』

『……月詠から聞いた。アンタが蛮神を押さえ付けている間に、アンタごと封印しようとしている事』

 神様は俺の目を見ない。

『なんでアンタはいつも……大事な事に限って黙ってるんだ!?』

 俺が大声を出しても、彼はただ黙っていた。

『他に手は無いのか?』

 山林の静寂は乱される事なく、俺達を包み込んでいる。

『……ないな』

『それじゃアンタは蛮神共々遺跡に封印されちまうんだぞ!? そんな……』

 俺は少し言葉に詰まる。神様は少し俯向いて黙っていたが、やがて微笑みながら答えた。

『そもそも永遠なんてものは、何処にもないんじゃ、この身も時がくれば或るべき姿に還るじゃろう』

『本当にやるのか……?』

 風が吹いて、木の葉が鳴る。白く光る髪がまた揺れる。

『わしは夏也の作った料理が大好きじゃからな』

『こんな時に飯の話をしている場合か!』

 焦る俺を他所に、神様はいつもいつもマイペースだ。これまでもずっと側に居たのに、神様の気持ちはまるで分からなかった。

『お前さんの作ってくれた料理と同じ味がするんじゃ』

 雲が流れたのか、日が差し込んで辺りに木漏れ日が落ちた。桜の花がきらきらと煌めく。

『お前さんや夏也と過ごした時間は、本当に楽しかった……』

 俺は本当に、何も分かっていなかった。

 俺が神様を失いたくないように、神様も俺達を失いたくない。俺達はずっと、同じ事を考えていたんだ。

 神様は俺の肩にそっと手を置いた。

『守りたいものがあるんじゃ。だから、わしには何の迷いもない』

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