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第5章 神々の宴

23.最悪で最高な夜に

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 俺はそのまま黙って部屋を出た。あまりにも、今知った事の衝撃が大き過ぎて、何を言えば良いのか分からなかった。

『……気は済んだ?』

 暫く廊下を歩いた所で、豊月は静かに口を開いた。俺は黙って歩き続け、そのまま沈黙が続いた。

『……アタシを宇迦様のとこに紹介したの、月詠様なのよ』

『え?』

 豊月が突然切り出した話に、俺は思わず声を上げた。

『っていうか、大昔の星呼山周辺で人間の精気を吸いながら力を蓄えていた妖狐のアタシを退治したのがアイツだったの。それで豊月って名前もアイツに与えられたのよね……』

 豊月は話しながら頬を膨らませる。

『苦手なのよアイツ。何考えてるのか良く分からないし。だからアイツと面識はあったんだけど、今回の件もあんまり関わりたくなかった訳』

 チラリとこちらを見て、また目を逸らすと、彼女はぼそぼそと続けた。

『何言われたんだか知らないけどさ、アンタはアンタが出来る事精一杯やってるんだし、落ち込む事無いんじゃない?』

『色々、ありがとうな……豊月』

 白狐は驚いたのか、少し顔を赤らめていたが、会場の入り口が見えて来ると、俺の腕を強く引いて指差した。

『ほら、見なさいよ! この盛り上がり! これ、全部アンタが仕掛けたのよ!』

 会場に入ると、様々な料理の良い香りと神々が楽しそうに語り合う声、祭りのような熱気で溢れかえっていた。

 今の俺の憂鬱を吹き飛ばすような喧騒に思わず立ち尽くしていると、奥から西原が手を振りながら近づいて来た。

『凄いぞ友和! どの地方のおかずも気合の入り方が違う! 白飯が幾らでも進んじまう!』

 西原は持っていたお碗と箸を俺に押し付けると背中を叩いた。

『おいおい、難しい事なら明日でも考えられる! とりあえず今日は今日しかないんだ、楽しもうぜ!』

 そう言って、ぐいぐいと引っ張られるまま、俺は各地域の屋台を西原と一緒に回った。呆れたように笑って豊月もついて来る。

 鯛の一夜干し、大きな海老の天ぷら、牛肉の串焼きに日本酒を振る舞っている屋台もある。
 看板の周囲に鬼火を掲げて輝かせたり、その場で炙ったマグロを寿司にしている屋台もあった。キラキラと輝く屋台、美味しい匂いに包まれた場内。

(さっき知ってしまった事が、全部嘘だったらいいのに……)

 その日の俺は、親友と神々と一緒にまるで夢のような一夜を過ごしたのだった。
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