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第4章 河童の里と黒い怪物
19.安全地帯
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暗闇の坂を走り抜けると、道の先に神社の鳥居が見えて来る。
『大丈夫か? もう少しだ』
『え、ええ……』
しかし、俺達が石段に登ろうと鳥居に近づいた時、正面に再び黒い霧が立ち込め始めた。
(まさか、奴は影を複数体出現させられるのか……!?)
『友和君! 後ろ!』
俺が振り向くと、神岡が背後を向いて叫んでいた。そこには既に手の形をした黒い霧がこちらに向かって指を広げている。
(奴らは転移も出来る……複数で囲まれたら、彼女を庇いきれない……!)
そう考えていた矢先、神岡は急に俺の手を振り解くと、あろう事か黒い手に向かって突然走り出した。
『おいっ!?』
『ええーいっ!』
彼女は持っていたハンドバッグを振り回して、黒い霧に思い切り叩きつけたのだ。
どういう訳か、鞄が激突した箇所が少しだけ霧散した。黒い手は多少怯んだものの、直ぐに元の形に戻っていく。
『大丈夫よ! 友和君は私が守るわ!』
そう言いながら、彼女の背中は少し震えているように見えた。
(……その台詞、俺はどこかで……?)
俺は何か思い出しそうになったが、今は深く考え込んでいる時間は無い。奴らが何体まで居るのか分からないが、これ以上増える前にこの場を離れたい。
『こいつらは倒せない! 逃げ切るぞ!』
俺は再び神岡の腕を掴んで引っ張り寄せながら、時間稼ぎの為に目の前の黒い手に鎌で一撃を加えた。
そのまま振り返って、鳥居の前で手の形が出来上がっていた黒い霧に、もう一撃加える。
霧が凝集しきる前に、俺達はその横をすり抜けて鳥居を潜った。しばらく石段を登った所で振り返ったが、どうやら黒い手は鳥居を潜れないらしく、その場で立ち往生していた。
(奴は神社の敷地内に入れないのか……?)
『友和君の手、冷たいのね……。あんなに走り回ったのに……』
そう言われてはっとした俺は、掴んでいた神岡の腕を離した。彼女を連れて行こうと集中していたので、ずっと触れていられたようだ。
これまで生きた人間から感想を貰った事など無かったが、霊に触れられた側は冷たいと感じるらしい。
『……もう、死んでるからな』
『え、死んでる……?』
こんな状況では誤魔化しようも無い。俺は石段を登りながら、彼女に自分の事や黒い霧について説明した。
先程会ってしまった、一ノ瀬や神様についても、かいつまんで話す。
普通なら信じられる話では無いが、状況が状況だけに、彼女も大きな目を見開いて頷いていた。
『じゃあ友和さんは、護堂先生の亡くなった叔父様って事ですか……?』
『……そうだが、別に敬語にならなくても良いし、その呼び方は何か嫌だな』
『いいえ! 知らなかったとはいえ失礼しました……』
彼女はペコリと頭を下げる。
『それと……夏也は今話した事について何も知らないんだ。俺が幽霊としてまだ霊界と人間界を行き来している事も……。だから今日の出来事を学校で話したりはしないで欲しい。まあ、話したところで信じられないだろうしな……』
『……そう、ですね……』
石段を登りきると、拝殿に灯りが灯っているのが見えた。拝殿の扉は開いており、サザナミと豊月がその前に立って手招きしている。
『あれは?』
『……えーと、神様達……だな』
『またですか!? 叔父様、顔が広いんですね!』
俺はまた説明しなければならない事が増えて、若干うんざりしながら拝殿へ向かった。
『大丈夫か? もう少しだ』
『え、ええ……』
しかし、俺達が石段に登ろうと鳥居に近づいた時、正面に再び黒い霧が立ち込め始めた。
(まさか、奴は影を複数体出現させられるのか……!?)
『友和君! 後ろ!』
俺が振り向くと、神岡が背後を向いて叫んでいた。そこには既に手の形をした黒い霧がこちらに向かって指を広げている。
(奴らは転移も出来る……複数で囲まれたら、彼女を庇いきれない……!)
そう考えていた矢先、神岡は急に俺の手を振り解くと、あろう事か黒い手に向かって突然走り出した。
『おいっ!?』
『ええーいっ!』
彼女は持っていたハンドバッグを振り回して、黒い霧に思い切り叩きつけたのだ。
どういう訳か、鞄が激突した箇所が少しだけ霧散した。黒い手は多少怯んだものの、直ぐに元の形に戻っていく。
『大丈夫よ! 友和君は私が守るわ!』
そう言いながら、彼女の背中は少し震えているように見えた。
(……その台詞、俺はどこかで……?)
俺は何か思い出しそうになったが、今は深く考え込んでいる時間は無い。奴らが何体まで居るのか分からないが、これ以上増える前にこの場を離れたい。
『こいつらは倒せない! 逃げ切るぞ!』
俺は再び神岡の腕を掴んで引っ張り寄せながら、時間稼ぎの為に目の前の黒い手に鎌で一撃を加えた。
そのまま振り返って、鳥居の前で手の形が出来上がっていた黒い霧に、もう一撃加える。
霧が凝集しきる前に、俺達はその横をすり抜けて鳥居を潜った。しばらく石段を登った所で振り返ったが、どうやら黒い手は鳥居を潜れないらしく、その場で立ち往生していた。
(奴は神社の敷地内に入れないのか……?)
『友和君の手、冷たいのね……。あんなに走り回ったのに……』
そう言われてはっとした俺は、掴んでいた神岡の腕を離した。彼女を連れて行こうと集中していたので、ずっと触れていられたようだ。
これまで生きた人間から感想を貰った事など無かったが、霊に触れられた側は冷たいと感じるらしい。
『……もう、死んでるからな』
『え、死んでる……?』
こんな状況では誤魔化しようも無い。俺は石段を登りながら、彼女に自分の事や黒い霧について説明した。
先程会ってしまった、一ノ瀬や神様についても、かいつまんで話す。
普通なら信じられる話では無いが、状況が状況だけに、彼女も大きな目を見開いて頷いていた。
『じゃあ友和さんは、護堂先生の亡くなった叔父様って事ですか……?』
『……そうだが、別に敬語にならなくても良いし、その呼び方は何か嫌だな』
『いいえ! 知らなかったとはいえ失礼しました……』
彼女はペコリと頭を下げる。
『それと……夏也は今話した事について何も知らないんだ。俺が幽霊としてまだ霊界と人間界を行き来している事も……。だから今日の出来事を学校で話したりはしないで欲しい。まあ、話したところで信じられないだろうしな……』
『……そう、ですね……』
石段を登りきると、拝殿に灯りが灯っているのが見えた。拝殿の扉は開いており、サザナミと豊月がその前に立って手招きしている。
『あれは?』
『……えーと、神様達……だな』
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俺はまた説明しなければならない事が増えて、若干うんざりしながら拝殿へ向かった。
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