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第4章 河童の里と黒い怪物
18.襲来
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(護堂先生……?)
俺は彼女が何に驚いているのか分からなかったが、ふとある事に気が付いて急に冷や汗が吹き出てきた。
(しまった……西森中学校って夏也の勤務先か! 彼女は同僚……夏也と面識があるのか?)
『でも、先生って確か一人暮らしの筈じゃ……? 君、護堂先生とどういう関係なの……?』
不思議そうにこちらを見つめる彼女にどう返答したものかと焦っていると、俺はその背後に見たくなかったものを見てしまった。
通りの中ほど、それまで何も無かった空間に、突如として黒い霧が湧き出してきたのである。
(どうしてこうも次から次へと……!)
俺は鎌を持ち替えて叫んだ。
『俺の後ろに隠れろ!』
『え?』
次第に大きな手の形に固まりだした黒い霧は、こちらに向いて大きく指を広げた。
『……な、何コレ!?』
彼女も俺の視線を追って振り返り、驚きの声を上げる。その様子からすると、やはり黒い霧も見えているらしい。
俺は彼女を自分の後ろに押しやると、黒い手に向かって大鎌を薙いだ。
手は横一文字に切断されて霧散していく。
しかし、一度また霧状に戻ったそれが、再度固まりとして集まり始めた。
(再生している…!?)
これでは何度攻撃してもキリがない。ポケットの中に鈴は入っているが蓮雫はまだ怪我が治ったばかりだ。
(とにかく彼女を連れて、この場から離れなければ……でも一体どこへ……)
『友和君、これが何だか分かるの……?』
『捕まれば魂を抜かれる。俺が守りきれない場合は、頑張って自力で逃げてくれ』
『た、魂?』
会話している間にも、黒い手は再生していく。家の中に入ったところで、夏也やシュンを巻き込むだけで何も解決しない。
(この近くで身を守れそうな場所……)
『弁財天へ向かえ!』
その時、坂下の方から男の叫ぶ声がした。振り向くと、宵闇の中に背の高い男が立っている。
『一ノ瀬!?』
『だから、首を突っ込むなと言ったのだ。早く彼女を連れて神社へ向かえ!』
今回は断じて俺から首を突っ込んだ訳ではないが、俺は神岡の腕を掴むと坂下へ向かって走り出した。
『え、ど、どこ行くの? あの人は知り合い?』
『神社まで無事に逃げられたら説明する!』
一ノ瀬は何やらぶつぶつと独り言を言いながら、手刀で印を切るような仕草をした。そしてその指先を黒い手に向かって斬りつける。
『闇に還れ!』
何か一瞬、指から光が迸ったように見えた。彼を追い越しながら、黒い手を振り返ると、波動を受けた部分が霧散している。
『後でわしらも行くから安心せい』
『!?』
知った声がして、道の先に視線を戻すとうちの神様が居た。
『神様!? アンタ何で一ノ瀬と一緒に居るんだ!?』
『神社まで無事に逃げられたら説明しよう』
『……ぐっ』
俺は苛立つ気持ちを堪えながら、ニヤニヤしている神様を追い越して走り続けた。
俺は彼女が何に驚いているのか分からなかったが、ふとある事に気が付いて急に冷や汗が吹き出てきた。
(しまった……西森中学校って夏也の勤務先か! 彼女は同僚……夏也と面識があるのか?)
『でも、先生って確か一人暮らしの筈じゃ……? 君、護堂先生とどういう関係なの……?』
不思議そうにこちらを見つめる彼女にどう返答したものかと焦っていると、俺はその背後に見たくなかったものを見てしまった。
通りの中ほど、それまで何も無かった空間に、突如として黒い霧が湧き出してきたのである。
(どうしてこうも次から次へと……!)
俺は鎌を持ち替えて叫んだ。
『俺の後ろに隠れろ!』
『え?』
次第に大きな手の形に固まりだした黒い霧は、こちらに向いて大きく指を広げた。
『……な、何コレ!?』
彼女も俺の視線を追って振り返り、驚きの声を上げる。その様子からすると、やはり黒い霧も見えているらしい。
俺は彼女を自分の後ろに押しやると、黒い手に向かって大鎌を薙いだ。
手は横一文字に切断されて霧散していく。
しかし、一度また霧状に戻ったそれが、再度固まりとして集まり始めた。
(再生している…!?)
これでは何度攻撃してもキリがない。ポケットの中に鈴は入っているが蓮雫はまだ怪我が治ったばかりだ。
(とにかく彼女を連れて、この場から離れなければ……でも一体どこへ……)
『友和君、これが何だか分かるの……?』
『捕まれば魂を抜かれる。俺が守りきれない場合は、頑張って自力で逃げてくれ』
『た、魂?』
会話している間にも、黒い手は再生していく。家の中に入ったところで、夏也やシュンを巻き込むだけで何も解決しない。
(この近くで身を守れそうな場所……)
『弁財天へ向かえ!』
その時、坂下の方から男の叫ぶ声がした。振り向くと、宵闇の中に背の高い男が立っている。
『一ノ瀬!?』
『だから、首を突っ込むなと言ったのだ。早く彼女を連れて神社へ向かえ!』
今回は断じて俺から首を突っ込んだ訳ではないが、俺は神岡の腕を掴むと坂下へ向かって走り出した。
『え、ど、どこ行くの? あの人は知り合い?』
『神社まで無事に逃げられたら説明する!』
一ノ瀬は何やらぶつぶつと独り言を言いながら、手刀で印を切るような仕草をした。そしてその指先を黒い手に向かって斬りつける。
『闇に還れ!』
何か一瞬、指から光が迸ったように見えた。彼を追い越しながら、黒い手を振り返ると、波動を受けた部分が霧散している。
『後でわしらも行くから安心せい』
『!?』
知った声がして、道の先に視線を戻すとうちの神様が居た。
『神様!? アンタ何で一ノ瀬と一緒に居るんだ!?』
『神社まで無事に逃げられたら説明しよう』
『……ぐっ』
俺は苛立つ気持ちを堪えながら、ニヤニヤしている神様を追い越して走り続けた。
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