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第4章 河童の里と黒い怪物
17.神岡先生
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(……教師か。俺が見えるのは、たまたま霊感があるだけなのだろうか……)
一ノ瀬といい、俺達が見える人間は思ったより存在するのだろうか。
『怪しい者じゃないから安心してね』
俺の考えを見透かすように、そう言って彼女は微笑む。今この場で怪しいのは、どちらかと言うと俺の方だろう。
『今から家に帰るところだ。問題ない』
とにかく面倒な事になる前に振り切ってしまおうと、俺は手短に返答して踵を返した。
『ちょ、ちょっと待って! 君、何でそんな物騒なもの担いでいるの?』
彼女は逃げ去ろうとする俺を追いかけて来る。
(やっぱり面倒な事になった……)
死神の大鎌が傍目に怪しいという自覚はあった。俺は仕方なく歩きながら言い訳を検討する。
『これは……、ええと、草刈り用にホームセンターで買ってこいと言われたんだ……』
結局良い話が思い付かず、不覚にも先日の天太と同じ事を言ってしまい、屈辱的な思いがこみ上げた。
『そんな凶悪な大きさの鎌、ホームセンターで見た事無いけど……』
それはそうだろう。俺もない。
『……ああ。これを探しに、郊外のホームセンターまで出掛けたので、帰りが遅くなってしまったんだ……』
『品揃えが良いのね。そのホームセンター、今度教えて欲しいわ』
極めて適当な言い訳であったが、どうやら皮肉ではなく天然の返事が返ってきた。まさか欲しいのだろうか。
『お家はこの近くなんでしょう? 一人じゃ危ないから、私送って行くわ』
彼女はにこやかな笑みを浮かべてついてくる。この感じでは、多分何を言っても帰ってくれないだろう。
(もう逃げる言い訳を考える方が面倒臭いな……)
『……別に構わないが』
俺はこのまま彼女と一緒に家まで帰る事にした。確かにここから家までは遠くないし、一ノ瀬と違って何か裏がありそうな人物にも見えない。家に入る所まで見れば、安心して帰ってくれるだろう。
『良かったわ。あ、君、名前は?』
俺は一瞬で後悔した。
『……個人情報なので答えられない』
『そう、しっかりしてるのね……でも、今のご時世それくらいが丁度良いのかもね』
彼女は屈託無く笑った。俺は溜息を吐く。
『……友和』
『え?』
『……一度しか言わない』
俺は彼女と目を合わせず、早足で歩いた。なんで本名を言ってしまったのか、自分でも良く分からなかった。
『友和君はどこの中学校に通っているの?』
『教えない』
『兄弟はいるの?』
『ノーコメント』
彼女の質問を躱しながら坂を登り、自宅の門の前に立つと、俺は振り返った。
『じゃ、俺の家はここだから』
これでようやく解放されると思ったが、予想に反して彼女は表札を見ながら驚いた顔で立ちつくしていた。
『え……ここって、もしかして護堂先生のお家……?』
一ノ瀬といい、俺達が見える人間は思ったより存在するのだろうか。
『怪しい者じゃないから安心してね』
俺の考えを見透かすように、そう言って彼女は微笑む。今この場で怪しいのは、どちらかと言うと俺の方だろう。
『今から家に帰るところだ。問題ない』
とにかく面倒な事になる前に振り切ってしまおうと、俺は手短に返答して踵を返した。
『ちょ、ちょっと待って! 君、何でそんな物騒なもの担いでいるの?』
彼女は逃げ去ろうとする俺を追いかけて来る。
(やっぱり面倒な事になった……)
死神の大鎌が傍目に怪しいという自覚はあった。俺は仕方なく歩きながら言い訳を検討する。
『これは……、ええと、草刈り用にホームセンターで買ってこいと言われたんだ……』
結局良い話が思い付かず、不覚にも先日の天太と同じ事を言ってしまい、屈辱的な思いがこみ上げた。
『そんな凶悪な大きさの鎌、ホームセンターで見た事無いけど……』
それはそうだろう。俺もない。
『……ああ。これを探しに、郊外のホームセンターまで出掛けたので、帰りが遅くなってしまったんだ……』
『品揃えが良いのね。そのホームセンター、今度教えて欲しいわ』
極めて適当な言い訳であったが、どうやら皮肉ではなく天然の返事が返ってきた。まさか欲しいのだろうか。
『お家はこの近くなんでしょう? 一人じゃ危ないから、私送って行くわ』
彼女はにこやかな笑みを浮かべてついてくる。この感じでは、多分何を言っても帰ってくれないだろう。
(もう逃げる言い訳を考える方が面倒臭いな……)
『……別に構わないが』
俺はこのまま彼女と一緒に家まで帰る事にした。確かにここから家までは遠くないし、一ノ瀬と違って何か裏がありそうな人物にも見えない。家に入る所まで見れば、安心して帰ってくれるだろう。
『良かったわ。あ、君、名前は?』
俺は一瞬で後悔した。
『……個人情報なので答えられない』
『そう、しっかりしてるのね……でも、今のご時世それくらいが丁度良いのかもね』
彼女は屈託無く笑った。俺は溜息を吐く。
『……友和』
『え?』
『……一度しか言わない』
俺は彼女と目を合わせず、早足で歩いた。なんで本名を言ってしまったのか、自分でも良く分からなかった。
『友和君はどこの中学校に通っているの?』
『教えない』
『兄弟はいるの?』
『ノーコメント』
彼女の質問を躱しながら坂を登り、自宅の門の前に立つと、俺は振り返った。
『じゃ、俺の家はここだから』
これでようやく解放されると思ったが、予想に反して彼女は表札を見ながら驚いた顔で立ちつくしていた。
『え……ここって、もしかして護堂先生のお家……?』
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