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第4章 河童の里と黒い怪物

11.一ノ瀬の追跡

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『お帰り夏也、今日は早かったね!』

 シュンはこちらにウインクすると、夏也を上手く誘導してくれた。
 その隙に、俺は豊月と天太を引っ張りながら外へ出る。西原もそんな様子を見て笑いながらついて来た。

 まだ日が出ているので、俺と西原は日向に立って居れば霊界に戻れるだろう。勿論、鎌を使っても良いのだが。

『じゃ、アタシも神界へ戻るわ。怪しまれない程度に月神の動きも引き続き探っておくわね』

『ああ、頼んだ』

 神社の方へ去って行く豊月を見送ると、道の端に見慣れない男が立っているのに気が付いた。
 長身で均整の取れた身体、鋭い目つき。この田舎道でスーツ姿というのもあるが、特に奇妙に感じたのは、彼がこちらを見ているように見えたからである。
 今ここに、普通の人間に見える者は居ない筈だが、まるでずっと見張っていたかのような視線だ。

『あれは……?』

『んげ! い、一ノ瀬警部!?』

 天太は咄嗟に俺の影に隠れたが、残念ながら俺はもうすぐ消えてしまうだろう。

『あ、待って友和! 行かないで! この状況で俺を一人にしないで……!』

 俺が消えかけている事に気がついた天太は、必死に俺を木陰に押し込んだ。

『お、どうしたんだ?』

 既に薄くなってきている西原が尋ねる。

『分からんが、天太の知り合いに見つかったらしい。先に帰っていてくれ』

『ああ? 分かった』

 不思議そうな顔をしながら、西原は光の中に溶けて消えた。
 一ノ瀬と呼ばれた男は、こちらに向かって歩きながら厳しい口調で話しかけてきた。

『日野、説明して貰おうか? まず、そいつは一体何者だ?』

『……と、友達です……あっ、見た目中学生ですが……いや、えーと……これでしっかりした奴で……』

 天太は自分が何を説明しているのか分からなくなっているようだ。
 一ノ瀬には西原が消えるところも見えていたのだろう。今から取り繕うのは、どう考えても無理があると思うが。

『ほう? そんな鎌を持ってウロウロしている銃刀法違反の中学生が友達なのか……』

『うえっ!? これは、えっとその……草を……そう! 草刈りですよ警部! このあたりは雑草がなんか凄いので……っていうか一ノ瀬さん、なんで俺達が見えてるんですか!?』

 天太は混乱を極めている。
 一ノ瀬は先程から全く表情を変えていないが、恐らく分かっていてからかっているのだろう。

『ああ、実家が代々神職でな。こう見えて霊感が強い方なんだ』

『え!? 警部が神主さんになってたかもしれないんですか!? 』

 真偽の程は定かではないが、聞かなければならないのはそこではない。
 俺は膝で天太を小突いた。

『……じゃなくて、なんで今日はこんな所に居るんですか?』

『お前から全く連絡が無いので、様子を見に来た。休みだと言うから寮へ行ったが、留守だったので帰ろうとしたら、お前の部屋からコレが伸びていたので辿ってみた』

 一ノ瀬は淡々と説明すると、天太から伸びている銀の紐を拾い上げた。

『わー? 何でしょうねそれー?』

『そうだな。手で千切れるだろうか?』

『ごめんなさいぃぃ! やめてくださいお願いします!!』

 一体こいつはどこまで知っているのだろうか。ここは逃げるより、相手を知るべきだろう。

『俺は護堂友和。人間の幽霊だ。あんたは?』

 そう言うと、一ノ瀬は紐を雑に捨てて俺に向き直った。

『一ノ瀬葉月。こいつと同じ警察の者だ。単刀直入に問うが、近頃の連続不審死とお前達は何か関係しているのか?』

(つまりこいつは、黒い霧絡みで死んだ人間の捜査をしているという事か……?)

『俺達もその不審死の原因を探っているところだ。俺自身がそれで死んじまったもんでな』

『ほう……?』

 一ノ瀬の表情が初めて少し反応を見せる。彼は興味深げに俺に近づいて来た。
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