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第4章 河童の里と黒い怪物

1.初秋の午後

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『ここでの暮らしも、大分慣れてきたようだな』

 俺は居間の薄っぺらい座布団に腰掛けながらシュンに言った。幽霊に座布団が必要なのかは分からないが、生前からの癖は抜けない。

『まーね。座敷童子が居れば、この家だって守れるし、友和も安心でしょ? 俺はどうせ他に行くとこもないしさ。コイツだけじゃ夏也が心配だもん』

『酷い事言いよるのぅ。わし、一応神様なんじゃけど……』

 大きな嵐が去って、台風一過となった平日の昼間、夏也が中学校へ行っている間に、俺と神様は実家で情報交換をしていた。卓袱台を囲んで、座敷童子のシュンも同席している。

 あの日以来、シュンはうちに棲み付いていた。
 彼は以前守っていた家の住民が亡くなってしまい、ずっと独りぼっちになってしまっていたのだという。

 シュンの寂しい身の上を知った夏也は、彼と一緒に暮らす事にしたらしい。
 彼は相変わらず生意気な物言いだが、これで夏也には随分懐いているようだと神様から聞いていた。

 シュン達と出会ってからこの夏の間、俺達は黒い霧とのイタチごっこを続けていた。九月に入り、台風が来る日もあって毎日とはいかないが、霧の偵察は続けている。

 警察官の天太も、夜間のパトロールに参加してくれたり、日中は近隣の巡回連絡でそれとなく情報を集めてくれている。
 俺も死神の鎌という武器を手に入れ、鈴を使って人間界に呼んだ蓮雫も応戦してくれてはいるが、黒い霧の捕獲には依然至っていない。
 それでも、住民の命を何度か救う事が出来た。

『俺も手伝いたいけど、外に出られないからなぁ……』

 シュンは座敷童子という立場上、一度居憑いた家を離れる事を避けていた。座敷童子の居る家は豊かになるというが、去ってしまうと没落するという言い伝えを気にしているのだ。

 だがそれが本当なのかは、当人にも分からないらしい。

『偵察は俺達で回るから大丈夫だ。夜間にお前が家から居なくなっていたら、夏也は心配して探しに出てしまうかもしれないからな』

『そっか……』

 やはり夏也には心配をかけたく無いのか、そう言うとシュンは聞き分け良く黙った。
 霧は今のところ日が沈んでからしか現れていなかった。俺達幽霊と同様に、日の光に弱かったりするのだろうか。

『今夜のパトロールは天太もくるの?』

 天太は何度か霊体の状態で俺の家にやって来ていた。生身の状態では、いくら警察とはいえ不法侵入になってしまうからだ。
 まあ、霊なら許されるという訳でもないのかもしれないが。

『今日はどうしても外せない用事があるとか言ってたな……』

 シュンの質問に俺が答えると、隣で寝転がっていた神様が欠伸をしながら言った。

『どうせ合コンじゃろうな』

『あ~、そう言えば看護師とやるって言ってたね、夏也も呼んであげればいいのに』

 なんで、神様と妖怪がそういう事情に詳しいのかは知らないが、彼等は時折俺より若者文化に詳しかったりする。

『まあ今夜はわしも、ちと用事があるのじゃよ』

 神様はようやく畳から起き上がると、長い髪をかき上げながら言った。
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