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第3章 幽体離脱警官と妖怪の子

20.幽体離脱警官は、人知れず平和を守る

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『神様を囮にしたつもりだったんだかな……』

『全く神使いの荒い人間じゃ』

 友和に神様と呼ばれた着物男は、やれやれと首を振った。

『じゃあ、その人が知り合いの神様……? 後、それって死神の……』

『そうだ。これは、蓮雫に頼んで死神から借りて貰った。空間を切ったり出来るくらいだから、黒い霧にも多少は効果があるかと思ったんだが……』

『持ち主の霊力で鎌の威力も変わってくるからのう』

 友和は鎌をしげしげと眺めた。1.5メートルくらいはある大きな鎌だ。子どもが持っていると、余計に大きく見える。

『そういやそれって、この銀の紐も切れちゃうんだよな?』

 俺は慌ててもう一度、紐の状態を確かめた。良かった、ちゃんと繋がっている。

『ああ。なるべく気を付けて切った』

『そこはちゃんとしようか?』

 俺は紐を軽く引っ張って肉体に戻った。三回目となると大分慣れてくる。
 服もスニーカーもビショビショだ。せっかく着替えたのに、泥だらけになってしまった。

『まさか、ニ夜連続で襲われるとは思わなかったぜ……シュンの方も無事か?』

 俺はあぜ道に戻って、コンビニ袋を拾い上げながら尋ねた。夕飯の方は、ビニールに入ったまま、道の方に放り出されていたので無事だった。

『ああ、まだ家で保護している。神様にはさっき事情を説明したところだ』

『いきなり座敷童子が訪ねてきよったからびっくりしたわい』

(座敷童子?)

 それを聞いて、俺はさらに質問を重ねる。

『シュンって、座敷童子だったのか? それにしちゃ外歩いてるし、カジュアルな服装だったな?』

『う~む。まだ良く分からんが、家出でもしてきたみたいじゃのう……』

『家出……? 不良の座敷童子?』

 俺は益々不思議に思ったが、不思議と言えば、人間と幽霊と神様が田んぼの真ん中で雁首そろえて妖怪の子どもの話をしているのも奇妙な光景だ。

『しかし、黒い霧は捕まえるのに苦労しそうだな……』

 友和は鎌を持ち替えて考え込んだ。

 その心配は実際その通りで、俺達はその日以降も何度か黒い霧と対峙したが、決まって最後には逃げられていた。
 あの不思議な一日以来、俺もちょくちょく寮を抜け出して、この秘密の夜のパトロールに参加している。

 ちなみに、抜け出しているのは魂だけだ。そうすれば、友和達と同様に普通の人間に姿を見られる事は無かった。もちろん、銀の紐を切らないようにめちゃめちゃ注意している。

 鈴を使い蓮雫を呼び出した事もあったが結果は変わらず、黒い霧はいつも夜の闇に溶けて消えてしまった。

 ただ、パトロールを続けて良い事もあった。霧に襲われかけた人を、何人か救う事が出来たのだ。

 一ノ瀬警部とは、あの日以来連絡を取っていない。友和達にもまだ相談出来ていなかった。

 夏の日差しが降り注ぐ駅前は、いつもと何も変わらない。しかし、この町のどこかで、きっと今も不気味な黒い手が徘徊しているのだ。

(秘密の幽体離脱警官って、ヒーローにしちゃ、ちょっと格好悪いかな……)

 そんな事を考えながら、俺は今日もこの町の平和を人知れず守っている。
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