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第3章 幽体離脱警官と妖怪の子

16.医務室

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 眩しい光に包まれて、だんだん気が遠くなる。何も見えず、身体はふわふわとして平衡感覚を失っていた。

 やがて、自分が仰向けに寝ている感覚が戻ってきた。今までずっと夢でも見ていたみたいだ。
 重たいまぶたを持ち上げると、まだ真っ白な世界が広がっていたが、横からひょっこりと知った顔が飛び出してくる。

『日野……!?』

『鏑木先輩……?』

 意識がはっきりとしてきて、俺は今白い天井を見上げていたのだと理解した。ゆっくりと身体を起こすと、まだ少し全身が痺れるような感覚があった。

 鏑木先輩はそれまで酷く心配そうな顔をしていたが、俺が起き上がるといつもの厳しい顔つきに戻り、大声で怒鳴った。

『一体何やってんだ! 急にひっくり返って頭打つなんて……!』

 そう言われて、俺は自分が倒れた時の状況を思い出した。

『あ、そうでした! ご、ご迷惑お掛けしてすいません……ここは……?』

『署内の医務室だ。……まあ、当直明けで疲れていたんだろう。明日はゆっくり休んでくれ。大事なくて良かった……』

 そう言うと、鏑木先輩はポンとベッドを叩いて部屋を出て行った。窓の外は既に暗い。周りのベッドを見回したが、俺の他には誰も居なかった。

(昼過ぎに現場でひっくり返って、夕方まで寝ちゃったのか……)

 携帯を取り出そうとして、ポケットを探ると丸いものが指先に触れた。

(あ……)

 そっと取り出すと、小さな鈴だった。蓮雫がくれたものだ。

(やっぱり夢じゃなかったか……)

 俺は間違えて鳴らしてしまわないように、そっと鈴を握りしめた。

 その時、またドアが開く音がした。先輩が忘れ物でもしたのだろうかと顔を上げると、ドアの奥から現れたのは予想外の人物であった。
 すらりと長い手足、感情の篭らない冷たい瞳。

『い、一ノ瀬警部!?』

『気が付いたらしいな』

 俺は慌てて立ち上がると、深々と頭を下げた。

『この度は、ご迷惑お掛けしまして、大変申し訳ございませんでした!』

 捜査を手伝うどころか邪魔をする形になってしまった。上長の鏑木先輩の評価にも関わってしまうかも知れない。俺は必死で頭を下げた。

 しかし、警部は表情をまるで変えずに、そのまま俺に向かって近づいてくる。

(な、殴られるのかな……?)

 思わず壁まで後ずさる。

『どこへ行っていた?』

『へ?』

(どこへって、俺の肉体は倒れて運ばれて、ここでずっと寝ていたのでは?)

『倒れた後、お前は何を見て来たんだ?』

 一ノ瀬警部はさらに間合いを詰めてくる。ほぼ同じくらいの歳のはずなのに、鏑木先輩以上の物凄い威圧感だ。

(倒れた後に見たものって……、もしかして魂の行方について聞かれているのか?)
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