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第3章 幽体離脱警官と妖怪の子

7.お気に入りの蕎麦屋

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 派出所に戻った俺は、先輩が起きた後もさっきの出来事について報告しなかった。

 何と説明すれば良いか分からないし、話しても信じて貰えないに決まっている。また居眠りして、夢でも見たんだろうと小突かれるだけだ。

(実際、夢みたいな話ではあるけどな……)

 俺は交代で仮眠を取った後、10時過ぎには引き継ぎをして寮に戻った。
 梅雨明け前ではあったが、外は爽やかに晴れていた。

 寮は派出所から歩いて15分くらいの所にある。シャワーを浴びて、少しゴロゴロ休憩した後、昼飯を食べに出掛ける事にした。

 非番の日の昼飯は楽しみの一つだ。交番では交代でささっと済ませてしまうので、一人でのんびり食べるとリラックス出来た。

(今日は何にしようかな~)

 正午過ぎの強い日差しに目を細めながら、俺はお腹と相談しながら商店街にある蕎麦屋にやって来た。

 この藪中やぶなかという店は、もう七十過ぎのご主人が奥さんと二人で切り盛りしていた。商店街でもかなりの老舗で、店の歴史を感じさせる深みのある出汁に魅了された地元のファンも多かった。

 食べる事は大好きなので、非番の日や休日は町の飲食店を食べ歩いていた。もう、大抵の店には顔を出している。中でもこの店はお気に入りだった。

 紺色の暖簾を潜り、引き戸をガラガラと開ける。既に店内には、数名の客が入っていた。

『いらっしゃい。あら天太君、今日は非番の日?』

 奥からにこにこと、小柄な奥さんがお盆を持って出てきた。

『そうっす! ばーちゃんのご飯が食べたくなっちゃって』

『うふふ、いつもありがとうね。そこ座ってちょっと待っててね。はい、こちらは親子丼ね。お待たせしました~』

 奥さんはこぼれ落ちそうに笑うと、隣の席の客に料理を出した。俺はメニューを手にとったが、もう腹は決まっていた。

(親子丼も美味いけど、俺は今日はコレに決めてるんだぜ!)

『じゃあ、天太君は何にしましょうね?』

 奥さんは振り返ると、割烹着のポケットからメモとペンを取り出した。

『カツカレーお願いします!』

『はい、カツカレーね。ちょっとお待ち下さいね』

『はーい!』

 お蕎麦屋さんのカレーは、出汁が効いていて、家カレーや洋風カレー、インドカレーとはまったく違った美味さがある。たまに無性に食べたくなるのだ。

 そこへ揚げたてサクサクジューシーなカツがどーんと乗っかって、しっかり分厚い肉まで楽しめる。
 付け合わせにサラダや漬物、味噌汁までついてくる。最高オブ最高メニューである。

 俺がわくわくしながら料理を待っていると、隣から話声が聞こえた。

『うん旨い! ここの親子丼はやっぱり旨いぞ!』

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