43 / 131
第3章 幽体離脱警官と妖怪の子
7.お気に入りの蕎麦屋
しおりを挟む
派出所に戻った俺は、先輩が起きた後もさっきの出来事について報告しなかった。
何と説明すれば良いか分からないし、話しても信じて貰えないに決まっている。また居眠りして、夢でも見たんだろうと小突かれるだけだ。
(実際、夢みたいな話ではあるけどな……)
俺は交代で仮眠を取った後、10時過ぎには引き継ぎをして寮に戻った。
梅雨明け前ではあったが、外は爽やかに晴れていた。
寮は派出所から歩いて15分くらいの所にある。シャワーを浴びて、少しゴロゴロ休憩した後、昼飯を食べに出掛ける事にした。
非番の日の昼飯は楽しみの一つだ。交番では交代でささっと済ませてしまうので、一人でのんびり食べるとリラックス出来た。
(今日は何にしようかな~)
正午過ぎの強い日差しに目を細めながら、俺はお腹と相談しながら商店街にある蕎麦屋にやって来た。
この藪中という店は、もう七十過ぎのご主人が奥さんと二人で切り盛りしていた。商店街でもかなりの老舗で、店の歴史を感じさせる深みのある出汁に魅了された地元のファンも多かった。
食べる事は大好きなので、非番の日や休日は町の飲食店を食べ歩いていた。もう、大抵の店には顔を出している。中でもこの店はお気に入りだった。
紺色の暖簾を潜り、引き戸をガラガラと開ける。既に店内には、数名の客が入っていた。
『いらっしゃい。あら天太君、今日は非番の日?』
奥からにこにこと、小柄な奥さんがお盆を持って出てきた。
『そうっす! ばーちゃんのご飯が食べたくなっちゃって』
『うふふ、いつもありがとうね。そこ座ってちょっと待っててね。はい、こちらは親子丼ね。お待たせしました~』
奥さんはこぼれ落ちそうに笑うと、隣の席の客に料理を出した。俺はメニューを手にとったが、もう腹は決まっていた。
(親子丼も美味いけど、俺は今日はコレに決めてるんだぜ!)
『じゃあ、天太君は何にしましょうね?』
奥さんは振り返ると、割烹着のポケットからメモとペンを取り出した。
『カツカレーお願いします!』
『はい、カツカレーね。ちょっとお待ち下さいね』
『はーい!』
お蕎麦屋さんのカレーは、出汁が効いていて、家カレーや洋風カレー、インドカレーとはまったく違った美味さがある。たまに無性に食べたくなるのだ。
そこへ揚げたてサクサクジューシーなカツがどーんと乗っかって、しっかり分厚い肉まで楽しめる。
付け合わせにサラダや漬物、味噌汁までついてくる。最高オブ最高メニューである。
俺がわくわくしながら料理を待っていると、隣から話声が聞こえた。
『うん旨い! ここの親子丼はやっぱり旨いぞ!』
何と説明すれば良いか分からないし、話しても信じて貰えないに決まっている。また居眠りして、夢でも見たんだろうと小突かれるだけだ。
(実際、夢みたいな話ではあるけどな……)
俺は交代で仮眠を取った後、10時過ぎには引き継ぎをして寮に戻った。
梅雨明け前ではあったが、外は爽やかに晴れていた。
寮は派出所から歩いて15分くらいの所にある。シャワーを浴びて、少しゴロゴロ休憩した後、昼飯を食べに出掛ける事にした。
非番の日の昼飯は楽しみの一つだ。交番では交代でささっと済ませてしまうので、一人でのんびり食べるとリラックス出来た。
(今日は何にしようかな~)
正午過ぎの強い日差しに目を細めながら、俺はお腹と相談しながら商店街にある蕎麦屋にやって来た。
この藪中という店は、もう七十過ぎのご主人が奥さんと二人で切り盛りしていた。商店街でもかなりの老舗で、店の歴史を感じさせる深みのある出汁に魅了された地元のファンも多かった。
食べる事は大好きなので、非番の日や休日は町の飲食店を食べ歩いていた。もう、大抵の店には顔を出している。中でもこの店はお気に入りだった。
紺色の暖簾を潜り、引き戸をガラガラと開ける。既に店内には、数名の客が入っていた。
『いらっしゃい。あら天太君、今日は非番の日?』
奥からにこにこと、小柄な奥さんがお盆を持って出てきた。
『そうっす! ばーちゃんのご飯が食べたくなっちゃって』
『うふふ、いつもありがとうね。そこ座ってちょっと待っててね。はい、こちらは親子丼ね。お待たせしました~』
奥さんはこぼれ落ちそうに笑うと、隣の席の客に料理を出した。俺はメニューを手にとったが、もう腹は決まっていた。
(親子丼も美味いけど、俺は今日はコレに決めてるんだぜ!)
『じゃあ、天太君は何にしましょうね?』
奥さんは振り返ると、割烹着のポケットからメモとペンを取り出した。
『カツカレーお願いします!』
『はい、カツカレーね。ちょっとお待ち下さいね』
『はーい!』
お蕎麦屋さんのカレーは、出汁が効いていて、家カレーや洋風カレー、インドカレーとはまったく違った美味さがある。たまに無性に食べたくなるのだ。
そこへ揚げたてサクサクジューシーなカツがどーんと乗っかって、しっかり分厚い肉まで楽しめる。
付け合わせにサラダや漬物、味噌汁までついてくる。最高オブ最高メニューである。
俺がわくわくしながら料理を待っていると、隣から話声が聞こえた。
『うん旨い! ここの親子丼はやっぱり旨いぞ!』
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
おいしい心残り〜癒し、幸せ、ときどき涙〜
山いい奈
キャラ文芸
謙太と知朗は味噌ラーメン屋を経営する友人同士。
ある日ふたりは火災事故に巻き込まれ、生命を落とす。
気付いたら、生と死の間の世界に連れ込まれていた。
そこで、とどまっている魂にドリンクを作ってあげて欲しいと頼まれる。
ふたりは「モスコミュールが飲みたい」というお婆ちゃんにご希望のものを作ってあげ、飲んでもらうと、満足したお婆ちゃんはその場から消えた。
その空間のご意見番の様なお爺ちゃんいわく、お婆ちゃんはこれで転生の流れに向かったというのだ。
こうして満足してもらうことで、魂を救うことができるのだ。
謙太と知朗は空間の謎を解こうとしながら、人々の心残りを叶えるため、ご飯やスイーツを作って行く。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
離縁の雨が降りやめば
月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。
葵との離縁の雨は降りやまず……。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる