護堂先生と神様のごはん あやかし子狐と三日月オムライス

第3章 卵焼きと仲良しキャンプカレー

23.窮地

　私は咄嗟に持っていた懐中電灯をそいつに向かって投げ付けた。
　しかし次の瞬間、奴が目の前から突然消えた。目線を上げると、それが空高く飛び上がっている事に気付く。その背中には大きな黒い翼が生えていた。

『飛んだ！？』

　懐中電灯は虚しく地面を転がり、その脇を走る二匹の背中からも次々真っ黒い羽根が生えてきた。

『なんと！』

　これにはさすがの神様も驚いたらしい。正面から突進してきた二匹は上手く躱したものの、上から急降下してきた空飛ぶのっぺらぼうに、一瞬でこむぎを奪われてしまった。

『こむぎ！！』

『やー！』

　着物の襟首を掴まれて、こむぎはジタバタともがいている。奴はそのまま再び上空に飛び去ろうとした。

『こむぎーー！！』

　私はそれを必死で追いかける。妖怪はもう3、4メートル位の高さまで飛び上がっていて手は届かない。

　すると近くの木の上から、何かが飛び出してのっぺらぼうにぶつかって行くのが見えた。
　のっぺらぼうはその衝撃を受けて、こむぎを取り落とす。

『わーっ！？』

　私は持ちうる限りの力でスライディングし、落ちてくるこむぎに腕を伸ばした。

『くっ……！』

　地面に倒れ伏しながら、思わず目を閉じてしまったが、ふんわりと温かい感触を腕の中に感じる。

『なーや？』

『こむぎ……』

　子狐はいつものように頭を私に擦り付ける。安堵した私は、こむぎをぎゅっと抱きしめて、再び上空の様子を窺った。