上 下
13 / 14

13.救出

しおりを挟む
 神様はあっさりと言う。

『そんな……!』

『じゃが、音楽を聴くと眠ってしまうという話は聞いた事があるのう……』

『音楽? 音楽といっても、楽器なんて持って……』

 そこで、私は昼間の会話を思い出し、振り返って叫んだ。

『西園寺先生! 歌ってください!』

『Why? 何を言っているんです!?』

 それは、そう思うだろう。

『さ、西園寺先生の素敵な歌が聴きたいんです! 今ここで! そうしたら、私も先生もきっと元気になって、体も動きますよ!』

 我ながら酷い出まかせである。

『そ、……そうかな!?』


 西園寺先生が単純な人で良かった。

 そして西園寺先生が、文化祭で歌う曲をまるでオペラ歌手のように歌いだすと、体に絡みついていた蔓草がゆるくなり、地面に落ちるのが見えた。

 私はそれを確認すると、すぐに彼の元に駆け寄る。

『素晴らしかったです! 立てますか?』

『OK! 君の言う通りだったね!』

 西園寺先生がにこやかにハグをしてきたのをかわすと、私は中山さんらしき男性に近づき、声をかけた。

『大丈夫ですか? 中山さん……ですよね?』

 男性は意識を取り戻すと、私を見てから驚いた様子で辺りを見回した。

『え、ああそうだが、なんで俺はこんな森の奥に……畑の近くに妙な穴が空いていると聞いて来たんだが、急に体が動かなくなって……』

 中山さんは、気を失ってから、ここまで引き摺られて来たようだ。少し衰弱しているが、私と西園寺先生で肩を貸して歩き、森を抜けてさつまいも畑の場所まで案内してくれた。


 不思議な事に、畑はあの近道より中山家に近い場所にあった。

『あれ? 中山さんのお父さんから貰った地図を見間違えたのかな?』

 私はポケットを探るが、紙切れは見当たらなかった。穴に落ちた時にでも、落としたのだろうか。

『え、親父に会ったって? 親父は今入院中で、家には居ないはずだけど……』

 私と西園寺先生は、顔を見合わせる。

『どうやら呼ばれたようじゃの』

 ニヤリとする神様の横で、私は再び背筋を凍らせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

声劇台本置き場

ツムギ
キャラ文芸
望本(もちもと)ツムギが作成したフリーの声劇台本を投稿する場所になります。使用報告は要りませんが、使用の際には、作者の名前を出して頂けたら嬉しいです。 台本は人数ごとで分けました。比率は男:女の順で記載しています。キャラクターの性別を変更しなければ、演じる方の声は男女問いません。詳細は本編内の上部に記載しており、登場人物、上演時間、あらすじなどを記載してあります。 詳しい注意事項に付きましては、【ご利用の際について】を一読して頂ければと思います。(書いてる内容は正直変わりません)

処理中です...