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第3章 墓場とラーメン

9.来客

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 霊界に居る人達は、食事を摂る必要なんてなさそうだが、死神でも腹が減るのだろうか。

『食堂作ッタ人間霊、料理ガトテモ好キ。彼ニ拉麺ノ作リ方習ッタ。親切ナ人。拉麺ハ屋台デモ売ルト聞イテ、廃材ヲ貰ッテ屋台ヲ作ッテミタ』

 創作意欲の旺盛な死神である。

『なるほど……でも、何でこんな人が来なさそうな所にお店を出すんです? 折角ならもっと目立つ所に出店した方が……』

 言いかけて私は、そもそも死神の屋台が見える人間がどれだけ居るのだろうかと思い直した。これまでの目撃者達は、偶々霊感が強い人間だったのかもしれない。
 死神が人間相手に大っぴらに商売を始めたら、それこそまず死神が実在したという点で大騒ぎになるだろう。

『人間ガ来ナイ所ノ方ガ良イ。ウチノお客様ハ人間ジャナイ……』

(お客様は人間じゃない……?)

 その言葉の意味を理解するのと同時に、私は背後に何者かの気配を感じた。

『わっ!?』

 振り返ると、死神の言う通り明らかに人間ではない者が屋台に向かって集まって来ている。

 黒いコート姿で鎌を持っているのは、恐らくご主人と同じ死神だろう。額から角を生やした鬼のような者も居れば、白装束で三角の白い布を頭に着けた、幽霊感丸出しの者も居た。
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