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序章 原点編
原点編第一話 侵攻
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ここは、スミーナ国の領地であるエリス村。
本来、決して賑やかとは言えないが、村というからには何人もの人が暮らしているはずのこの村に、今この場にはたった一人の少年しかいない。
その少年の目には、あるはずの家や人が全く映っていなかった。
少年の目に映っているのは、村をすべて焼き尽くさんとする真っ赤な炎と、この光景を作り出した元凶である、人が乗り、空を飛ぶ漆黒の兵器のみ。
「な、何だこの惨状は!?一体何があったんだ!?」
少年の耳にそのような声が聞こえた。
少年がその声が聞こえた方を見ると、少し離れてはいるがスミーナ国の国旗が見える。
スミーナ国の兵士達が救援に来たのだ。
だが、その兵士達の先頭に立つ男が放った先程の声に、答えられる者は誰一人としていなかった。
彼以外の兵士は、言葉も出せない程に心の底から恐怖していたのだ。
無理もない。それは当然のことだ。
なぜならここ七十年近く、スミーナ国では戦争が全く起こっていない。
流石に七十年以上も戦争が起こっていなければ、平和ボケすることだろう。
だが、彼だけは違った。
彼だけはこの状況を理解しようと辺りを見回し、必死に思考を回し、己の役目を全うしようとしていた。
「……っ!?おい!!君!!大丈夫か!?」
彼は遠目ではあるが、確かに少年を見つけた。
彼がその少年を保護しようと駆け出す。
しかし兵士達は、誰も付いて行こうとしなかった。
いや、むしろ恐怖に囚われ、動くことができなかった。
「何をぼうっと突っ立ってるんだお前ら!!あの子を保護するぞ!!」
「「「「……ハッ……は、はいっ!!」」」」
彼の声によって、兵士達が正気に戻った。
いや、正気に戻ったというのは言いすぎだろうか。
兵士達がこの状況を恐れているのは変わりない。
ただ彼らは、自分達の役目を思い出しただけだ。
国民の命と、国を守るという役目を。
その役目を全うするべく、彼ら兵士達は後ろに背負った銃をガチャつかせながら少年に駆け寄る。
「……ここで何があったのか話せるかい?」
「……あ……あ……ああ……あああ……」
兵士達に向けられた少年の顔は、絶望と恐怖で埋め尽くされていた。
兵士達が思わず、一歩下がってしまう程に。
しかし彼だけは、その少年の目を真っ直ぐに見つめ、兵士達とは逆に少年に歩み寄り、その頭を優しくなでた。
「……落ち着いてくれとは言わない。この村をこんな風にしたのは誰なんだ?」
その問いに少年は答えられなかったが、震えながらある一方を指差した。
その方向には、今しがたエリス村から飛び立ったところである漆黒の兵器があった。
「な、何だあれは……あれがここをこんな風にしたのか?」
少年は体を小刻みに震わせながら、小さく頷く。
すると、ある一人の兵士がその方向を見て顔を青くした。
「た、隊長……あの方向は……確か……」
「っ!!ヴェルラ村の方向か!!まずい!!あれを止めなければ!!」
「ま、待って……」
少年はそう言って、離れていく隊長と呼ばれていた彼の手を、咄嗟に掴んだ。
その少年の顔は、今にも泣き出しそうであった。
「置いて行かないで……一人に……しないで……」
少年が絞り出した声は、あまりにも悲痛過ぎた。
そんな声を聞いて、彼がその少年をこの場に置いて行けるはずがなかった。
彼も、知っているのだ。
大切な人達がいなくなることの悲しみを。
孤独でいることの苦しみを。
そのような気持ちを知っている彼に、少年を見捨てることなどできるはずもなかった。
「……分かった。ただし私から離れるなよ。危険だからな」
少年は小さく頷き、彼の手を強く握った。
まるで一人になることを拒むかのように、強く。
そして彼もまた、少年の手を強く握り返した。
それは少年を安心させるかのごとく、強く。
「よし!全員馬に乗れ!あれを止めに行くぞ!」
「「「「は、はい!!」」」」
彼は兵士達に指示を出した後、少年を抱き抱え馬に乗せた。
そして彼は少年の後ろに飛び乗る。
「しっかりと掴まっておけよ。落ちないようにな」
「う、うん……」
とても小さな声ではあったが、少年は確かに返事をした。
その返事を確認し、彼は馬の手綱を握る。
「よし!!行くぞ!!私に続け!!」
そして彼は馬を走らせた。
兵士達も彼の後に続き、続々と馬を走らせ始める。
「……君。あれがどんな攻撃をしてきたのか言えるか?」
彼は自らの心を押し殺し、少年にそう問いかけた。
彼としてはあの漆黒の兵器がどんなことをしてくるのか知りたかったのだ。
たとえそれが、少年に恐怖を思い出させることになったとしても。
「……分からない……僕がスタッツ街におつかいに行って帰ってきたら、こんなことに……。帰ってきた時、あれが僕達の村の上に飛んでて……他に誰もいなかったから、あれがやったんだって……」
少年の声はこれもまた小さかったが、先程よりもなめらかに言葉を発した。
少年が感じていた恐怖は、彼によっていくらか和らいだようだ。
「……そうか。ありがとう。悪かった。嫌なことを思い出させてしまって……」
「ううん……大丈夫……」
結局、彼が求めていた情報は何一つ得られらなかった。
それでも、漆黒の兵器はどんどんと近づいてくる。
どうやら漆黒の兵器はゆっくりと移動しているらしい。
何の情報もないが、戦う以外の選択肢はない。
そう考えた彼は馬を更に速くする。
「お前ら!!あれがヴェルラ村に着く前に食い止めるぞ!!」
「「「「りょ、了解!!」」」」
彼の号令によって兵士達も馬の速度を上げる。
彼らはもう、漆黒の兵器の直ぐ後ろまで近づいてきていた。
本来、決して賑やかとは言えないが、村というからには何人もの人が暮らしているはずのこの村に、今この場にはたった一人の少年しかいない。
その少年の目には、あるはずの家や人が全く映っていなかった。
少年の目に映っているのは、村をすべて焼き尽くさんとする真っ赤な炎と、この光景を作り出した元凶である、人が乗り、空を飛ぶ漆黒の兵器のみ。
「な、何だこの惨状は!?一体何があったんだ!?」
少年の耳にそのような声が聞こえた。
少年がその声が聞こえた方を見ると、少し離れてはいるがスミーナ国の国旗が見える。
スミーナ国の兵士達が救援に来たのだ。
だが、その兵士達の先頭に立つ男が放った先程の声に、答えられる者は誰一人としていなかった。
彼以外の兵士は、言葉も出せない程に心の底から恐怖していたのだ。
無理もない。それは当然のことだ。
なぜならここ七十年近く、スミーナ国では戦争が全く起こっていない。
流石に七十年以上も戦争が起こっていなければ、平和ボケすることだろう。
だが、彼だけは違った。
彼だけはこの状況を理解しようと辺りを見回し、必死に思考を回し、己の役目を全うしようとしていた。
「……っ!?おい!!君!!大丈夫か!?」
彼は遠目ではあるが、確かに少年を見つけた。
彼がその少年を保護しようと駆け出す。
しかし兵士達は、誰も付いて行こうとしなかった。
いや、むしろ恐怖に囚われ、動くことができなかった。
「何をぼうっと突っ立ってるんだお前ら!!あの子を保護するぞ!!」
「「「「……ハッ……は、はいっ!!」」」」
彼の声によって、兵士達が正気に戻った。
いや、正気に戻ったというのは言いすぎだろうか。
兵士達がこの状況を恐れているのは変わりない。
ただ彼らは、自分達の役目を思い出しただけだ。
国民の命と、国を守るという役目を。
その役目を全うするべく、彼ら兵士達は後ろに背負った銃をガチャつかせながら少年に駆け寄る。
「……ここで何があったのか話せるかい?」
「……あ……あ……ああ……あああ……」
兵士達に向けられた少年の顔は、絶望と恐怖で埋め尽くされていた。
兵士達が思わず、一歩下がってしまう程に。
しかし彼だけは、その少年の目を真っ直ぐに見つめ、兵士達とは逆に少年に歩み寄り、その頭を優しくなでた。
「……落ち着いてくれとは言わない。この村をこんな風にしたのは誰なんだ?」
その問いに少年は答えられなかったが、震えながらある一方を指差した。
その方向には、今しがたエリス村から飛び立ったところである漆黒の兵器があった。
「な、何だあれは……あれがここをこんな風にしたのか?」
少年は体を小刻みに震わせながら、小さく頷く。
すると、ある一人の兵士がその方向を見て顔を青くした。
「た、隊長……あの方向は……確か……」
「っ!!ヴェルラ村の方向か!!まずい!!あれを止めなければ!!」
「ま、待って……」
少年はそう言って、離れていく隊長と呼ばれていた彼の手を、咄嗟に掴んだ。
その少年の顔は、今にも泣き出しそうであった。
「置いて行かないで……一人に……しないで……」
少年が絞り出した声は、あまりにも悲痛過ぎた。
そんな声を聞いて、彼がその少年をこの場に置いて行けるはずがなかった。
彼も、知っているのだ。
大切な人達がいなくなることの悲しみを。
孤独でいることの苦しみを。
そのような気持ちを知っている彼に、少年を見捨てることなどできるはずもなかった。
「……分かった。ただし私から離れるなよ。危険だからな」
少年は小さく頷き、彼の手を強く握った。
まるで一人になることを拒むかのように、強く。
そして彼もまた、少年の手を強く握り返した。
それは少年を安心させるかのごとく、強く。
「よし!全員馬に乗れ!あれを止めに行くぞ!」
「「「「は、はい!!」」」」
彼は兵士達に指示を出した後、少年を抱き抱え馬に乗せた。
そして彼は少年の後ろに飛び乗る。
「しっかりと掴まっておけよ。落ちないようにな」
「う、うん……」
とても小さな声ではあったが、少年は確かに返事をした。
その返事を確認し、彼は馬の手綱を握る。
「よし!!行くぞ!!私に続け!!」
そして彼は馬を走らせた。
兵士達も彼の後に続き、続々と馬を走らせ始める。
「……君。あれがどんな攻撃をしてきたのか言えるか?」
彼は自らの心を押し殺し、少年にそう問いかけた。
彼としてはあの漆黒の兵器がどんなことをしてくるのか知りたかったのだ。
たとえそれが、少年に恐怖を思い出させることになったとしても。
「……分からない……僕がスタッツ街におつかいに行って帰ってきたら、こんなことに……。帰ってきた時、あれが僕達の村の上に飛んでて……他に誰もいなかったから、あれがやったんだって……」
少年の声はこれもまた小さかったが、先程よりもなめらかに言葉を発した。
少年が感じていた恐怖は、彼によっていくらか和らいだようだ。
「……そうか。ありがとう。悪かった。嫌なことを思い出させてしまって……」
「ううん……大丈夫……」
結局、彼が求めていた情報は何一つ得られらなかった。
それでも、漆黒の兵器はどんどんと近づいてくる。
どうやら漆黒の兵器はゆっくりと移動しているらしい。
何の情報もないが、戦う以外の選択肢はない。
そう考えた彼は馬を更に速くする。
「お前ら!!あれがヴェルラ村に着く前に食い止めるぞ!!」
「「「「りょ、了解!!」」」」
彼の号令によって兵士達も馬の速度を上げる。
彼らはもう、漆黒の兵器の直ぐ後ろまで近づいてきていた。
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