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第1章

6.二人とも不器用な性格らしいです

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あれから、散々な目にあったとだけ言っておこう。もう目隠しのお風呂は無しだ。無し。あんな目にあうくらいなら、恥ずかしさを耐えて自分で洗ってしまった方が遥かにマシである。

朝になっても、全身がくすぐったく感じながら、ユーナはゆっくりとベッドから起き上がった。

ベルを鳴らすと、直ぐにマーサや他の侍女たちがやって来て今日は昨日と違い、アクアマリンのような淡い水色のドレスを身にまとい、真珠のネックレスを宛がわれた。

「お綺麗ですよお嬢様。朝食にはイシス様がご一緒にできるそうですよ」

髪を結い上げながらマーサが教えてくれた。

「お兄様がご一緒なのですね。マーサ、マーサから見たお兄様はどんなかた?その…少しでも知りたいの」

少しでも知っているのと、知らないのとでは違ってくる。何かが気にさわって嫌われたくない。俺の人生がかかってるんだ。目指せ仲良し兄妹!

「そうですね、イシス様は少し不器用な方だと思いますね。ご当主であらせられるユーノス様とお顔が似られていますので、怖がられやすいのです。そのせいもあってか、少し他人と距離を取られているように感じます」

「お兄様はお父様に似てらっしゃるのね。実を言うと私もお父様の顔を少し怖いと思ってしまったわ。でも、とてもお優しくてお父様を知れば怖くはなかったわ。きっと、お兄様のことも怖くなくなるわ」

クスリと微笑みながら鏡越しにマーサを見れば、マーサも簪を刺しながら微笑んでくれた。

「ええ。イシス様のことをどうか怖がらないで下さい。以前のお嬢様はご当主のことも、イシス様のこともどこか避けていらっしゃっいました。あからさまに避けることはありませんでしたが、どこか…よそよそしい感じでした」

「私は内気な性格だったのかしら?お父様に悩みを告げることもできずにいたくらいだし」

んーー。と首を傾け悩むユーナを見ながら、マーサは言葉を続けた。

「確かに内気だったのだと思います。幼い頃からあまりワガママなどおっしゃられなかった上に、ご当主とイシス様がお忙しくてユーナ様に構って差し上げれない時も、文句を言われなかった。
そして、イシス様もまた同じなのです。後継ぎとしてたくさんの責任と期待に押し潰されまいと、奮闘されているのを見ました。妹であるユーナ様や侍女たちに弱い姿を見られまいと、必死に立っておられました。幼馴染みである私はよく相談に乗っていたものです」

その時のことを思いだしたのか、マーサは辛そうに顔を歪ませた。

「マーサとお兄様は幼馴染みだったのね。そういえば、二人とも何歳になるの?」

「イシス様が25歳で、私は28歳です。イシス様より少し年上だったので、小さい頃はお姉様と呼ばれたりもしましたね。今では恐れ多いことです」

侍女頭と執事長の娘であるマーサは、生まれた時からこの屋敷に住んでいて、主人の子供であるお兄様とは姉弟のように育ったらしい。

私とお兄様は7歳の差があるので、一緒に「遊ぶ」と言うより「遊んでもらう」と言う方が正しかった。

そして、お兄様は次第に跡取りとして勉強をする時間が増えてしまい、ユーナが物心ものごころが付いた頃には疎遠になってしまっていた。

あまり話さない兄はお父様と似て顔が怖く、お父様も仕事でほとんど城からは帰ってこない。普通の家庭ではこんな時、母親が仲を取り持ってくれたりする。しかし、二人の母親は流行り病で亡くなっていなかった。

こうして、お兄様もユーナも不器用な性格になってしまったのだろう。

「ねぇ、マーサ。私、今度こそお兄様と仲良しになりたいわ。だって、その方が何倍も楽しいに決まってますわ。家族だもの」

だって前世の俺は、オタクで腐女子な姉と毎日ケンカして怒っていたとしても楽しかったのだからーーーーーーーーー

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