ナミダルマン

ヒノモト テルヲ

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えぴそうど11

ナミダルマン

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 さっきまでワーワー泣いていたミウちゃんが、とつぜん泣きやみました。そしてなにかに気づいたようにお母さんのところへとんできました。
「あのね、ミウはいま、いっぱい泣いちゃった。そしたら、なみだがいっぱいでたの。それでね、お洋服がぬれちゃった」
 お母さんはまたミウちゃんの不思議ナゼナゼが始まったと思いました。
「あのね、ミウのなみださんは、どこへ行くの? お洋服かわいたら、なみださんいなくなっちゃうよ」
 さあ、ここからです。ミウちゃんはお母さんをじっとみて、答えを待っています。
「ねえ、ミウちゃんは、なみだをなめたことがあるかな」
 ミウちゃんはうなずいて言いました。
「うん、ちょっとしょっぱいの」
「そうだね。なみだはちょっとしょっぱいね。それじゃあ海の水もなめたらしょっぱいって知っているかな」
 ミウちゃんは目をキラキラさせてうなずきました。
「そう、海の水はなみだよりいっぱい、しょっぱいねえ。なみだはかわいてお空に行って、いろんなところを旅して、そうして海に行くんだよ。だから海の水にはたくさんの人のなみだがはいっているの」
 ミウちゃんは首をかしげました。
「お洋服が乾くのは、なみだが目に見えないくらいの小さな粒になってお空へのぼっていくからだよ。お空の上では、その小さな粒が集まって雲になるんだよ」
「ふわふわうかんでいる雲?」
「そう、ミウちゃんのなみだも、小さな、小さな粒になって、お空にのぼって雲になるんだよ。雲の中で小さな粒がまたくっついて、だんだん大きくなるの。大きくなると、だんだん重くなるのね。重くなったら、ふわふわとは浮かんでいられないから、雨や雪になって空から降ってくるんだよ」
「雨や雪? ミウはそんなにいっぱい泣かないよ」
 お母さんは、そうだねと相槌をうちながらつづけます。
「でも、泣くのはミウだけじゃないでしょ。世界じゅうの、たくさんの人だって泣くんだよ」
 ミウちゃんはふしぎに思いました。
「みんなどこか痛いの? 悲しいの?」
「泣くのは痛いときや悲しいときだけじゃないよ。お母さんは、うれしいときも泣くよ」
 ミウちゃんはまだうれしくて泣いたことはありませんので、少しびっくりしました。
「そう、ミウが産まれたときも、うれしくてうれしくて、お母さんはいっぱい泣いたな。これはないしょだけれど、お父さんも泣いたんだよ」
「ミウが産まれて、うれしかった?」
「うん、お父さんもとってもうれしくて、お母さんにありがとうって言ってくれた。雨や雪には、そんななみだがいっぱいはいっているかもしれないよ」
「でも、雨はしょっぱくないよ。ミウのお口にはいったことがある」
「それは、お空へのぼっていくときに、しょっぱいものだけ置いていくからよ。しょっぱくて、重いものを置いていくから軽くなり、お空へのぼっていけるのよ。だから、雨はしょっぱくないの」
「じゃあ、雪も? 雪はなめたことない」
「雪だって雨と同じ。水が氷っちゃうくらい寒いと、雨が雪になって降ってくるんだね。だから雪はしょっぱくないよ。その雪がたくさん降ると積もって、お外が真っ白になるね」
「うん、ミウ雪の上でおすべりしたことがある」
「そうだね、すべってあそんだね。それに雪ダルマも作ったね。
 さてそれじゃあ、いっぱい降った雨や雪はどこへいくのかな。雨は流れて川へいくね、そのときに置いていった涙の重いものも雨といっしょに海へ流れていくんだよ。雪も融けて水になると川へいって、それから海へいく。海でもお日さまに暖められた水は小さな粒になってお空へのぼっていき、小さなつぶは雲になり、雲から雨や雪が降って水はまた川へ流れて海へいくことを繰り返すんだね。そして何十年、何百年も前の大昔から繰り返すうちに、海の水にはなみだがいっぱい入っているんだよ」
 話が大きくてミウちゃんにはわかりません。

「海は、なみだでいっぱいなの?」
「海はとっても広くて大きいから、海の水が全部なみだになることはないのよ。でも、もしかしたら雨や雪の中にミウのなみだが混じって降ることがあるかもしれないね」
 ミウちゃんは自分のなみだが雨に混じって降ってくることを想像しました。
「そしたら、雨はお空が泣いているみたいだね」
「そう、雨はお空が泣いているんだね。それじゃあ雪もなみだが混じっていたら、雪ダルマはナミダルマになるね。人間みたいだから、ナミダルマンかな」
 お母さんの話が面白くてミウちゃんは大笑いして、いいことを思いついたように言いました。
「こんど雪が降ったらナミダルマン作ろう、おとうさんといっしょに」
 お母さんはミウちゃんが納得してくれたようで、ホッとしました。
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