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第一章
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しおりを挟むそろそろクリスタが昼寝から目覚める頃だから、過去生の友、シュヴァルを抱いて部屋に戻った。
クリスタがシュヴァルを見た瞬間が問題だ。記憶が甦るかどうか。
過去生では毎回、一気に甦った記憶の洪水に溺れそうになって、馴染むまで熱を出して一週間ほどうなされ続けていた。
今生では、僕はシュヴァルと目が合った瞬間に一気にすべての記憶が甦ったが、膨大な記憶の整理も一瞬で終わり、精神的にも身体的にも何ら異常は見当たらない。
では、クリスタはどうなのか…?
魂を分けた存在なので、僕との潜在的な能力差はないと思っている。
問題は、僕が生まれた時から自我があり、直前生の延長で思考できた点だ。対してクリスタは、普段の転生と同じに、三歳までは何かを覚えていたり記憶が甦ったりといった様子はなかった。
この違いが影響しているのならば、クリスタは記憶の甦りに際して、過去生と同じように高熱で寝込むことになる。
できることならば、クリスタは過去の記憶が甦ることなく、穏やかに幸せに過ごしてほしいと思っているが、どうなるのだろうか…?
部屋に戻って少ししてクリスタが起きたようだ。もぞもぞと毛布から顔を出した。
おはようと挨拶をした。
それから、僕が胸に抱いているシュヴァルを見た。
…………何も起きなかった…。
ずーーーーーっと、注意深くクリスタを見ていた。
クリスタはシュヴァルを見た瞬間、驚いたように目を見開いて、それからずーっとニコニコしている。そして瞳がキラキラしているんだ。
僕は、クリスタのこの反応を知っている。
初めて獣舎に行った時に馬やモーに餌をやり、さらに鶏もどきの餌やりに挑戦し続けた時や、領主館の馬場で馬に乗せてもらうと言ってきかなかった時。
どちらの時も、全然諦める様子がなくて、相手が音を上げるまで続いたんだ……〈遠い目〉
その時にこの反応をしていたなぁ…。
普段は物事に対する執着が薄いみたいなんだが、ここぞという時の執着力?は凄いぞ! 本当にスゴイぞ!!
シュヴァル頑張れ……。骨は拾ってやるぞ。
しかし、記憶は甦ってはいないのかなぁ?
僕の時にすぐに整理がついたから、クリスタも可能性はある。
聞いてみるしかないか…。
「ねえ、クリスタ。あたまがいたいとか、きもちわるいとかない?」
「ん? ない」
「じゃあ、べつのひとのきおくとかおもいだしたりした?」
「ん?んー??? わかんない」
「うん。そっか」
この様子だとないかなあ…。
シュヴァルとの対面だから、一番可能性が高いと思ったんだが…。
でも、誕生日当日だとは限らないから、これからも注意して見ていかないといけないね。
さて、クリスタに撫でまわされているシュヴァルを回収して、父の書斎に向かおう。
シュヴァルは、クリスタも『友』なのを一瞬で見抜いたから、撫でくり回されてもじっとしていたな。
しかも、クリスタには『友』の記憶がないんだ。
文句も飲み込んでいたようだった。
「クリスタ。ちいさいいきものをしつこくかまいすぎると、しんでしまうよ? もうやめにしようね?」
「うー。やっ!」
「クリスタ?」
「……あい」
「うん。いいこ」
生き物の生死に関係する注意に聞き分けがなくて、一瞬、自分でも驚くほど低い声が出てしまった。
嫌われないように、怖がられないように、ここは、たくさん頭をナデナデしておこう。
しばらくナデナデしてから、シュヴァルを胸に抱いて、クリスタと一緒に父の書斎に向かった。
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