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第一章

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 僕らが一歳になってすぐ、辺境伯の領主館に顔見せに行くことになった。

 僕らの祖父にあたる辺境伯の誕生日だから家族が集まるのだという。
 だが、家族が集うだけでパーティーは開かないらしい。
 辺境伯は、社交シーズンでも滅多なことでは王都に顔を見せない。常に領主館で有事に備えているというのだ。
 登城さえも必要に迫られなければ行かないとか。
 国境の要衝を担う領地を治める者の覚悟のほどがみてとれるようだ。
 臣下の鑑だよねー?この国の王様はちゃんとわかっているかな?
 王の考えは良くも悪くも、臣下の方向性に影響を与えるからね。それを理解しているかどうかだね。
 機会があれば確認したいものだ。
 この国の王が賢王か愚王か…。



 さて、僕らの初めてのお出かけである。
 家を囲む石垣の外も見たことがないんだ。ワクワクしないなんて無理でしょ♫

 今朝はいつもより早く目が覚めて、クリスタのスヨスヨ眠る寝顔を眺めながら、外の世界を想像していた。
 自分が大きくなったら、ああしてこうしてって想像するのって楽しいよね。

 僕がウキウキソワソワしていたら、起きたクリスタもウキウキ楽しみになってきたみたいだ。
 二人でフフフッって笑いながら、出かける準備をしていった。



 屋敷から直接領主館の転移部屋に飛ぶため、途中の危険はない。
 だから、今日は両親と妹の家族四人と家令のギルベルトだけで行くことになっている。
 ギルは家族が領主館にいるので、一緒に行って領主館で休日を過ごすらしい。
 他の人達は、エマもみんなもお休みだ。
 今までは交代で休んでいたため、全員が休みなのは初めてだという。
 屋敷の外に出かけられないのは残念だろうが、それでも、朝から屋敷全体がソワソワと落ち着かない感じである。
 僕達は領主館で二泊してくるので、今日の昼から明後日の昼まで休日なんだ。

 今日は、夕方に領主館から誕生日のごちそうとお酒が届くらしい。
 こちらの屋敷でもみんなで楽しんでねっていうことのようだ。


 みんなに見送られて、僕は父に抱っこされ、クリスタは母に抱っこされて、屋敷の転移部屋に入った。

 因みに、ここの転移部屋からは領主館にしか飛べない。
 なんでわかるかって? だって、魔法陣に書いてあるからね。
 古代語は過去生の言葉だから、魔法陣に書いてある古代語は全て読めるよ。
 そして、この魔法陣は書換え不可の強力な魔法がかけてあるみたいだから、行き先を故意に換えてどこかに飛ばそうと企んでもできない。それから、転移部屋に入るためと、魔法陣を動かすために魔力を流すようだが、これは予め登録した魔力でないと動かないようだ。

 防犯対策というのか…しっかりしているから安心だね。
 こちらのみんなは信用できるから安心だけれど、領主館に着いたら、そこらへんをチェックしとこうかな。


 ギルが魔石に魔力を流し、魔法陣に魔力が流れていく。そして、魔法陣が輝きだした。
 父が母の肩を引き寄せると、ギルも魔法陣の中に入った。
 
 さてさて、今生で初めての長距離転移だが、この身体は酔わないかな?
 クリスタは大丈夫かな? ちょっとだけ心配になってクリスタの手を握った。


 「はい。では参ります。皆様目を閉じてください。ユーリ様とクリスタ様も目をつぶってください」


 ギルに言われて目をつぶったすぐ後に、一瞬の浮遊感を感じた。


 「はい。到着しました。目を開けていただいて結構です」


 到着したみたいだ。酔わなかったな…。クリスタも……大丈夫そうだな。

 目を開けた僕達がいた場所は、屋敷と同じような部屋だった。ただ、扉の色以外は………。

 
 (すっご………。目に痛いわーーーーっ! 蛍光黄緑!!! この塗料どっから持ってきたんだよ?)


 この世界で蛍光色を見るとは思わなかったし…。

 この部屋を出るのがコワいわ。
 エマの話だと色分けされた扉が並んでいて、行き先を間違えないようにしているらしいんだが…。
 
 
 やっぱり他も蛍光扉だった。五本入りの蛍光ペンセットみたいだな…。


 そして、転移部屋を出たところで出迎えに待っていてくれたのは、燃えるような赤色の髪に濃茶の瞳をした、大きな男の人だった。

 








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