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序章
第一話 異世界にようこそ
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☆
「斎藤さん五番窓口へどうぞ」
「は、はい」
受付から名前を呼び出され、俺は席を立った。
「ええっと、五番は……」
俺は言われるまま、細い廊下を抜け、五番と書かれた部屋に向かう。
俺は都会でリストラにあい、あえなく再就職を断念し、人生の再起を賭けて、田舎暮らしへのIターンを申請に来ていた。思いの外同じ考え方の人が多いのか、数十人が朝から受付に溢れていた。既に一時間以上待たされて、やっと順番が回ってきた次第である。
「五番、五番…ここか」
受付には妙齢のご婦人がさも役所の役人のような笑顔で俺を待っていた。ここでいいんだな
「どうも、今日はIターンに応募頂き誠にありがとうございます」
「え、いえ、一度は田舎暮らしをしてみたかったんで、それで…」
「なるほど、失礼ですが斎藤さんは田舎暮らしの経験はございますか?」
田舎暮らし…田舎暮らしねえ
「そうですね、夏休みにお爺ちゃんの家で二週間位ならありますけど、それ位ですね」
「なるほど、なるほど、なら田舎暮らしとはいえ、仕事の経験はないのですね?」
「はあ、まあ、そうなりますかね? 野菜の収穫位なら毎日してましたけど」
「なるほど、それは素晴らしい経験をなさいましたね。ここに応募する方の中には、本の中でしか知らないのにいきなり来る方も多いんですが、その点、斎藤さんはある程度は田舎というか、農村部と言うものをご存知のようです。その点は有利ですね」
いや、本当に遊んでただけなんだけどな。取り敢えず相槌位は打っておくかな……
「さて、今回の応募では、田舎の土地建物、つまり住居兼倉庫兼工房である建物と、五百坪の畑が与えられる物件ですね。さらに都会にお店も小さいですが持てる権利も着いております」
「へえ、それは破格ですね」
よく分からんけど五百坪は凄いよね?
「Iターンですから、当然向こう五年間は無料での貸与となり、食料等の最低限の保証も受けられますから、起動に乗るまでは何とかなりますよ」
「じゃあ、食いっぱぐれは無いんですね」
「そうですね。あと、村の財産と言うか権利も有りまして、山で山菜や獣の狩りが出来たり、川での漁業権もありますから、収入を得る方法はかなり多種多様に有ります」
ふむ、選択肢が多いのはとりあえず有難い。
「そしてある程度の農業基盤はありますので、それらの農産物を買い取る形でお給料は支払う事になります」
現金収入の道も有るのか
「それは助かりますね」
「あと斎藤さんは調理の技能が結構高いと履歴書には有りますが」
「ええ、父と母が食い道楽だったのですが、凝り性なので自分達でも本格的にする人だったんで、知らぬ間に覚えてましたね。まあ我流でお恥ずかしい限りですが」
「いえいえ、それでも経験があると無しとでは大違いですから。それにこの物件は店舗も併設ですから、なお有利でしょうね」
「は、はあ?」
でも田舎で店舗併設なんて、そんなに人が来るのかな?
ふむふむと受付の女性は一通り書類を確認した後、一枚の紙を差し出してきた。それは移住申し込み用紙と書いて有る。ふむ? 移住ねえ? 大袈裟な気もするが
「ではこちらに署名捺印をお願いします」
「え、えっと、と言う事は……」
「はい、斎藤さんは合格ですね。後はサインしていただければ理想の田舎暮らしの始まりとなります」
はや! てか即決じゃないか! まあ、どうせ仕事も無いんだし、やるだけやってみるかな
「はい、じゃあ、お願いします」
俺は書類に名前を書き
「斎藤さん…」
「は、はい?」
判子を押した。
「死ぬ気で頑張って下さいね」
「はい。……へっ? 死ぬ気でって?」
そして──俺の周りは光の渦に包まれ──意識を無くした。
てか、死ぬ気でって、マジで?
「斎藤さん五番窓口へどうぞ」
「は、はい」
受付から名前を呼び出され、俺は席を立った。
「ええっと、五番は……」
俺は言われるまま、細い廊下を抜け、五番と書かれた部屋に向かう。
俺は都会でリストラにあい、あえなく再就職を断念し、人生の再起を賭けて、田舎暮らしへのIターンを申請に来ていた。思いの外同じ考え方の人が多いのか、数十人が朝から受付に溢れていた。既に一時間以上待たされて、やっと順番が回ってきた次第である。
「五番、五番…ここか」
受付には妙齢のご婦人がさも役所の役人のような笑顔で俺を待っていた。ここでいいんだな
「どうも、今日はIターンに応募頂き誠にありがとうございます」
「え、いえ、一度は田舎暮らしをしてみたかったんで、それで…」
「なるほど、失礼ですが斎藤さんは田舎暮らしの経験はございますか?」
田舎暮らし…田舎暮らしねえ
「そうですね、夏休みにお爺ちゃんの家で二週間位ならありますけど、それ位ですね」
「なるほど、なるほど、なら田舎暮らしとはいえ、仕事の経験はないのですね?」
「はあ、まあ、そうなりますかね? 野菜の収穫位なら毎日してましたけど」
「なるほど、それは素晴らしい経験をなさいましたね。ここに応募する方の中には、本の中でしか知らないのにいきなり来る方も多いんですが、その点、斎藤さんはある程度は田舎というか、農村部と言うものをご存知のようです。その点は有利ですね」
いや、本当に遊んでただけなんだけどな。取り敢えず相槌位は打っておくかな……
「さて、今回の応募では、田舎の土地建物、つまり住居兼倉庫兼工房である建物と、五百坪の畑が与えられる物件ですね。さらに都会にお店も小さいですが持てる権利も着いております」
「へえ、それは破格ですね」
よく分からんけど五百坪は凄いよね?
「Iターンですから、当然向こう五年間は無料での貸与となり、食料等の最低限の保証も受けられますから、起動に乗るまでは何とかなりますよ」
「じゃあ、食いっぱぐれは無いんですね」
「そうですね。あと、村の財産と言うか権利も有りまして、山で山菜や獣の狩りが出来たり、川での漁業権もありますから、収入を得る方法はかなり多種多様に有ります」
ふむ、選択肢が多いのはとりあえず有難い。
「そしてある程度の農業基盤はありますので、それらの農産物を買い取る形でお給料は支払う事になります」
現金収入の道も有るのか
「それは助かりますね」
「あと斎藤さんは調理の技能が結構高いと履歴書には有りますが」
「ええ、父と母が食い道楽だったのですが、凝り性なので自分達でも本格的にする人だったんで、知らぬ間に覚えてましたね。まあ我流でお恥ずかしい限りですが」
「いえいえ、それでも経験があると無しとでは大違いですから。それにこの物件は店舗も併設ですから、なお有利でしょうね」
「は、はあ?」
でも田舎で店舗併設なんて、そんなに人が来るのかな?
ふむふむと受付の女性は一通り書類を確認した後、一枚の紙を差し出してきた。それは移住申し込み用紙と書いて有る。ふむ? 移住ねえ? 大袈裟な気もするが
「ではこちらに署名捺印をお願いします」
「え、えっと、と言う事は……」
「はい、斎藤さんは合格ですね。後はサインしていただければ理想の田舎暮らしの始まりとなります」
はや! てか即決じゃないか! まあ、どうせ仕事も無いんだし、やるだけやってみるかな
「はい、じゃあ、お願いします」
俺は書類に名前を書き
「斎藤さん…」
「は、はい?」
判子を押した。
「死ぬ気で頑張って下さいね」
「はい。……へっ? 死ぬ気でって?」
そして──俺の周りは光の渦に包まれ──意識を無くした。
てか、死ぬ気でって、マジで?
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