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第10章 探索依頼 大沼沢地編
095 リザードマンは左利きらしい
しおりを挟む「さて、どうしたもんかな」
俺達四人は早朝からルフの背に乗り【大沼沢地】へと向かっていた。
その間、万が一の時に備えククリを残し強力な結界で黒い宝石/オプシディアンを封印させていた。
ククリには攻撃力は殆ど無いが防御力なら勇者に匹敵する。恐らくランクAモンスターでも傷一つ付ける事は出来無いだろう。
本来なら俺が預かっても良かったのだが、有名な指輪みたいに所有する者を惑わす力が有ったら厄介だ。
探索が終わるまではこのまま結界の中で封印するのが一番だろう。
目の前に宝石が有る様に見えるが、実際には既にククリの封印空間の中でさらに厳重に保管されている。
この様な危険な魔道具の扱いはある意味ククリの専門なので問題は無いのだが
『これ程の強力な魔道具は見た事がありませぬ。何故にこのような禍々しい魔道具を放置するのか』
とククリですら呆れる始末だ。
ただ、実際にはアルマンドさん達もどうしていいのか分からないと言うのが本当の所らしい。
実際、破壊しようにも如何しても壊せないらしいし、力の無い者が魅入られる事も珍しく無いと言う。
アルマンドさんは運良くこの黒い石を手に入れる事が出来たが、単なる幸運だったと言っていた。
(黒い石が引き寄せてる可能性も有るのか)
ククリは空間を支配して結界に封じているだけなので影響は無い様だが、こんなものをうっかり頭の悪い王族とかの手に渡ったら大変な事になりそうだ。
所有する者に凄まじい力を与えられと言われているらしいが、実際に使う訳にもいかずその本当の力は未だ謎らしい。
『マスター、間も無く着きま~す』
オシリィがそう言うので下を見ていると大きな河と沼が混在する密林の様な不思議な風景が眼下に広がっていた。
ダルシアを離れ、俺達は大沼沢地に辿り着いたのだった。
「さすが異世界、沼地もまるで人類未踏の地っぽいドデカさだ」
「この辺り一帯の水源でもあるからね」
キャシィ曰く、ダルシア平原の動物達も繁殖期には訪れる場所らしい。
ただし奥深くに踏み入ったりはしないらしいが。
何しろ水棲モンスターの一大繁殖地なのだから。
遠目から──ギリギリ平原から伺うだけでも濃密な生き物の気配が充満しているのが伝わって来る。
「報告によればリザードマンとアリゲイターの群れに襲われたらしい」
足元は草に覆われており、下がどんな状態かは分かりにくい。その所為で戦闘はかなり困難を極めた様だった。
「サモン:レイブン!」
俺は黒鴉を呼び出し高空より監視態勢に入らせた。
そして恒例のオシリィコシリィ軍団を放つ。
リザードマンもさる事ながら、やはり、危険なのはサーペントと言われる竜の亜種、アリゲイタのと呼ばれるリザードの亜種、それと水棲のカバやサイの仲間だろうか?
前衛にオシリィコシリィ軍団、フェンリル、俺はの背後にキャシィとシルビアを付けガーゴイルにガードさせ最後尾にエレン、そしてグリフォンを警戒に当たらせる布陣で臨む事にした。
ソロモン王とソーディアンはお休みだ。
因みにケルティはダルシア周辺の諜報活動に当たらせている。
ありとあらゆる動物と植物のネットワークを利用して情報を集める彼女なら奴等の尻尾を抑える可能性は高い。
「さて、では行くぞ!」
俺達は大沼沢地に浸入した。
◇
大沼沢地に入って一時間、俺達は最奥にあると言う玉石へと向かっていた。
この大沼沢地に豊富な水を供給する湧水の一つである玉石は巨大な丸い巨石が湧水の枠泉にまるで栓をするかのように水の出口を抑えているのだが、その所為でボコンボコンと玉のような泡が出る所からも由来されているらしい。
凄く観光地っぽいネーミングだな。
ただ、かなり危険なエリアであり、人食い魚の群れや水棲昆虫など多彩な生態系が恐れられているのは間違い無い。
ただ希少種の宝庫でもあり狩りをメインとした冒険者のメッカでもある。
そして地上だけなので罠などが無くある意味攻略し易いエリアなのは間違い無い。
その代わりモンスターは強いが。
『反応有り!リザードマンの群れです~』
リザードは乾燥した場所を好むがなぜがリザードマンは水場を好む傾向がある。
実に不思議だ。
このエリアのリザードマンは何故か左利きが多い。
これも実に不思議だが実際にそうなんだから仕方ないよね。
そして送られてきた映像からも左利きでラウンドシールドを持ち短槍をもったリザードマンの群れが十匹程の集団を形成しているのが見えた。
「周辺にはモンスター は無しか」
『リザードマンは時に百匹を超える集団を形成します~斥候かも知れませんね~』
それにしてもこの辺の獣人は武装度が高い。
ほぼ何らかのマジックアイテムを持ってるのは何でだ?
当然こいつらも怪しい。
「ふむ、てっきりあのローブの奴等が現れて襲い掛かってくるのかと思いきや完全スルーか」
『まだ分かりませんがいまのところ何の反応も有りませんね~』
俺としては探索と言うより囮になって敵を釣り出したかったのだが、そう簡単には誘いに乗ってこないようだ。
「どちらかと言えば手が出せないのかも知れませんね」
エレンはそう言った。
殺る気満々だな。
余程腕を吹き飛ばされたのがお気に召さない様だ。
元々怖いけどなお怖い。
殺気がだだ漏れしてますよ。
だがこのまま待つのも味気ない話だ。
「さーちあんどですとろい」
「なんだいそれ?」
「聞いた事有りませんね」
「炙り出してやるのさ」
俺達はリザードマンに襲い掛かることを選択した。
◇
俺達はオシリィコシリィ軍団を放ち、周辺を警戒しながら、水場に集まっているリザードマンの群れに迫っていた。
木陰からそっと身を隠し群れを伺う。
「グァ!」
「グァッグァッ!」
うむ、何を言ってるのか全然ん分からない。
リザード語難しいわ。
本当に何か言葉を喋ってるのかは疑問だが。
だが良い魔石が取れそうだ。
リザードマンは水陸両用らしいし、鱗のお陰で防御力も高く、大変有望な前衛職になりそうである。
『シルビア、先ずはサンダーストームを、キャシィは撃てるだけ矢を放て、その直後にガーゴイルを先頭に俺とフェンリルが突っ込むから、取り零しをキャシィが始末しろ』
『分かった』
『はい、続けて魔法を放ちます』
キャシィとシルビアにPASを繋ぎ、後方警戒をエレンに任せる。
俺はドラッケンをZuWatchから引き出し
『シルビア、殺れ』
次の瞬間、湿原を閃光が包む。
相変わらず出が早い。
リザードマンの群れを雷撃の範囲攻撃魔法が直撃した。
スタン効果を併せ持つ雷撃系範囲攻撃魔法は、この様に寡兵で大きな群れを狙う時に大変役に立つ。
そしてキャシィの短弓がリザードマン達を貫いて行く。
厚いく硬い皮膚が売りのリザードマンだが数十メートルから放たれるキャシィの矢は易々と貫いた。
長弓と違い懐に飛び込む勇気を試される短弓では有るが、キャシィにはその資質が十分過ぎる程ある様だ。
シルビアとの雷撃系範囲攻撃とのコンボは凶悪なまでの効果を発揮した。
敵で無くて良かったとつくづく思う。
しかし、リザードマンも反撃に出た。
全てのリザードマンにスタン効果が働いた訳では無いのだ。当然レジストする奴等も存在する。だからこそ迂闊に弓兵が飛び出す事は出来ない。
「遅いな!」
そこへ俺とガーゴイルが飛び出す。
「喰らえっ!」
圧縮拡散泡弾を放ち牽制を掛け、ドラッケンを一閃した。
その刃は荒地の岩山で多くのリザードの血を吸いその呪われた同属殺しの呪力を吐き出し、リザードマン達を屠っていく。
まるで熱したナイフがバターを溶かす様にその硬いはずの皮膚を切断して行くのだ。骨すらも何の抵抗も無く斬り捨てるその呪い。
(まるで試し斬りでもしてるみたいだ)
そう、この大沼沢地は荒地の岩山程では無いが対竜効果が影響を及ぼすモンスターがかなりの数を占める──俺にとっての狩場なのだ。
盾役となったガーゴイルがリザードマンの突進を止めたその背後から、キャシィの矢が残ったリザードマンを次々に屠っていく。
数分後には全てのリザードマンが動かぬ肉塊に変わっていた。
キャシィは嬉々として矢を放ち続けていたが、さすがに混戦になると魔法が連射出来ない──と言うかそこまで連射出来る事の方が驚きなのだが、シルビアは物足りない様である。
「キャシィ、この距離な必殺だな」
「! ま、まあね、盾役にガーゴイルも居るし、本来なら離れた所から距離を取りつつってのが基本だけど、ゆ、ゆう帝も居るから安心して飛び出せるんだよね」
キャシィが顔を真っ赤にして応える。
ふむ、どうやら興奮気味なのはこのバビロニア製人造人間のあざとい迄の美少年っぷりが原因の様だな。
ふふふ、中身がおっさんとも知らずに──言っても信じないだろうけど──ご執心らしい。
「シルビア、範囲攻撃を放った後を検討しようか。なるべく瞬殺しないとリンクが発生して囲まれると流石に厄介だからな。でも雷撃の追加効果は侮れないから、基本的にリザードマン位のモンスターには連発する事になると思ってくれ」
「わ、分かりました。ゆう帝には育成の相談に乗って貰いたいです」
シルビアも顔が真っ赤に
やだ、もう初々しい!
何故だろうか
ダルシアの危機が全く気にならないや。
セシルさんさえ回収出来たら上手いこと理由を付けて逃げても悔いは無い。
ギルマスとサブマスが怖いけど。
キャシィとシルビア、助けた事は神の配剤だったな。
ありがとう、無理矢理転生させた事は赦してやってもいいよ。
誰かに好意を向けられる事の愉悦
どっかのラブコメみたいにすれ違いなんてさせないから!
フラグは全回収が基本! これ基本だから!
俺は足元のリザードマンをアイテムボックスに収納しながら異世界リア充生活を堪能する事を誓う。
「……ゆう帝」
「は、はひっ! ど、どうしたエレン!」
神の使徒エレンの許す範囲──にはなるだろうが。
また背後を取られた。
エレンには俺を屠る為の機能が満載されてそうで地味に怖い。
メイド服を着た孫悟空の頭の金の輪っか──の様な気がする。
「さ、さあ、次へ、玉石へ行こうか!」
俺達は大沼沢地の奥へと向かった。
「ゆう帝、今のリザードマンは恐らく全部希少種でした」
「マジか!全然気が付かなかったぞ!」
エレン、それはもう少し早く言ってくれ。
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