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第7章 冒険者の日々是々
067 冒険者の準備
しおりを挟む俺の身売りが決まった翌日──いや決めては無いけどそんな話があって前向きに検討しているだけなんだけども、俺達は早朝から動き出していた。
朝飯は黒パンに昨日のスチューの残り、ハムエッグとピクルスの様な野菜がドンッと並んだ。そして地球のチャイに良く似たチャイと呼ばれる飲み物。てか、それもうチャイでいいよね。不思議な類似性が気になるが。
昨日の俺が身売りする件は取り敢えず強硬にキャシィとシルビアが反対していたが、エレンが何かを囁くと不満顔でブツブツ言いながらも何も言わなくなった。
てか何を言ったんだよ。
俺にも教えろっての。
当然ただ売られる訳では無いらしい。どうも異世界には俺達の知ら無い性文化が存在しているようだ。まあ、ある意味それは当然だけど、変な奴に買われるなんて御免被る! 買われると言う表現は少しニュアンスが違うとだけは教えて貰った。どちらかと言えば優先権に近いらしいし、かなりの主導権を保持したままの契約に近いものらしいが。
さらに俺の場合は破格の待遇らしくてもっと違う入り込み方になるそうだが、とても今の俺には想像がつかない。ただ、覚えめでたくなるのはのちに優位になりそうな気がするので取り敢えず受けてみればとエレンは軽く言った。何か聞いてる可能性もあるが、俺には詳しく説明するつもりは無いようだ。
ただ、身売りするにしても直ぐにとはいかないらしい。どうやらそれはドナテラ達との約束や、アルマンドさんの抱える密約とも関わっているようだった。
そして出されたリクエストは「もっと目立ってくれ」と言うものだった。
(俺の値段を吊り上げるつもりか)
そして時期を見て王都に向かうと言う。
王都か。
しかもドナテラとソフィアにも関わる秘密とは何だ?
俺に全てを明かさないのは精神感応系のスキル持ちを躱す為のものらしい。よって驚いた事にその詳細をアルマンドさんすら知らないのだ。それを知るのは精神感応系スキルに対抗するスキル持ち、スキルジャマーと呼ばれる者だけだと言う。
どうやらこの世界、ドーンッと空から究極時空魔法メテオを落として一掃するって訳にはいかないらしい。付け加えられたのはどうやら俺はこの世界に於いて最高の素体らしいと言う事だ。それは見る者が見れば一目で分かるらしい。
ドナテラから授かった聖骸布が無ければもっと酷い事になっていたかも知れ無いな。
朝食を終え、俺達はキャシィとシルビアに連れられギルドに向かう事にした。それはリクエストにもあった目立つ活躍をする為でもあるし、俺が何よりも冒険者としてやっていく為の基礎を学ぶ為でもある。
何しろ俺とエレンは素人だ。
俺のパワーアップも不可欠だしな。その為には依頼を受けて彼方此方動き回るのが一番だと判断したからでもある。と言うか、どうやらこの世界には美味い物が溢れているらしいじゃ無いか。ただ、結構希少品も多いから、それなら自分で狩ろうと言う訳だ。金があっても品は無いのが異世界ってものらしい。ネットで直ぐに買えるもんじゃ無いんだよな。
セシルに見送られ、早朝の街をギルドに向かった。
街には朝から多くの人が忙しそうに動き回っている。中には冒険者も多く見受けられるが、チラリと此方を見るが特に何もリアクションを起こすつもりは無いようだ。ただ、遠巻きにしている感じなんだよね。
(十分気になるけどな)
ザワザワとした人混みを掻き分けるように進むと、五分程でギルドに着いた。やはりアルマンド商会の立地はかなり良いな。密命を帯びてるくせにやけに目立ってるけど、それも油断させる手なのだろうと想像出来る。
「じゃあ、予定どおり採集と討伐依頼で良いのかい?」
キャシィに言われ頷く。
「そう、先ずはこのダルシア近くの平原から森までのエリアで試してみよう」
四人でギルドの扉を開けると案の定シーンと静まり返ってしまった。
注目度は最高潮だね。
だが昨日見たランクCの二人が見当たらない。
『この周辺に居ません~』
ふむ、既に依頼に向かったって事か。
室内には数十人が俺達に鋭い視線を送ってくるが、決して近寄ろうとはしない。何の依頼を受けるのかが気になっているようではあるが。
壁一面の依頼書をキャシィとシルビアがジッと見ている。ランクは低くても構わないと言っておいたから、効率を吟味しているのだろう。
因みに平原ではそれほど強い魔獣は出ないらしいが、やはり街道から外れるとある程度の距離があると遭遇率は跳ね上がるそうだ。そして森の中はさらに危険だと言う。熟練の冒険者でも時に危険な目に合うらしいから油断は出来無い。危険と隣り合わせなのが冒険者なのだろうな。
「こんなとこかな」
キャシィとシルビアが選んだのは討伐がグレイウルフ、採集がヒールポーションの原料になる草などが記されいる紙を持って来た。
「グレイウルフは肉はあまり食べ無いけど毛皮が素材として売れるんだ。それとヒールポーションは何時でも安定して売れるから絶えず依頼が出ているんだよ。そして二つとも草原での活動になる」
この二つは低ランク、それも初めて受ける入門編の位置付けらしい。しかもこの二つは常時受け付けているので、最初に何日分も受け付けていくそうだ。何かあった時の為には皆が終わる度に報告と買い取りにギルドに戻るが、慣れてくると何日も泊まりがけでするらしい。
うん、丁度いいんじゃ無いかね?
目で合図を送り、俺とエレンはここを二人に任せ、ギルドの外に出た。昨日揉めた所為でさらなる揉め事を呼び起こさぬ様に先に門の所まで向かうフリをしたのだ。
そしてそっとオシリィを放つ。
『お任せあれ~』
ちょっかいを掛けて来る馬鹿を炙り出してやる。
俺とエレンはギルドの外に出てそのままスタスタと門へと向かった。さて、誰か動くかな。
「おいっ」
「はいっ!?」
目の前にはCランクの冒険者達が率いる二チームがお待ちかねだった。
狙ってたのか?
「ゼイラムにスグワルドだったっけ? 確かランクCなんだよな」
「……随分と呑気な奴だな」
ゼイラムがそう言ってギロリと此方を睨む。
さすがにCランクの実力か、トロールなんぞより余程手強そうだな。
「ああ、特に気を付ける必要を感じ無いからね」
その言葉にその場にいる二チームの奴等が殺気を込めた視線を飛ばして来た。
「気を付けろよ、この国ではこの二週間で行方不明になったパーティが七つもあるんだ。お前、自分の置かれた立場を分かってるのか!」
「悪いが、つい最近もひと暴れして来たが特に不都合は無かったからな。荒れついでに一稼ぎさせて貰うさ」
「ゆう帝!」
その時後ろからキャシィとシルビアが駆け寄って来る。
「……何かありましたか」
シルビアの表情が硬い。
「ゼイラム、スグワルド、何のようだい? あの事ならギルマスから説明が受けられる筈だ。何かあるなら筋は通してくれないかな」
「キャシィ、シルビア、お前ら本気でそいつらとつるむつもりか」
「あんたたちには関係無いよね。さあ、どいてくれないか、これから依頼をこなしに行くんだ」
激しい視線の交錯が数分──いやもっと長く続いた。周辺では昨日の乱闘を目の当たりにしていた一般民がザワザワと遠巻きにしながら慌て初めている。
慌てて衛兵でも呼ばれたら厄介だ。
だがやるなら──
「俺達はお前らを認めてはいない。その事を忘れるなよ」
「……」
「……」
「……」
そう一言だけ言い残し、ゼイラムとスグワルドは足早に立ち去って行った。周囲にはさらに人集りが増えている。どうやらそれを恐れているようだ。
面倒事は御免被るって事だろう。
どうやらキナ臭い冒険者ライフのスタートになった様だ。
俺は立ち去る奴等をジッと見送り、さらなる悪い展開の予感を感じていた。
「……荒れそうだな」
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