上 下
67 / 205
第7章 冒険者の日々是々

067 冒険者の準備

しおりを挟む


 俺の身売りが決まった翌日──いや決めては無いけどそんな話があって前向きに検討しているだけなんだけども、俺達は早朝から動き出していた。
 朝飯は黒パンに昨日のスチューの残り、ハムエッグとピクルスの様な野菜がドンッと並んだ。そして地球のチャイに良く似たチャイと呼ばれる飲み物。てか、それもうチャイでいいよね。不思議な類似性が気になるが。

 昨日の俺が身売りする件は取り敢えず強硬にキャシィとシルビアが反対していたが、エレンが何かを囁くと不満顔でブツブツ言いながらも何も言わなくなった。
 てか何を言ったんだよ。
 俺にも教えろっての。
 当然ただ売られる訳では無いらしい。どうも異世界には俺達の知ら無い性文化が存在しているようだ。まあ、ある意味それは当然だけど、変な奴に買われるなんて御免被る! 買われると言う表現は少しニュアンスが違うとだけは教えて貰った。どちらかと言えば優先権に近いらしいし、かなりの主導権を保持したままの契約に近いものらしいが。
 さらに俺の場合は破格の待遇らしくてもっと違う入り込み方になるそうだが、とても今の俺には想像がつかない。ただ、覚えめでたくなるのはのちに優位になりそうな気がするので取り敢えず受けてみればとエレンは軽く言った。何か聞いてる可能性もあるが、俺には詳しく説明するつもりは無いようだ。
 ただ、身売りするにしても直ぐにとはいかないらしい。どうやらそれはドナテラ達との約束や、アルマンドさんの抱える密約とも関わっているようだった。
 そして出されたリクエストは「もっと目立ってくれ」と言うものだった。

(俺の値段を吊り上げるつもりか)

 そして時期を見て王都に向かうと言う。
 王都か。
 しかもドナテラとソフィアにも関わる秘密とは何だ?
 俺に全てを明かさないのは精神感応系のスキル持ちを躱す為のものらしい。よって驚いた事にその詳細をアルマンドさんすら知らないのだ。それを知るのは精神感応系スキルに対抗するスキル持ち、スキルジャマーと呼ばれる者だけだと言う。
 どうやらこの世界、ドーンッと空から究極時空魔法メテオを落として一掃するって訳にはいかないらしい。付け加えられたのはどうやら俺はこの世界に於いて最高の素体らしいと言う事だ。それは見る者が見れば一目で分かるらしい。
 ドナテラから授かった聖骸布が無ければもっと酷い事になっていたかも知れ無いな。

 朝食を終え、俺達はキャシィとシルビアに連れられギルドに向かう事にした。それはリクエストにもあった目立つ活躍をする為でもあるし、俺が何よりも冒険者としてやっていく為の基礎を学ぶ為でもある。
 何しろ俺とエレンは素人だ。
 俺のパワーアップも不可欠だしな。その為には依頼を受けて彼方此方動き回るのが一番だと判断したからでもある。と言うか、どうやらこの世界には美味い物が溢れているらしいじゃ無いか。ただ、結構希少品も多いから、それなら自分で狩ろうと言う訳だ。金があっても品は無いのが異世界ってものらしい。ネットで直ぐに買えるもんじゃ無いんだよな。

 セシルに見送られ、早朝の街をギルドに向かった。
 街には朝から多くの人が忙しそうに動き回っている。中には冒険者も多く見受けられるが、チラリと此方を見るが特に何もリアクションを起こすつもりは無いようだ。ただ、遠巻きにしている感じなんだよね。

(十分気になるけどな)

 ザワザワとした人混みを掻き分けるように進むと、五分程でギルドに着いた。やはりアルマンド商会の立地はかなり良いな。密命を帯びてるくせにやけに目立ってるけど、それも油断させる手なのだろうと想像出来る。

「じゃあ、予定どおり採集と討伐依頼で良いのかい?」

 キャシィに言われ頷く。

「そう、先ずはこのダルシア近くの平原から森までのエリアで試してみよう」

 四人でギルドの扉を開けると案の定シーンと静まり返ってしまった。
 注目度は最高潮だね。
 だが昨日見たランクCの二人が見当たらない。

『この周辺に居ません~』

 ふむ、既に依頼に向かったって事か。
 室内には数十人が俺達に鋭い視線を送ってくるが、決して近寄ろうとはしない。何の依頼を受けるのかが気になっているようではあるが。

 壁一面の依頼書をキャシィとシルビアがジッと見ている。ランクは低くても構わないと言っておいたから、効率を吟味しているのだろう。
 因みに平原ではそれほど強い魔獣は出ないらしいが、やはり街道から外れるとある程度の距離があると遭遇率は跳ね上がるそうだ。そして森の中はさらに危険だと言う。熟練の冒険者でも時に危険な目に合うらしいから油断は出来無い。危険と隣り合わせなのが冒険者なのだろうな。

「こんなとこかな」

 キャシィとシルビアが選んだのは討伐がグレイウルフ、採集がヒールポーションの原料になる草などが記されいる紙を持って来た。

「グレイウルフは肉はあまり食べ無いけど毛皮が素材として売れるんだ。それとヒールポーションは何時でも安定して売れるから絶えず依頼が出ているんだよ。そして二つとも草原での活動になる」

 この二つは低ランク、それも初めて受ける入門編の位置付けらしい。しかもこの二つは常時受け付けているので、最初に何日分も受け付けていくそうだ。何かあった時の為には皆が終わる度に報告と買い取りにギルドに戻るが、慣れてくると何日も泊まりがけでするらしい。

 うん、丁度いいんじゃ無いかね?
 目で合図を送り、俺とエレンはここを二人に任せ、ギルドの外に出た。昨日揉めた所為でさらなる揉め事を呼び起こさぬ様に先に門の所まで向かうフリをしたのだ。
 そしてそっとオシリィを放つ。
『お任せあれ~』
 ちょっかいを掛けて来る馬鹿を炙り出してやる。
 俺とエレンはギルドの外に出てそのままスタスタと門へと向かった。さて、誰か動くかな。

「おいっ」
「はいっ!?」

 目の前にはCランクの冒険者達が率いる二チームがお待ちかねだった。
 狙ってたのか?

「ゼイラムにスグワルドだったっけ? 確かランクCなんだよな」

「……随分と呑気な奴だな」

 ゼイラムがそう言ってギロリと此方を睨む。
 さすがにCランクの実力か、トロールなんぞより余程手強そうだな。

「ああ、特に気を付ける必要を感じ無いからね」

 その言葉にその場にいる二チームの奴等が殺気を込めた視線を飛ばして来た。

「気を付けろよ、この国ではこの二週間で行方不明になったパーティが七つもあるんだ。お前、自分の置かれた立場を分かってるのか!」

「悪いが、つい最近もひと暴れして来たが特に不都合は無かったからな。荒れついでに一稼ぎさせて貰うさ」

「ゆう帝!」

 その時後ろからキャシィとシルビアが駆け寄って来る。

「……何かありましたか」

 シルビアの表情が硬い。

「ゼイラム、スグワルド、何のようだい? あの事ならギルマスから説明が受けられる筈だ。何かあるなら筋は通してくれないかな」

「キャシィ、シルビア、お前ら本気でそいつらとつるむつもりか」

「あんたたちには関係無いよね。さあ、どいてくれないか、これから依頼をこなしに行くんだ」

 激しい視線の交錯が数分──いやもっと長く続いた。周辺では昨日の乱闘を目の当たりにしていた一般民がザワザワと遠巻きにしながら慌て初めている。
 慌てて衛兵でも呼ばれたら厄介だ。
 だがやるなら──

「俺達はお前らを認めてはいない。その事を忘れるなよ」

「……」
「……」
「……」

 そう一言だけ言い残し、ゼイラムとスグワルドは足早に立ち去って行った。周囲にはさらに人集りが増えている。どうやらそれを恐れているようだ。
 面倒事は御免被るって事だろう。
 どうやらキナ臭い冒険者ライフのスタートになった様だ。
 俺は立ち去る奴等をジッと見送り、さらなる悪い展開の予感を感じていた。

「……荒れそうだな」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

雨の世界の終わりまで

七つ目の子
ファンタジー
第一部  魔王が滅びて約100年。人々は魔王の残した呪いに悩まされていた。 不死の呪いにして必死の呪い。そんな呪いに罹った青年レインは残された最後の5年間旅をする。  魔物溢れる悪意に満ちた世界。 そんな世界で出会ったサニィという少女と共に何かを残す為、鬼と呼ばれた村の青年は進む。           《Heartful/Hurtful》  世界を巡る青年と少女のハートフル冒険譚。 ―――――――――――――――――――――――― 第二部  二人の英雄が世界を救って4年。 魔物の脅威は未だなくならず、凶暴化している。その日も、とある村が魔物の襲撃に晒され、戦士達は死を覚悟していた。 そこに現れたのは、一人の武器にまみれた少女だった。  鬼の二人の弟子、心を読む少女と無双の王女の英雄譚。 第二部完結! 第三部ほぼ毎日不定時更新中! 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しております。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...