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第5章 街道を行く

055 夜戦

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「……三人か」

 残るは三方向から
 本命はこいつらの対角
 そこに最大戦力である奴等がいる可能性が高い。

 俺は男達の前に歩み出ると、刀を抜く。

「……てめえ、三対一だぞ、わかってんのかよ」

 戦士二人に盗賊風の奴が一人、ランクはEか?
 
「よく喋る。それよりもこんな夜更けに何の用かな」

「丁度良い! 身体に教えてやるよ!」

 そう言うと抜刀して襲い掛かって来た。
 はい確定!

「では相手をさせて貰おうか」
「なめるな!」

 男達は手に手に獲物を握り締め目が血走ってる。
 やれやれ、振りかぶられたロングソードは間合いが悪い。咄嗟に半歩下がりそのまま手首を一閃! 峰打ちで両手を圧し折り怯んだ隙に前蹴りで仲間に吹き飛ばす。
「ぐああっ! て、手があっ!」
 心配するな、ちゃんと折れてるから。
 どうやら武神の加護の所為か刀が滑らかに繰り出せる。刀術3くらいは付いてそうだな。それと侍のスキルの影響か間合いがよく見切れる。これも加護だろう。
「よくもっ!」
 仲間をぶち当てられた奴の背後から盗賊らしい奴が奇襲攻撃/サプライズアタックを仕掛けて来たが、当たれば倍付けダメージだけど余りに見え見え過ぎる。サイドステップで躱しショートソードを持つ手を叩き折る。
 鈍い骨の砕ける音が夜の森に響く。

「やりやがったな!」
 怒りに我を忘れ、倒れた男が仲間を投げ出し襲い掛かって来た。獲物は斧か。体格倍付け中々、一撃狙いのパワーファイターだろうが遅い。
 刀を合わせず体を躱し、すれ違い様に後頭部に峰打ちを加える。
 ドスッと言う鈍い音が響き、そのまま崩れ落ちた。

「……ランクEならこんなものか」

 三人を一瞬で無力化し、俺は次の獲物を探し移動する。
 おっといけない。

「レイヴン、見張りを頼む」

 そう言うと闇の中から鴉が現れ「クアッ!」と鳴いた。

「お前ら、この鴉には攻撃スキルがあるから、逃げたら死ぬぞ?」
 一応警告はしておいたけど聞こえて無さそうだな。
 まあ、俺達を嬲りものにしようとしてたんだ、そこは死んでも気にならない。それに殺さなかったのは温情では無い。犯罪奴隷として売るためだ。どうせこいつらは金なんて持ってないだろうしな。せめて資金になって貰おう。
 俺は奴等が落とした武器をアイテムボックスに回収する。

 さあ、次だ。


 ◇


 闇の中を移動し次の奴等に迫る。

「……四人か」

 此処にはソーディアンが潜んでいる筈だ。
 足止めさせるか。
 俺はPASSを繋ぎ、移動する奴等の背後に付き、奇襲を掛けさせた。

「トマレッ!」
「な、なんだてめぇ」
「騎士が何でこんな森の中に!」

 突然森の中で全身鎧に身を包んだ奴が現れたのに驚いたのかピタリと足を止めてくれた。
 移動力を盾に逃げるか躱す事も出来る筈だが、何故に足を止めるのか理解出来無い。移動力はそこそこあるんだと思うんだけどな~

 大剣を振りかざしての見え見えの足止めに快く掛かってくれた。
 ドスッ
 俺は最後尾の一人に後頭部へ刀ではなく掌底打を叩き込む。拳はどう考えても陥没骨折させそうなんだよ。死んだら売れんしな。
 崩れ落ちる男
「お、おい!どうし…だ、だれ──」
 叫ぶ直前に前蹴りで鳩尾に一撃を加えさらに顔面に膝蹴りを放つ。ゴキッと言う音がして力無く倒れた。死んで無いよな。慌てて剣を振りかぶる隣の男に刀を一閃、両手首を圧し折ると「ぐううっ」と呻き声を上げ剣を落とした。
 止めに膝蹴りを入れ沈黙させる。骨の軋む音がしたが、きっと丈夫そうだから大丈夫だろう。

「てめえ!どこからわいてでやがった!」

 最後の一人が猛然と襲い掛かって来た。俺は咄嗟に拾い上げた剣を横薙ぎにして受けさせる。ギンッと言う金属音が響く。ふむ、まあまあの腕か? 素人同然の俺も刀術3のお陰で何となく相手の力量が分かるんだよ。ランクはDくらいだとみた。でも受けちゃダメだろ?
 男の背後からソーディアンの大剣が叩き込まれる。因みに両刃なので横をぶち当てられられ、五メートルほど飛んでいった。まあ、死んで無いだろ? 運が良ければ。

「見張りを頼む。抵抗するなら始末しろ」

「ワカリマシタ」

 ソーディアンにこの場を任せ、俺は車懸かり次の獲物を狙う。
 そろそろニックとご対面出来そうだ。


 ◇


「おかしい…合図がこねえ」

 草むらの中で、ニックはその刻を待っていた。
 打ち合わせた時間はとうに過ぎている。

 五人、今回の襲撃の主役であるニックのパーティは今か今かとやきもきとしていた。
 ここは街道であり人の往来も多い。しかもダルシアまてまは一日か遅くても二日で着く、まさに目と鼻の先だ。見つかれば逃げ果せる事は困難だろう。
 なるたけ夜の闇に紛れる必要がある。だからこそこの集団を率いるニックは焦っていた。
 捕まれば殺されて当然、良くて犯罪奴隷なのは確実なのだ。それでもそれに見合う報酬があるとふんでの凶行だったのだが、それなりに手練れの冒険者を集めて来た筈なのだが、打ち合わせた刻限を過ぎても何も起こらない事に苛立ちを募らせていた。

「あの女男、それにキャシィにシルビアに目にもの見せてやるぜ」

 その目はギラギラと欲望と怒りに支配されていた。
 そして手にした報酬での贅沢三昧に夢想していたのだが、今回は相手の力量を完全に見誤っている事に気が付かず、それを仲間も諌めなかったのだ。その愚かな行為の報いを間も無く受ける事になろうとは想像も出来なかったに違いない。

 そこへ
 死神の様な黒いローブを纏った者が背後から現れる。
 二つのグループを沈黙させ、その者は闇の中を忍び寄っていた。
 スプリガンローブをその身に纏い現れた者は一人では無かった。白銀の大狼を引き連れて現れた者はこう言った。

「待たせたな」
「!!! な、なにっ!」

 奇襲をかけるべく息を潜めていたところに突然現れた者にニックは度肝を抜かれた。
 この中には探知スキルや追跡スキルを持つ者もいる。狩猟を主に生業とするニック達にとってそれは驚愕するべき事態だった。
 自分達が遅れをとるなどどは、露にも思わぬ出来事に

「てめえ、何者だ」

 ニックは焦った。
 だがそれをおくびにも出さないのはさすがに経験を積んだ冒険者だという事なのだろう。
 だが、それは間も無く後悔へと変わる事になる。

「俺はただの素人さ。ただ、普通の素人じゃ無い」

 そして背後に現れた銀狼に、圧倒され、言葉を無くしていた。

 夜の闇に紛れた攻防は、ここに来て観客の目を惹き付ける事になる。ニック達は夜営地から街道を挟んだ森の中に居た。そこに現れたゆう帝と対峙しており、それをエレンは当然察知している。
 アルマンド達も態勢を整え襲撃に備えている。ここでニックに自らを襲わせるべく、その姿を無防備に晒し、その凶行の目撃者とするべく図ったのだ。

「さあ、俺に用があるなら聞いてやるぞ」

 そう言ってゆう帝は妖しく笑った。
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