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第5章 街道を行く

052 旅の空

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 ホロの村を立ち数刻、俺達は街道を一路ダルシアに向かって移動していた。
 荷物を満載しているので、その歩みはかなり遅く、到着は明後日の夕方の予定らしい。それでも初めての馬車の旅はそれなりに快適だった。荷馬車に揺られ森の間を抜ける街道をゆっくりと旅していると、異世界と言うよりどこかヨーロッパの田舎でも旅行に来ているようだった。
 時折オシリィコシリィ軍団の探知網(と言っても数百メートルだが)にワイルドドッグが引っ掛かったり、魔石レイブンが大シカを見つけたりするが、流石に商隊をおいて狩にも行けず、俺達は最後尾の馬車で休息を取っていた。
 長閑だ。
 スキルの習得でもしようかと思ったが、身体にどんな変化が起こるのか分からない。ここは諦めてダルシアで本拠地でも構えてからじっくりやるのが一番か。

 暇なのでキャシィとシルビアからダルシアの事を聞いてみると、人口は二万人位で、辺境としては最大級らしい。王都で十万人位らしいが、地球で言うところの市位の規模なのかな。近くにも狩場(と言っても十キロ位は離れているらしいが)や豊かな森、そして迷宮も様々なレベルの物が点在しており、この国でも有数の冒険者の聖地みたいな所らしい。
 そして国境に近い所為もあり、辺境伯と呼ばれる領主もかなりの武闘派で抜け目の無い遣り手だとか。
 だから冒険者も割と癖のある奴等が集まって来るそうだ。
 キャシィとシルビアはそこに定宿を構え、二人で冒険者稼業で生計を立てていたらしい。主に狩りと採集、そして、探知や罠に関するスキルで臨時に他のパーティに加わり、金を稼いでいたそうだ。夜の伽も込みで。
 その伽だが、どうやら最初に世話になったパーティのメンバーに居た三人、ジャムル以外にもいたそうだが、その縁で解散して立ち上げられた三つのパーティとの出来事だったらしい。流石に誰でもと言うわけでは無かったのか。少し安心した。その辺のメンタリティは俺には分かりにくいけど。
 あまりある事では無いが無い訳では無い──その程度の出来事なのだろう。ただ、二人は目立ち過ぎたんだろうな。美女と美少女の二人組の冒険者なんて奇跡的な存在なんではなかろうか。
 二人に言わせると美少女同然の美少年冒険者である俺も似たようなものらしいけど。
 本当、どうなる事やら。
 俺達が話し込んでいる間、エレンは荷馬車の上の更に荷物の上に腰を据え、周囲の監視に付いていた。バトルメイドの本分は俺には想像も付かないが、ある程度の感知スキルはある様だ。なんか目を瞑って周囲を伺ってるんだよな。昼寝かもしれないけど。

 数刻後
 俺達は街道に備えられている休憩所の様な所に馬車を停め、昼飯になった。休憩所と言っても建物がある訳では無く、街道から少し入り通行の妨げになら無い程度の広場があるだけだが、煮炊きしたり身を躱せる岩などが配置してあり、キャンプするのには便利そうだ。
 アイテムボックスから今朝買った料理を出そうかと思ったが、ここは郷に入っては郷に従えということで、配給の昼飯を頂く事にした。
 昼は簡単に済ますのが普通らしく、渡されたのは保存の効くショートブレッド、干し肉、それとドライフルーツで、エールが水代わりに提供された。やはり水は飲まないんだな。あと暖かいスープでも付けばご馳走らしい。けど今日は無しだった。
(硬いな)
 バビロニア製の身体なら別に問題無いが、年をとって歯が弱ったら食べるのは困難だろうな。味は悪く無い。てか、やはり濃いい。肉も完全にカラカラに乾燥している訳でも無いし、何より旨味が濃縮されてる感じだな。やはり素材なのだろうか?
 因みに家畜も当然買われていて、牛、豚、鶏が多いと言う。でも牛は牛乳、鶏は卵が目的で、一番食べるのがやはり豚だった。だが、寒村、つまり人里離れた山奥などでは、羊とか山羊がメインらしい。羊肉が取れ羊乳がとれ羊毛が取れる便利な家畜として重宝されているそうだ。つまりジンギスカンって事か?
 地球にある大量飼育はまだ現実的では無いのだろう。因みに馬は殆ど食べ無いそうだ。馬刺しや桜鍋は無いんだな。てか鍋料理がないか。米も食べたい所だが、今の所この世界もかなり地球と共通したところが多いからまだ入手する可能性はある。てか必ず手に入れる。あと味噌と醤油なんかも欲しいし、昆布とかもあればな~~。

 四人で昼飯を食べていると、アルマンドさんがやって来た。何やらニコニコと笑っているがさすが商人、抜け目が無さそうな気配だ。

「やあ、ゆう帝、食事はお済みかな」

 そう言ってアルマンドさんは暖かい飲み物を持って来てくれた。雪こそ降って無いが肌寒いのでありがたい。
 俺達の中にドカリと腰を据え、皆に、チャイの様な飲み物を分けてくれた。
「これはチャイですね」
「そのまんまかよ!」
 そうか、チャイに似てるとは思ったけど本当にチャイだったのね。紅茶と牛乳を合わせた甘い飲み物だが、砂糖は高級品なので蜂蜜みたいなもので代用しているらしい。でもこの世界には甘い物は高級品だから贅沢な気分だな。地球が異常なのかもしれ無いけど。
 後で聞いた話によると、冒険者はこの提供されるチャイの質で雇い主の懐具合や金離れの良さを探るらしい。そして、見込みがあると判断したら長期的な関係を結ぼうと持ち掛けるそうだ。さすが異世界、侮れ無いな。
 因みにこの護衛任務は冒険者の五つの収入源の一つらしい。
 護衛、狩猟、討伐、探索、採集の何れかに特化するのが一般的で、それによりパーティの編成も大きく変わると言う。
 キャシィとシルビアは多才だったので採集と狩猟、そして探索の補助で稼いでいたらしいが、それはキャシィの盗賊スキルとシルビアの魔道士スキルがハイレベルだからこそで、さらに基礎能力の高さがあってこその特別な事の様だ。
 やるな二人とも。

「皆さんは臨時のパーティとお聞きしましたが、ダルシアに着かれたらどうなさるおつもりですかな」

「冒険者と商業ギルドに登録する事は決めていますが、後はまだ……何せこの世界の事はあまり詳しくありませんので」

「なるほど、それなら私はアルマンド商会をダルシアで営んでおります。何かご用命あらば是非にお声掛けを」

「いやいや、キャシィやシルビアならいざ知らず、俺は素人なんで」

「いえ、昨日のニックを一蹴した腕前はかなりのものかと。出来ればこれからも良いお付き合いをして頂ければ」

「は、はあ…」

 見た所、アルマンドと言う男は金回りは良さそうだよな。着てる物も恐らくマジックアイテムっぽい。年は三十そこそこ、若いのに遣り手なんだろうか? そういやドナテラがドラゴンやヴァルダーゴーレムの素材は信用のおける商人に頼むのが良いとか言ってたな。人柄も悪く無さそうだし(少なくとも見た目は)ここは候補の一つにしておくか。

「分かりました。その時が来たら是非にでも」

 それをキャシィとシルビアがニコニコと見ている。あ~これはあれか、俺に人脈を付けてくれたのかな? その目は何だか子供でも見守る様な慈愛に満ちている。てかシルビアもだ。俺と同い年くらいだから! もとはそもそも三十男だしな。
 そしてこっそり俺に耳打ちして来る。てか丸見えなんですけど。

『貴方なら貴族の未亡人から引く手数多でしょう。一財産出来ますよ。私の知古のお客様にもお望みの方は星の数ほど。その気がおありになれば是非に』

 そしてウインクをして来た。
 殺気がエレンから
 それとキャシィとシルビアからはゴゴゴゴッと音が聞こえそうな位不穏な空気が溢れていた。
 うん、やっぱりエレンが一番怖いな。少しちびった。

 それを悟ったのかアルマンドさんは少し青い顔でじゃあと立ち去って行った。満タンのチャイが残されて。ゴチになります。

「そうか、俺も偉くなったもんだな」

「ゆう帝、どうしました」

 エレンが鬼の様な顔で俺を睨む。

「……いえ、若気の至りです」

「そうですか。残念ですわね」

 エレンは言葉遣いが丁寧な時こそが怖い。
 恐ろしい女だ。
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