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第4章 初まりの草原
041 陰に潜む者
しおりを挟む草原を駆け抜ける一陣の風
フェンリルの背に乗り、俺達はレイブンの導きに従い、炎の牙の元へと急いだ。
因みに俺は全力で走ってる。
スレイプニルブーツの全力を確かめてるんだが、正に羽根の生えたって感じだよな。殆ど身体の重さを感じる事は無かった。それをキャシィとシルビアが呆れ顔で見ている。
「……このフェンリルだって移動速度は相当なもんだよ」
「……マジックアイテムの力を借りているとは言え、驚くのを通り越して呆れます」
さすがバビロニア製だ。驚異と羨望の眼差しをゲットだわ。
『そもそも元になったスレイプニルが地上最速の魔獣ですからね~しかも壁や水面も走れる忍者タイプの移動能力が付与されるレアアイテムですから!』
ドヤ顔のオシリィ。
これぞマジックアイテムだな。
「ゆう帝! 見えてきました」
神の使徒の眼を持つエレンが叫ぶ。
場所は森の切れ間から数百メートル離れた丘の上だ。暗闇の中、人の争う声が響いて来る。
(業火のジャムルが苦戦してるのか?)
もしも優勢なら打ち手を考える必要があったのだが、豈図らんや、絶賛窮地の真っ只中の様だ。注視するその先で、悲鳴と共に人の形をしたものが十数メートル吹き飛んだ。そして巨大な陰が地響きと共にゆっくりと移動を始める。
(でかい! グリズリーやソードボアよりもでかいだって?)
しかも一匹では無い。
三メートル程の個体の中に、一際大きな五メートル近い奴が闊歩している。
「あれは、トロール!」
そうキャシィが叫んだ。
「森の巨人ですね。亜人、獣人、巨人の仲間です。そして周りにいるのは──コボルトです」
そうか、あの犬みたいなのがコボルトか。四つ足で走り回り、口に咥えたり背中に背負った槍や小剣を立ち上がって構えている。なんと二駆と四駆のハイブリットか。背丈は人の身長よりかなり低く見えるが、これは見た目より危険な相手じゃ無いのか?
『コボルトは個々の戦闘力には劣りますが、あの移動力と機動力が武器です。しかも警戒スキルを持つ者もいるから森や草原では厄介な相手なのです!』
あの業火のジャムルが苦戦するのか。群れは恐ろしく統率されている。周囲を取り巻き、包囲殲滅をねらっているのか?
「さらに増援、グレイウルフです」
エレンの言葉に周囲に視線を巡らすと、森の中からグレイウルフが飛び出して来た。
おかしい。移動速度があまりにもちがうし、種族が混じり合っている。
「キャシィ、こんな集団がよく発生するのか?」
「……少し変だ。魔獣が溢れる時はもっと騒乱ぽいから、こんな包囲なんて事はしないはずだけど」
俺達は一旦距離を置き、さらにその周囲を探った。もしも俺の予想に間違いなければ──
『ゆう帝! 森の外れに!』
オシリィが指し示す方向
森の陰に紛れる様に、人の様な姿が見える。
「あれか!」
そう。
そこに魔獣とは違う人影があった。
(彼奴が率いているのか?)
まだその判断は下せない。
炎のキバの元へ着くまでの間に、俺はキャシィとシルビアから手持ちスキルの確認を済ませてきた。
キャシィはやはり女盗賊/ローグだった。双剣を操り、鞭も使うらしい。一応はバックラーを装備し、胸当ては金属、小手は甲の部分と腕の一部が金属、具足は鞣革製だった。典型的な素早さを重視し手数で勝負するスタイルだ。
シルビアは魔道士/ソーサラーであり、魔法杖とローブで身を固めている。得意な系統は風魔術と幻術らしい。一部の精神魔術も使うらしい。護身用に飛剣を懐ろに隠し持っている。
数が多いこの状況なら、範囲攻撃呪文主体でいくのが望ましいだろう。
「シルビア、エレン、範囲攻撃呪文で一撃を加えてくれ。キャシィが前衛を頼む。フェンリルが壁にはるから、距離は遠目で牽制でも良いから先手を打ってくれ」
「分かったわ。でも、そんなに持たないわよ?」
キャシィは双剣を抜き、シルビアの前に歩み出しそう言った。溢れ出たモンスターは数百匹、コボルトとグレイウルフの移動速度は人のそれを遥かに凌駕している。つまり、殲滅するか逃げ出してくれない限り包囲網からの突破は困難になる。俺達は逃げ出せても炎の牙は奴等の腹の中に収まる事になるだろう。
「一撃は加えられますが、屠れる数はそんなに多くありません」
そう、いかな魔道士でも無限には魔法を行使出来る訳では無い。しかも接近戦なら魔弾や風弾に限られるだろう。
「敵の中に遠距離攻撃を出来そうな奴は居ない。フェンリルとエレンで距離を取らせる。その隙に削れるだけ削ってくれればいいよ」
ふぅ、今迄ゲームでしかモンスター討伐なんかした事は無いけど、どうやらこの世界のモンスターは地球のルールに非常に似通っている。お陰で対策が出来ない訳では無い。今の所、想像を超えるモンスターに遭遇することは無かった。
(一番のチートはこの知識かもな)
「エレン、死にそうな炎の牙に援護を。どうやらトロールは奴等にあてがわれる決戦兵器らしい。見事に狙われてるみたいだ」
遠目に見ても劣勢なのが分かる。
『トロールのレベルが高過ぎて盾役が機能していませんね~その所為で間合いが取れない上に、包囲されてしまい攻撃力が分散され、手も足も出なくなってます~』
どう考えてもテイマー職が付いている戦術だな。
それはあの隠れている男かどうかは分からないけど。
俺達は間合いを徐々に詰めながら、ゆっくりと修羅場に近付いていった。本来なら逃げて領主や冒険者ギルドにでも駆け込むのが正しいんだろうが、俺の直感が闘えと告げて来る。
「あの隠れてる奴を倒せば支配を抜け離散する可能性が高い。距離を取り、包囲されるなよ。まあ、せいぜい炎の牙には囮になって貰おうじゃないか」
俺はサッと闇に紛れる。
スレイプニルブーツに隠蔽効果がある訳では無いが、その性能により恐ろしく静かに移動出来る所為で、生命感知か魔法感知等のスキルを持たなければ、余程の手練れでも無い限り俺を事前に捉える事は出来ないだろう。さすが強くてNEWGAMEだけはある。
フェンリルに乗った三人が側面から、包囲されている炎の牙とモンスターの集団の中心から均等に距離を取るように接近し、配置に着いた。
PASSの繋がっているエレンに合図を送る。
『やれ!エレン!』『了解しました』
先制はシルビアだった。
「[サンダーブラスト]!」
射程ギリギリから放たれた雷撃がコボルトを十数匹吹き飛ばした。追加効果はスタンがあるその雷撃に、一斉にモンスター達がシルビアにターゲットを集めた。
そして、尖兵としてグレイウルフが十数匹群れの中から飛び出して来た。
(やはり見事に統率されている)
キャシィがソッと前に立ち、盾役を務める。しかし、女盗賊/ローグであるキャシィは完全なストッピング圧力をかけれる訳では無い。元が遊撃なのだから。
続けざまに放たれた雷撃がまた十数匹を吹き飛ばす。大気の焦げる匂い。風系では上位の魔法は盾や鎧を持たないモンスターには効果的な様だ。
しかし、数に勝るモンスターの集団は仲間の仇を討たんとその獰猛な牙をシルビアとキャシィに向けて来る。
そして十メートル近くにまで接近した時──その眼前にフェンリルとエレンが飛び出した。
唸り声を上げ、フェンリルがその爪をグレイウルフに放った。
一振りで二、三匹のグレイウルフが肉塊に変えられていく。フェンリルは狼系の最上位モンスターだ。まともにやり合えば勝てる道理は無い。必死に迂回して後方のシルビアを襲おうとするが、そこにエレンが飛び出す。
「ここは通しません」
スカートの中から+2バスターソードと+1スピアを取り出し、エレンが恒例となっている両手持ち武器を片手で二刀流する弁慶アタックを繰り出した。
唖然とするシルビアとキャシィ
「……何なの」
「まるで草刈りでもしてるみたい」
群れればランクが一つ上がる集団戦を得意とするグレイウルフとは言え、武神の加護を得たバトルメイドの敵では無いようだ。
本当にいい笑顔で吹き飛ばし捲っている。ギャウンッと言う意外に可愛らしいひめいで肉塊に変えられていくグレイウルフ。
「本当に嬉しそうで良かった」
呆然とする炎の牙
だが目の前に迫るトロールとその上位種を相手取るのに精一杯の様だ。
(ジャムルが居ても勝てんか?)
だが暫くは持つだろう。
それでも数百匹は多過ぎる。増援の可能性も有るのだ。その均衡は一時的な物だろう。
「さて、コソコソと隠れている奴にご挨拶といこうか」
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