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第3章 魔の森

033 一路街へ!

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 翌日、俺とエレンは街への道を教わり、一路辺境一の街と言われるダルシアを目指す為にエルフの館を立つ事にした。

「ゆう帝、また来てね!絶対よ!」
「忘れたら許さないからな!」

 そう言う二人に抱きつかれていた。いやあ、フカフカだね。さすがハーフエルフ、一味違うよ。少しエレンの視線が怖いけど。
 あの後、二人から色々教えて貰い、ドラゴンとヴァルダーゴーレムの素材の売買は控えた方が良いと指摘された。どうやらかなりレアな商品らしく、信頼出来る商人に密かに市場に流して貰うのが一番良いらしい。高価だが買える人が限られる素材らしいから、慎重に処理する事を進められた。
 一応、もしもの時に備え商業ギルドと冒険者ギルドの信頼のおける人物を教えて貰えた。
 どうやらこの二人、その街にも余り関わりたく無いらしい。どうやら余罪が有りそうだ。二人の研究も関係しているらしいが

「その秘密は次に会えたら教えるわ」

 そうドナテラは笑った。
 黙ってれば美人だけどな~~暴走するとただのエロエルフだからな。
 ソフィアは本当に泣きそうな顔をしている。その手の黒い呪紋の所為か、俺に特別な感情を持っているのかも知れない。
 エルフの里を出た理由もそれに関係していそうだが、今は俺もただの通りすがりでしか無い。もう一度此処に来る事があれば、話す事も有るだろうな。
 そして、ドナテラは俺に愛用だったと言うマジックアイテムをくれた。

 それは六角形をした盾
 だが大きさは小さい。
 バックラーと言うのが正しいのだろうか?

「それはエイジスの盾と言われる防御用のマジックアイテムよ。どうせゆう帝は魔法が使えないでしょ?それは魔力を使い、身体の周りを浮遊させる特別な盾なの。一つの時は指向性を持った絶対防御、六つに分かれば全周防御が選べるのよ。ゆう帝みたいに両手武器を持つなら重宝するわよ?応用でグループ防御も出来るし、ぶつけてノックバックも可能なんだから!ただし、魔力消費量はかなり多めだから、エレンの破砕の鉄球を使う時はすぐ魔力切れを起こすから気を付けてね」

【エイジスの盾】

 何気に高性能だ。
 よく考えたら俺は盾系の物理防御が手薄だったから大変助かる。
 これで多少ぶつかり合いに自信が持てるな。したくは無いけど。
 あと幾つかの魔術に関する書物と道具を分けて貰えた。
 お礼にヴァルダーゴーレムとサーバントウルフを三体づつ上げたらびっくりしてたけど、まだ唸るほどあるからな。これも先行投資としておこう。

 何度か盾の展開をして感触を確かめた後、俺とエレンはエルフの館を後にした。

 二人は何時までも俺達を見送り、ふと振り返った時、館のあった場所が唯の森に変わっていた。

 エレンはドナテラから授かったエルフの御守りをジッと見つめ、俺にこう言った。

【エルフの御守り】

「エルフの結界が働いたのです。また立ち寄れば今度は招かれる事でしょうね。このエルフの御守りは特別な者にしか授けられる事の無い約束の証しですから」
 
「……そうだな」

 俺達には俺達の目的が有り、それはドナテラやソフィアでも同じ事だ。そして幾つかの貴重なマジックアイテムも与えられた。
 だが

「……エレン、最後に預かった荷物はもしや……」

 するとエレンは俺から視線を逸らした。間違い無い。きっとあの荷物は──
「……ゆう帝には似合うと思います」

 そう言ってエレンは森の中を一路街に向かって歩き始めた。

「……もう着ないからな!」

 見た目は美少年でも心はおっさんだから!絶対無理!パンツの履心地は抜群だったから許す!ローライズは少し気になるけどな。

「……ゆう帝、貴方は無理矢理が好きなんですね?」
「!!! お、脅す気か!」

 だが、瞬間的な破壊力は今はエレンの方が上っぽい。
 おのれ……この盾…いや無理か。

「……お手柔らかにお願いします」
「大変よく出来ました」

 こうして俺とエレンの冒険はその舞台を魔の森から辺境一の街に移る──と言いたいが、ここからまだ五日は掛かるらしい。
 どんだけ広いんだよ!
 殆ど樹海のレベルだよこれは!

『取り敢えずコシリィ部隊を前衛に展開しております!まあ、素材を集めながらのんびり行きましょう。ドラゴンとヴァルダーゴーレムを売却するのを遅らせるなら、それ以外の売り物も欲しいですからね~』

「それもそうだな」

「魔の森を抜けてもそこからまだ距離があるようですので、幾らかでも回収したいですね」

「う~~む、それはその通り、なるべく金になりそうな魔獣を襲おう」

 そう言って俺とエレンはオシリィとコシリィの前衛の力を利用し、道無き道を進んだ。

 およそ数百メートルの索敵エリアを前方展開し、発見したらそこへ突撃をかける戦法だ。そしてやばそうなら回避すれば良い。俺とエレンは一撃の最大火力はあるが、長期戦には弱い。無理は禁物だよな。スマートウォッチの広報の為にも、先ずは街へ!後はそれからだよ。
 魔の森を抜けると、街への途中に幾つか村もあるらしいから、そこで情報を集めつつ、ダルシアを拠点にするのが一番だよな。
 そして白黒エルフと猫耳メイドをこの手に──

『妄想中申し訳ございませんがお客様です』
「!!! …………はははっ!ま、任せてよ!」

 その時エレンは「はぁ…」と深い溜息を吐いた。
 一応俺も男だから!
 夢を見るのも大切なんだから!

 そんな目で見ないでね。
 刺すような視線が何となく気持ち良く──なら無いな。

 ◇

『大イノシシです!ソードボアかと思われます!』

 ソードボア……殆どトラック並みの大きさか。

『肉も素材も魔石も貴重品です!狙い目ですよ』

 俺とエレンは発見したコシリィに導かれ、丁度背後を取れる様に回り込んでいた。
 そして茂みから様子を探っている。

「周囲に他の魔獣は見当たら無いな」

 よし、攻撃開始だ!

「エレン、先制攻撃を頼む!」

「お任せ下さい」

 エレンはスカートから+1スピアを取り出し、魔力を込めて行く。
 俺が配置に着くのを確認して、その+1スピアを、ソードボアへと放った!
 魔力を込められた+1スピアは森の大気を切り裂き、ソードボアへと迫る。
 その時、+1スピアとは別の方位から俺は奇襲をかけるべくスレイプニルブーツを使い樹々を巧みに利用しながらソードボアに迫った。
 そして
 ドズンッ!
「ブモモモモモオオオッ!」
 直撃を受けたソードボアが怒りの咆哮を上げる。だが一瞬怯むが、直ぐに襲われた方を睨み、反撃に転じるその瞬間──直上から俺のドラッケンがその無防備な背後を斬り裂く!
 ザグンッ!とその分厚い肉の鎧に刃が喰い込み、深く骨を断った。

「手応えはあった!」

「ウボオオオオッ!」

 苦しみに我を忘れ暴れるソードボアは、流石に魔の森に巣食う魔獣らしく、それでも俺を見つけ反撃を試みるべく、襲い掛かって来た。
 この森の魔獣は総じて大きく、圧倒的な生命力を盾に物理攻撃を主体とした攻めが殆どだ。

「お前は強いよ……でも俺には勝て無いぜ」

 ドラッケンを構え、ソードボアを迎え撃つ。
 その一メートル近い刀の様な牙を俺に突き立て斬り裂くべく踊り掛かるソードボアを、俺はほんの少しだけ体をずらし、そのままカウンターとなる斬撃を柔らかな下腹へと放った。
 肉を斬り裂く手応えと、零れ落ちるハラワタの感触だけが両手に残る。
 ドラッケンの最大加重が鋼の様な体毛を斬り裂き、分厚い肉の鎧を再び両断した。

「ブオオ…オオオ…」

 それでもなおソードボアは諦めない。

「……さすがは森の王者といったところか?」

 この森ではグリズリーとこのソードボアが魔獣の頂点なのだろう。その巨体に溜め込まれた魔力は相当なものだ。自然回復する恐るべき生命力は生半可な冒険者を幾たびも屠って来たのだろう。牙や毛皮に付いた傷がそれを物語っている──が、今日は俺の勝ちだ。

 俺は最後にブルンッとドラッケンを振るい、それでも立ち上がろうとしているソードボアの──首を刎ねた。
 飛び散る鮮血
 骨を断つ感触がドラッケンから伝わって来る。
 魔獣とはいえ、生き物に変わりはない。その命を奪い、自らの糧にする事に、都会育ちの俺はやはり少し感慨深いものがある。

『ソードボアは人気の素材でこちらもドラゴンの様に捨てる所無し!普通車一台分はしますね』
「もう二、三匹狩っとこうか」


 この森は魔獣とはいえ動物からの変化が主体らしく、グレイウルフ、ソードボア、ブラウンベアなどが多いが、大シカや大イタチ、大ムササビなどもかなりが生息している。
 豊かな森なのは間違いないらしい。
 俺は狩れるだけ狩って森を抜けるべく一路南に向かっていたが、四日目に、あともう数十キロで最初の村に辿り着くその時、俺はその魔獣と遭遇した。それは巨大な山猿の群れだった。


「囲まれたか」

「……そのようですね」

『凡そ百メートル四方に八十匹程の群れがこちらを伺ってます~』

「ちっ!最後の最後に」

 そう、もう殆ど魔の森の領域を俺達は抜け出していた。

『グリーンエイプ、猿の癖に武器を使う奴もいる、森の中では危険な相手です~~しかしこんな群れがあるなんて? これはもしや──』
「ゆう帝、希少種、もしくは上位種が率いてるかもしれません。油断は出来ませんよ」

「……希少種か…上位種…………」

 俺は徐々に狭まる包囲網の中、魔獣の潜む森をジッと見つめ、ZuWatchからドラッケンを引き出し、その群れを率いる存在を探った。
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